「副業を始めたい」と思うなら、自分から声を上げて動き出すこと
さる3月19日(月)、東京・日本橋のサイボウズ東京オフィスで「エンジニア副業Night #1〜「個」の時代の新しいキャリアの作り方〜」が開催された。政府の働き方改革などを背景に副業を解禁する企業が増える中、ITエンジニアの間にもインターネットやSNSなどを活用した副業・複業を始める人が続々と現れつつある。サイボウズ株式会社とファインディ株式会社の主催による今回の催しでは、3人の副業経験者がそれぞれの体験を基に「副業のススメ」を紹介。またセッション後には参加者によるライトニングトークや懇親会も行われ、改めて副業に対するエンジニアの関心の高さを感じさせる場となった。
イベントの目的は「自分の副業のあり方を模索すること」
セッション開始に先だち、司会者として挨拶に立ったファインディ株式会社CTOの佐藤 将高氏が会場の参加者に尋ねたところ、約8割が「副業をやりたい」「会社が副業を認めている」と答え、すでに副業を手がけている人も約1割いることがわかった。こうした人々に対し、佐藤氏は「今日の催しを通じて、参加者それぞれが自分の副業のあり方を模索するひとときにしたい。セッションで経験者の話を聞いたり、疑問に思っていることを経験者に質問したりすることは、皆さんにとっても大いに役立つと期待している」と呼びかけた。
副業はスキルアップを考える人に恰好のチャンスを与えてくれる
佐藤氏のあいさつに続き、実際の副業経験者によるセッションがスタート。最初に登壇したのは、ファインディ株式会社でエンジニアとして活躍する大原 和人氏だ。テーマは「副業が私にもたらした2つのシフト」。同氏は情報系の大学院を修了後、Webサービスやスタートアップに関心を持ち、新卒入社した会社でインフラ3年、開発1年、技術基盤1年半のエンジニアの経験を積んできた。そうした本業のかたわら、いくつかの副業を経験してきたが、「自分なりにエンジニアとしてのキャリアに悩みつつ、副業を通して次の光明を見出してきた」と語る。
大原氏が副業に取り組む前に抱いていたのは、「開発力やサービスを作る力を身につけたい」というスキル面での悩みだった。だが一方では「かといって、特に作りたいサービスや解決したい課題もなかった」と言う。チャレンジの必要は感じつつも、具体的な目標がないため、今ひとつモチベーションが上がらないジレンマがあったのだ。この状況に変化をもたらしたのが副業だ。
「まずスキル面では、従来のエンジニアだけでなくプロダクトマネジメントなどにも経験が拡がったこと。さらに、自分が作りたいサービスや解決したい課題が、別の仕事や職場を経験する中で見つけられたことは大きかった」。
大原氏が手がけた副業はこれまで合計で4つ。最初は「不動産サービス立ち上げの手伝い」で、ここではサービスそのものよりも、サービスを作る=開発することをひたすら楽しんだという。
2番目は「グルメサービスの開発手伝い」。新卒から3年を経て「自分は何をやりたいのか?」という気持ちが湧き上がってきた頃で、創業半年くらいのスタートアップが提供するサービスに興味を持ち、Rails開発担当者として加わった。この経験によってRails開発の設計が理解できるようになり、本業の方でも開発チームへの異動を果たすことができた。
3番目は「起業支援サービス立ち上げ」。これは本業の同僚から紹介された仕事で、事業の内容に共感したことと、立ち上げから参加できる点に魅力を感じたという。ここではサービスの開発だけでなく、内容についてのディスカッションや仕様決め、ピッチイベントなど幅広く関わることができた。その結果、普段は会えない層の人々に出会ったり、社会課題に触れたりといった、エンジニアだけではできない経験を積むことができた。
そして4番目は、現在務めているファインディだ。勉強会で関係者と知り合い、同社の「未来をつくり出す全ての人をエンパワーメントする」というミッション=働き方を良くするということに強い興味を抱いたこと。また、「ビジネスの立ち上げから参加できるという魅力を感じ、お試し入社感覚で副業しているうちに、正式に入社することになった」という。
こうした自分の経験をもとに大原氏は、「副業は新しいスキルを身につけたいとき、また既存のスキルを伸ばしたい時に有効だ」と言う。本業ではやりたくてもできないことを副業で経験すれば、いきなり転職や独立するリスクを犯さなくて済む。また社外の凄腕のエンジニアから学ぶチャンスもあるし、上司の評価などを気にしなくていいから純粋に開発が楽しめるというメリットもある。
「副業を始めてみたいと思ったら、立ち上げ初期のスタートアップは狙い目だ。手が足りないから週1~2日でも喜ばれる。また、自分から気になる企業に勉強会やyentaのようなマッチングサービスなどを活用してアプローチすることも大切だ」と語り、自分から動き出すことの重要さを強調した。
世の中のエンジニアを求めている人々に向けて自分をアピールしよう
「せっかくエンジニアやってるのに、なんで副業やらないんですか?」という挑発的なタイトルを掲げたサイボウズ株式会社の岡田 勇樹氏は、同社では「副業」ではなく「複業」と呼んでいると明かす。
「副収入を得るための仕事だけではなく、家事や育児、介護も含めて『複業』という見方をしている。またサイボウズに勤務しながらカレー屋やカメラマン、スポーツ系のYouTuberや日本酒ライターなどという、まったく畑違いの仕事をしている人も少なくない」。
とはいえ、「今日はエンジニアの副業に絞って話したい」と語る岡田氏は、副業に関わる人々を①すでに副業をしている人、②会社が禁じていたり忙しすぎたりなどの理由で副業ができない人、③副業できるがやっていない人の3つのタイプに分類。中でも3番目が最も多い背景として、サイボウズの「モチベーション3点セット」を例に挙げ、副業を始めるのが難しいのは、この中の「べきこと」のモチベーションが弱いからだと指摘する。
「副業をやってみたいけれど、どうしてもやりたいことがあるわけでもない。もし、やるべきことがあれば前向きになれるが、それを自分で決めるのは非常に難しい。ならば、誰かが決めてくれたことに乗るのが早いし、モチベーションも維持できて得策だ」。
ここで岡田氏は、「エンジニアがやるべきこと」とは「エンジニアにしかできないこと」だと強調する。実は世の中の企業や起業を考えている人たちは、みんなエンジニアを欲しがっているのが現状だ。これだけITがビジネスを始めさまざまな分野の基盤となっている今、実はエンジニアがやるべきことは数え切れないほど世の中にあると岡田氏は言う。
「だからこそ、まず大事なのは自分が『副業をしたい!』とアピールすることであり、実際に声を挙げてみれば、それを聞いた誰かがやるべき仕事を指し示してくれる。会社で副業が禁止されていたり、さまざまな事情で副業が難しいわけでもなく、関心はあるがまだ動き出せていなかったりという人は、ぜひ自分から声を挙げ、いろいろな人とコミュニケーションして第一歩を踏み出して欲しい」。
複業で幸せなエンジニアライフを!と呼びかけて、岡田氏はセッションを締めくくった。
自分を売り込むために必要な4つの「P」を知り、磨いておくこと
最後に登壇した株式会社スタートアップテクノロジー代表取締役の菊本久寿氏は、会社員からフリーランスを経て、現在は起業を支援するスタートアップの経営者として活躍中だ。そうした自分の経験から、エンジニアのキャリア形成につながる副業について紹介した。
菊本氏の副業キャリアは、サラリーマン当時の社長や部長など上司からの紹介から始まった。その後フリーランスになってからは自ら「副業ではなく複業」と言うように、ほぼ日替わりで週に4本の案件をそれぞれこなす忙しさ。さらに自分で起業してからは、知り合いからの紹介や相談、他社の技術顧問などを引き受けるようになり、もはや「副業」という範疇に収まらない状況になっているという。
また、このようにさまざまな立場に身を置きつつ副業を手がけてきた経験から、「副業といえども、フリーランスと同じビジネスパーソン。プロとして仕事を請ける以上、甘えは許されないと肝に銘じておくことが大切だ」と副業に取り組む心得を述べる。
菊本氏は、エンジニアが副業を行う場合、「誰に自分を売るか?」によってマーケティング戦略が変わると指摘する。これまでの経歴をもとに転職する場合は、次の仕事も技術者であることが多いが、自分で仕事を取るとなると、ターゲットが非エンジニアの起業家などであることもしばしばだ。そうした技術者ではない顧客に対して、どのようにエンジニアが自分を売り込んでいけば良いのだろうか。菊本氏はその有効な考え方として「4つのPで考えるセグメンテーション」を紹介する。
①Product
商品価値を上げるために仕事のクオリティを上げ、自分を磨き続ける。言語にこだわらないプログラミングスキルやインフラのスキル、さらにビジネスやマーケティングなどのスキルを身につけるのは特に大切。
②Price
生活費は本業の収入でまかない、複業ではお金より経験を得ることを重視する。若いうちは特にそれが重要。単価にこだわらず、自分の経験や勉強になると思った仕事を優先して請ける。打席に立つ回数を稼ぐように励めば、単価は後からついてくる。
③Place
自分を売り込むチャネルとして人脈は非常に大切。菊本氏は人脈作りのルールとして「飲み会は絶対に断らない」「ご飯に行きましょうが口癖」「ギブアンドテイクはギブから」「エンジニア以外の集まるイベントに行く。特に起業家向け」「マッチングサービスなどを使っていろいろな人と会う」を徹底。
④Promotion
非エンジニアにアピールするには、ブログやSNSで実績などをアピールすると効果的。菊本氏は「ポートフォリオサイトに自分の実績を掲載」「ブログに自分の強みである開発関連の情報を書いて発信」「Facebookでいろいろな人とつながる」「名前を覚えてもらうために個人サービスを作る」「会社以外の個人名刺を作り、何ができるかを書いておく」といったことを実施。
ライトニングトークから懇親会とにぎやかな空雰囲気の中、無事に第1回を閉幕
各発表者によるセッションの後は、会場の参加者の中から3名がライトニングトーク(LT)に立ち、それぞれ「副業を始めるときにぶち当たった壁とその超え方」(NobuyaSASAKI氏)、「副業で試したモバイルアプリ新規開発プロセス」(TakanoSatoshi氏)、そして「ソフトウェアエンジニアとしてのワークアズライフ」(RyoShibayama氏)と題してプレゼンテーションを行った。
月曜日の18時半から20時過ぎという開催時間帯にもかかわらず、会場に詰めかけた参加者はそれぞれドリンクを片手にくつろぎながらも、発表者の話に熱心に耳を傾け、プログラム終了後の懇親会でも盛んに情報交換や質問などが交わされた。ますます多様化する技術者の働き方と副業のあり方に、今後も多くのエンジニアの注目が集まってゆくことは間違いない。
※本記事で紹介したセッションおよびライトニングトークのスライド資料は、Connpassの本イベントサイト上で公開されている。
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