情報処理技術者試験は、「日本のIT企業に勤める」ための試験(第3回)
「試験に受かったら、資格手当が出るんだって!」
「二種に受かったら月5,000円、一種に受かったら月10,000円の資格手当が出ます。」
これは、私が新卒の時に入った時の会社に、内定時に言われた言葉です。どちらも情報処理技術者試験の基本的な資格で、二種は第二種情報処理技術者試験(今の基本情報技術者試験に相当)、一種は第一種情報処理技術者試験(今の応用情報技術者試験に相当)です。
学生時代にこれを聞いて、「試験に受かったら、資格手当で給料が増えるの!?」と大喜びで勉強を始め、その後の試験合格につながっていきました。
お金目当てであまり考えずに始めた試験勉強でしたが、ふり返ってみるとその後の仕事にいろいろ役立ちましたし、勉強していて良かったと感じることも数多くありました。
日本のIT企業では、情報処理技術者試験をキャリアパスの一つと捉え、資格手当を出したり昇進の条件としたりして、学習することを推奨しているところが多くあります。他のベンダ資格を奨励することもありますが、奨励している企業の数としては情報処理技術者試験が圧倒的に多いのです。
これは、情報処理技術者試験の性質によるところが大きいと考えられます。今まで企業の人事担当の方や会社の経営者、IT企業に勤める方などに聞いた、情報処理技術者試験を重視する理由には、次の3つがあります。
- IT全分野についての、普遍的な基礎力が身につく
- 会社が公共の仕事を請け負う場合に役に立つ
- その職種に向いているどうかの適性検査として使える
それぞれについて、その内容を見ていきましょう。
1.IT全分野についての、普遍的な基礎力が身につく
前回の記事でも書きましたが、IT技術は、今までの技術の積み重ねで、新しいモノを作り出していきます。そのため、基本の技術をしっかり学ぶことが、新技術を活用する上でも大切です。
そのため、『10年経っても変わらない基本』となる、コンピュータの基礎理論やコンピュータシステムなどIT全般の基礎を学んでおく必要がありますが、そのために一番適当な試験が、国家試験である情報処理技術者試験となります。
情報処理技術者試験の内容には、大学や専門学校で情報学を専攻した学生が学ぶようなことが多く含まれています。そのため、大学などで学ぶ代わりに情報処理技術者試験の勉強をすることで、基礎的な内容を幅広く学習することが可能になります。私自身も、ITとは関係のない学部の出身だったので、最初のとっかかりとして基本情報技術者試験の内容を勉強したことで、基礎的な内容をかなりカバーすることができました。
また、情報処理技術者試験は、いきなり難しいことを学習するわけではなく、レベル1のITパスポート試験、レベル2の基本情報技術者試験、レベル3の応用情報技術者試験と徐々にステップアップしていくことができます。そのため、少しずつ無理なく実力をつけていくことが可能です。
IT業界で働く技術者なら誰もが知っておいた方がいい、そういった広範囲の内容を基礎からそれなりに深くまで、ひととおり学べるのが、情報処理技術者試験なのです。
2.会社が公共の仕事を請け負う場合に役に立つ
企業が情報処理技術者試験を社員に推奨する時には、社員のスキルアップが目的ということが一番多いです。ただ、それ以外の実利的な面で、「社員に取らせたい」と考えている企業も時々あります。特に、官公庁関連の仕事を請け負う企業では、入札条件に資格が含まれていることがありますので、取ることが必須となります。
具体的には、「情報セキュリティを確保するため、情報セキュリティスペシャリスト保持者を必ず1名配置すること」、「プロジェクトには必ずプロジェクトマネージャの有資格者を置くこと」などが、仕事をする上での条件となっていることが多いのです。そのため、必要となる資格に資格手当をつける、就業時間中に研修を行って学習させるなど、合格者を増やすための工夫を行っている企業も多くあります。
ただ、情報処理技術者試験が有効なのは、官公庁や日本の会社などの組織に限られます。日本で行われる日本語の国家試験なので、外国を相手に仕事をする場合や、不特定多数の人に向けてのサービスを提供する場合などには、あまり重視されません。私自身も、最初に転職した会社は外資系でしたが、そこでは情報処理技術者試験の優遇などは一切ありませんでした。
そのため、実利的な面では、「日本のIT企業」に就職または転職する場合に限り、役に立つ資格であると言えます。
3.その職種に向いているどうかの適性検査として使える
第1回の連載記事でもお話ししましたが、資格試験の勉強には、人によって向き不向きがあります。どんな人でも勉強しさえすれば合格するという資格ばかりではありません。情報処理技術者試験も例外ではなく、上級資格になればなるほど、試験の内容に向いているかどうかが合否に大きく影響してきます。
そのため、企業が人材育成を行う際にも、試験を用いて適性を判断することがあります。適性の判断に特に使われるのは、基本情報技術者試験と応用情報技術者試験の2つです。実際に私が研修で関わった例では、「基本情報技術者試験にどうしても受からない」開発職の社員を配置転換するために、最後のチャンスとして手厚い研修を受けさせる、ということがありました。
逆に、学生などが就職する時に、基本情報技術者試験に合格していることを伝えると、企業では「最低限の適性がある」と判断するそうです。そのため、学生のうちにチャレンジして合格しておくことは、その後のキャリアを形成していくうえでとても役に立ちます。
一見役立たないように見えても、ひととおり学習することが大切
今まで見てきたとおり、日本のIT企業に就職して勤めるには、情報処理技術者試験はとても役に立つ資格です。特に、大手企業では情報処理技術者試験を採用しているところが多いので、安定してIT関連の仕事を行いたい、と考えている方には、実利的にも内容的にもおすすめです。
情報処理技術者試験は、基礎理論や概要的なことが多く、一見すると業務に直接役立たないように見えることもいろいろあります。でも、全般的な知識を身につけることは、スキルアップには不可欠ですし、身につけておくと、役に立つ場面は意外と多いのです。
はじめの一歩として、とりあえず学習を始めてみましょう。
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