OpenStack Summit Tokyoキーノート2日目、今年最も活発だったプロジェクトとは?
2日目のキーノートの報告です。OpenStack Foundationのキーノートは、1日目がJonathan Bryce、2日目がCOOのMark Collierというのが恒例です。今回もいつもと同じく、Markが登壇しました。Markは最初に、Summitに来ると新しい出会いがある、という話をしました。今はOpenStack Summitのセッションは、Design Summitを除けば、ほぼYouTubeで見ることができます。内容を知るだけであればそれを見ればよいという話になります。ですが、Summitに実際に来て、実際に会場の熱気を感じ、Face-to-Faceで会うことで、新たな出会いや気づき、関係を築くことができます。それがOpenStack Summitの大きな目的であり、半年に一度、世界中から人が集まってくるのもそのためと言えるでしょう。
さて、Markのプレゼンでは、前回(バンクーバー)はコンテナにフォーカスを当てて、Magnum、Muranoをとりあげましたが、今回はNeutronでした、ここ一年間で最も活発なOpenStackプロジェクトはNeutronであり、1年前のユーザサーベイでは69%だった本番環境でのNeutron採用率が、今回89%と大きく上がりました。この数字の増加は、OpenStackコミュニティの中でも驚く人が多かったようです。OpenStackでは長年nova-networkとNeutronという2つのネットワーク実装が併存して来ました。nova-networkは、OpenStackの初期から存在し、シンプルなネットワーク構成のみにフォーカスしています。これに対してSDNを使い複雑なネットワーク構成を可能にしたのがNeutronです。ちなみにプロジェクトの当初はQuantumと呼ばれていました。しかし、Neutronの構成は複雑だという意見があり、シンプルなネットワークで足りるユーザはnova-networkを使い続けているという状態がしばらく続いていました。これに対して、コミュニティメンバーやOpenStack Foundationの協力により、nova-networkはdeprecated(廃止予定)とし、Neutronに移行するように推奨してきました。その成果が出てきたと思われます。
Neutronのトピックとして、NFV(Network Function Virtualization)におけるSDNの重要性を説明しました。NFVによって、テレコムユーザのCAPEX、OPEXが7割近く削減され、新サービスの導入までの時間も、15か月から6か月に削減されるという数字を示しました。Neutronではこのようなテレコムユーザからの要件を受けて、Libertyリリースで、RBAC(Role Based Access Control)、IPAM(IP Address Management)、QoSを強化したことを紹介しました。RBACにより、役割(Role)に応じて細かくネットワークの操作を制限することができるようになります。IPAMでは、既存のIPAMをそのまま使い続けることができるため、既存システムとの混在や、IPアドレスに制限のあるシステムに対応しやすくなります。
続いてNeutronの前PTL(Project Team Lead)であるKyle Mesteryが登壇。Neutron開発の歴史を紹介した後、新プロジェクトKuryrを紹介しました。KuryrはDockerのネットワークライブラリlibnetworkをNeutronと連携させるためのコンポーネントで、今後のコンテナ上のSDN利用を加速するものと期待されています。Kuryrの開発にはミドクラが積極的に関わっているとのことです。さらにデモにチャレンジしましたが、運の悪いことにデモは失敗してしまいました。Kuryrを使ってDockerコンテナにネットワークを接続するデモだったようですが、Dockerコンテナの起動に失敗をしたようです。どのようなデモをしたかったかは、https://t.co/8cv3q2OrXUにビデオがあります。
次に、NTT Resonant取締役の西山氏が登壇。昨日のNTTグループのSuperuser Award受賞についての謝辞の後、同社でのOpenStack活用とビジネス上のメリットを紹介しました。OpenStack採用の理由として、ビジネスオペレーションの加速、コスト削減、NTTグループの技術革新の3点を挙げ、OpenStack導入によりデリバリ/デプロイ時間が3ヶ月から2週間に短縮し、サービス開発チームからの要求に迅速に対応可能になったとのことです。今後の計画として、Mitakaへのアップグレード、ハードウェアロードバランサーとNeutronのLBaaSとの連携、Ceph検証、vDCの実現に向けた検証を予定しているとのことです。
Rackspace SVPのScott Crenshaw、上級アーキテクトのAdrian Ottoが登壇。Intelとの協業によるOpenStack Innovation Centerを紹介。コミュニティの開発用に1000ノードクラスタ2セットを提供する計画とのことです。また、同社の新コンテナサービスCarinaを紹介。このプレゼンで公表し、無料で提供するとのことです(https://getcarina.com/)。Adrianの10歳の息子がCarinaにアクセスしてコンテナを起動するビデオを紹介し、簡単に利用できることをアピールしました。
コンテナの事例ではPanteonを紹介。120万コンテナを同サービス上で実行しているとのことです。OpenStackとしてはMagnumのバックエンドにDocker Swarm、Kubernetes、Mesosが利用可能となったと紹介をしていました。
SKテレコム SVPのKang-Won Leeが登壇。SKテレコムは韓国のモバイルテレコムでトップシェアを持つ企業(SKはサンギョンという古いグループ名に由来しているとのこと)。次世代の5Gネットワークについて紹介。4Gに比べて低遅延、高スループットで、3D、ゲーム、3D、ゲーム、ビデオストリーミング等の利用を見込んでいるとのことです。同時にIoTが普及し、これを支えるためにネットワークのQoSも今とは違う形になります。QoS仮想化・プログラマブル、柔軟等の特長を持つ仮想ネットワークスライスで実現されます。同社は、5G基盤をIT+NWの集約と位置づけ、SDNとOpenStackをはじめとするSDIで実現する予定です。「5Gはいつから使えるようになるのか」という質問に対して、2020年に本格商用化する予定とのことでした。
楽天はExecutive Officerの佐藤氏とTechnical Leadの佐々木氏が登壇。楽天ではOpenStackを今年本番環境での利用を開始しました。構成はNeutronはVLAN(OVS)だがSDNを検討中、Cinderも検討中とのことでした。皆が参加するというのがオープンソースの理念と考えており、今後OpenStackコミュニティに貢献していく予定だそうです。
サイバーエージェントはクラウドアーキテクトの長谷川氏が登壇。OpenStackはFolsomリリースの頃から使っており、ダイアナと呼ばれる14,000コアの同社最大環境はJunoリリースベースです。今後、最新安定版のLibertyリリースや次期開発版のMitakaリリースの利用や、NeutronのL3エージェント(仮想ルータ機能)を利用していきたいとのことでした。
IBMはCloud Architecture&TechnologyのVPであるAngel Diaz氏、Blue Box CTOのJesse Proudman氏が登壇。軽快なやりとりで同社のSoftLayerとBlue Boxを紹介し、その中でのOpenStack利用について「普遍的なIaaSをOpenStackで作れるかという疑問があったが、問題なかった」と語りました。その後、ケミカルライトを使用して聴衆とステージが一緒に盛り上がって、キーノートは終了しました。
2日目のキーノートを振り返ると、OpenStackが全般的にはクラウドを大規模で運用するのに必要な機能が充実して来ている中で、コンテナとネットワーク(SDN・NFV)がホットな領域として注目を集めている様子が見えます。Neutronについては、nova-networkとの併存が長らく課題としてありましたが、Neutronの採用が大きく進んだことが公表され、OpenStackのネットワークはNeutronだとはっきり言えるようになったのが大きいと思われます。2日間を通して、事例は全体的には規模の大きいWebサービス企業が目立ちました。採用事例も増え、OpenStackが規模が大きくなっても普通に使えるようになって来ていることを改めて感じました。今後は、エンタープライズ事例やデータセンターにまたがる事例なども多く出てくることを期待したいと思います。
2回に分けてキーノートの様子を報告しましたが、次回以降では、OpenStack Summit Tokyoを通じて見えた全体動向や、Design Summitの議論を踏まえた主要コンポーネントの今後の技術動向などを報告したいと思います。
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