連載 :
インタビュー抑えておきたいPythonの基礎をがっちり理解できる本 ー『徹底攻略Python3 エンジニア認定[基礎試験]問題集』執筆者インタビュー
2023年6月7日(水)
Pythonエンジニアの育成を目的とした、一般社団法人Pythonエンジニア育成推進協会の主要メンバーにPythonエンジニアの認定試験について、また2023年3月9日に出版された『徹底攻略Python3 エンジニア認定[基礎試験]問題集』を執筆した株式会社ビープラウド(以下、ビープラウド)のメンバーに、お話を聞きました。
Q:まず資格についてお伺いします。概要と傾向、受験者数について教えてください。
- 吉政:Python試験は、とデータ分析試験、それとは別に実践試験の3つを実施しています。またPythonのお作法である「Pythonic」と「PythonZen」の普及を目的とした「PythonZen & PEP 8検定」という無料の試験も実施しています。この4つを合わせると、年間15,000人くらいに受験いただいています。
基礎試験では、Pythonの基礎レベルの文法に関することを出題しています。教科書はもともとオライリーの『Pythonチュートリアル』のみでしたが、この書籍はあくまでチュートリアルなので、学ぶことには適していませんでした。そこで今回、「抑えておきたいPythonの基礎をしっかり学べる問題集」をテーマに『徹底攻略Python3 エンジニア認定[基礎試験]問題集』をビープラウドに執筆いただき、無事、出版できました。
Q:どのような方が受験されているのですか。
- 吉政:Python試験の受験者は、他のプログラミング言語の資格試験と少し違うところがありまして、エンジニアだけではなく、マーケッターや未経験の方などの非エンジニアの方が多い印象があります。また、学生の方が極めて多いというところも特徴です。他の認定試験では非エンジニアの方の受験が全体の10%くらいで、学生の方の受験は5%に満たないぐらいですが、Pythonの試験では非エンジニアの方の受験が40%くらいで、学生の方が20%前後になっています。
Q:Python試験は就職やリスキリングに強いということでしょうか。
- 吉政:そうですね。プログラミングを学びたいという方もいらっしゃいます。比率は分かりませんが、小学生や中学生で合格体験記を書かれている方もいます。キッズ系の学校さんとの打ち合わせもあります。人工知能やビッグデータなどの話も絡んでいるので、将来性があるということでPythonの名前を挙げる方が結構多いのではないかと思います。また、リスキリングという観点で中高年の未経験の方も結構多いです。
Q:試験別に想定される職業や仕事内容はあるのでしょうか。
- 寺田:基礎試験は一番ベーシックなPythonの文法を理解できているかをチェックするレベルなので、この資格を取ったからと言って、Pythonエンジニアとして即戦力になるとは思っていません。しかしながら、Pythonが良く普及しているAIやデータ分析、自動化、Web等の分野の技術者を目指す方は、Pythonの基礎を理解しておいた方が良いと思うので、まずはこの書籍を活用いただき、Pythonの基礎文法を学習されることをお勧めします。
一方で、AIやデータ分析、自動化、WebなどPythonが良く使われている分野の開発や運用の仕事もそうですが、各現場の業務知見やノウハウとPythonなどのIT系の技術の両方を理解しておく必要があるため、Python基礎試験で全てを計ることは難しいと思っています。そこで、当協会はデータ分析試験をリリースしました。この試験はPythonの基礎とデータ分析系のよく使われるツールについて出題します。データ分析試験に合格することで、データ分析に関する理解度のレベルが分かります。また、会社内のデータ分析の人材を評価をする立場の方々に判断材料として使ってもらっています。
もう1つ、昨年11月にPythonの実践試験(Pythonの実践試験「Python3 エンジニア認定実践試験」を始めました。これはもう一歩踏み込んでおり、Pythonを普段から使っている人やPythonの実装と仕様にそれなりに自信を持っている人でないと、なかなか合格できないのではないかというレベルです。仕事に繋がるかというよりは、持っていることによって自信がつき、それだけのレベル感を認定するというものになっています。実践試験はPythonの仕様全般の把握が必要な試験になっていますので、Pythonエンジニアとしてエキスパートを目指される方は、まずはこの書籍で基礎文法を学び、試験合格を狙ってください。そして、その後にPython実践試験のための学習をされるのが良いと思います。AIやデータ分析のエキスパートを目指す方は、Pythonを言語仕様をそこまで詳しく知っておく必要はないと思いますので、この書籍を活用いただき、Python基礎試験に合格いただいたのちに、データ分析試験やデータ分析実践試験(2024年開始目標)の合格を目指されるのが容易と思います。
Q:昨年11月に新しい認定実践試験を開始したというお話しでしたが、どのような背景があったのでしょうか。
- 寺田:現行の基礎試験だけだと初心者レベルのため、もう一歩上のレベルの実力を計りたいという要望が非常に多くありました。その中で、どのようなレベル感でいくかということは、我々の中でもかなり議論をしてきました。今導き出しているのはPythonの基本的な仕様の一歩深いところと、標準ライブラリの中でよく使われているツールをしっかり理解しているということにフォーカスしようとなり、そのための試験を作りました。
Q:初めてプログラミング言語を学ぶ際に、まずPythonから取り組むのが良いのでしょうか。
- 寺田:未経験でプログラミング言語を学びたいという場合は、Pythonを有力な選択肢にして良いと思っています。Pythonは比較的仕様が安定していて、Python3が出てからもう10年くらいになりますが、基本的な下位互換性を保ったまま進化して仕様的にも安定しています。そういう意味では学んでおいて損はありません。また、Pythonは一時的な流行りではないという点、応用範囲が広いという点で多方面に適用できるので、何も決まっていないならまずPythonを学べば良いと思います。
一方で、ゲームを作りたいとか、Webのフロント系など既に何か目的がある場合は、それに合ったプログラミング言語は必ずあるので、そちらを学ぶほうが良いですね。
Q:今まで他の言語を勉強している人が「Pythonを勉強しよう」と考えたとき、良い学び方はありますか。
- 寺田:基礎試験の主教材と言われる『Pythonチュートリアル』(オライリー・ジャパン刊)は、公式ドキュメントのPythonチュートリアルを翻訳したものです。他の言語の経験があれば、まずこのチュートリアルをひと通り試すのが良いのではと思います。他の言語のレベル感やプログラミングの理解度にもよりますが、私もなるべく他の言語を学ぶときはチュートリアルから始めるようにしています。Pythonチュートリアルは、Webで無料でも公開されています。
Q:ここから、3/9に出版された問題集の話題に移ります。この書籍を執筆する上で、意識したことを教えてください。
- 横山:この問題集自体は、先ほどのお話しにもあった『Pythonチュートリアル』と公式ドキュメントから内容が外れないように、かつ、読んだだけで分かるぐらいの「簡単すぎず、難しすぎない」設問を考えるところに注力しました。私も斎藤(共著者)も「問題を作る」というのは初めての経験だったので、特に誤った選択肢を考えるときは、パッと見て明らかに間違いだと分かるかわからないくらいのちょうど良い設問を考えることが難しかったです。
Python基礎試験はCBT方式というコンピューター試験で、いつでも受けられますが、試験問題は公開されていません。4択などの出題形式と「チュートリアルのこの章から何%」という出題比率が公開されています。これから受験される方が、この書籍を読むことで、本番の試験問題のイメージがしやすいように、出題形式や出題比率を本番試験にあわせて模擬問題を作りました。
Q:「難しすぎない」「簡単すぎない」という判断は、どのように行なっているのでしょうか。
- 横山:問題を作って、その問題を執筆者や協会メンバーでお互いにレビューし合ったり、社内の他のメンバーにレビューしてもらうこともありました。あとは、執筆中になるべくPythonチュートリアルに書いていないことや、チュートリアルからは、そこまで読み取れないという内容はまず外していこう、ということはありました。
Q:さまざまな角度から問題を作成されたと思いますが、 自分なりの角度から作成した問題もありますか。
- 横山:例えば「第3章から出る問題数が多い」ということがあれば、対象になるPythonの文法に対して1つではなく2つくらい問題文を考える、といったように対策できる問題を考えていました。また、全13章ある中で、最後の13章が模擬試験になっているのですが、その模擬試験は本番と同じ問題数で、本番と同じ比率で出るようなものを作って、本番の感覚を味わえるような感じにしています。
- 寺田:私は監修役として参加していたのですが、問題と解説を見て「すごいな」と思ったのは、Pythonを学ぶ上でどうしても教えておきたいことを解説するために、あえて間違いの選択肢を入れていることです。
これは、問題を作る以上の苦労だったと思います。例えばリストの操作という問題があったときに「この辺が間違いやすいから」「この辺を教えておきたいから」という理由で、あえて間違いの選択肢を入れておき、あとでしっかり解説することで、より理解が進むと思います。 - 横山:参考にした他の言語の試験の参考書にも解説用の間違いが用意されていたので、それを踏襲して、今回Python試験の問題集を書くに当たっても、ただの間違いではなく「解説を読むことでより理解が深まるような選択肢」を意識しました。
資料として提供いただいたPHPの問題集で間違った選択肢の解説をしていたので「なぜこれが正解なのかを説明するだけでなく、なぜこれが間違いなのかを説明しなければいけない」というのが、何となく方向性として分かってきた感じでした。
Q:これまでお話しいただいた以外で、苦労したことや印象に残ったことなど、ありましたか。
- 斎藤:どのようなことに注意したかというと、本書の対象読者は、Pythonを知らない人がチュートリアルで勉強した後に、自分の実力を確認できるようなものを考えています。弊社では企業向けの研修を行なっていますが、実際に毎年新入社員が研修を受けて、その後試験を受けている会社さんがあります。だいたい数週間か1カ月ぐらいPythonを勉強して、ほとんどの方が合格しています。
Pythonの試験はそれほど難しくないのですが、勉強中は「どこまで勉強すれば試験に合格できるレベルになるのか」は分からないと思うのです。そういうときに、本書のような問題集で「70%取れたら合格」というのは決まっているので、似たような問題をこなして、実際に80%できたという自信を持ってもらうために使ってほしいなと考えて書いていました。 - 横山:Pythonチュートリアル自体が他のプログラミング言語を経験してからPythonを始めようとする人のために書かれているドキュメントなので、初学者では挫折しかねません。そういうとき、これから資格を取ろうという方がPythonチュートリアルの書籍やWeb版に目を通したら、結構分からないとなってしまうと思います。
なので、まず資格を取ることを目標として見つけてもらえれば、問題集と対応するチュートリアルの章をお互い比較しながら進められるので、そのための足がかりになるようなものになっているのかなと思います。
Q:では、経験者のお2人から、これからPythonを勉強したいと思っている人に、Pythonを学ぶことのメリットやポイントがあれば教えてください。
- 斎藤:私がPythonを始めたのも、この理由が大きいのですが、Pythonから呼べるライブラリは、おそらくプログラミング言語の中で一番多いのではないかなと思います。そうすると、それらを使えば、Pythonだけでできなくても、それらを繋げば何でも…というと言いすぎですが、いろいろなことができるので、そういう楽しみを見つけてほしいです。
- 横山:Pythonは趣味でプログラミングをするような使い方などもできるので、Pythonを1つを覚えておくと、いろいろなシーンで自動化もできますし、仕事でWeb開発や機械学習、データ分析など、幅広く使えるところが魅力かなと思います。
大変貴重なお話し、ありがとうございました!
* * * * *
今回、Pythonのエンジニアを育成することに熱意を持っておられる方々のお話を聞くことができて、とても興味深い経験ができました。どのプログラミング言語でも、学習するには一定の時間と労力が必要になりますが、遠回りせずかつ効率良く修得するために、このような問題集を活用することで近道になるように感じました。
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