第1回:財務報告を行う上での内部統制‐日本版SOX法を迎えて (3/3)

内部統制
正しく学ぶ内部統制のススメ

第1回:財務報告を行う上での内部統制‐日本版SOX法を迎えて
著者:中央青山監査法人  岡田 清   2006/5/10
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内部統制の評価とは

   日本版SOX法の下では、経営者は内部統制を整備および運用する役割と責任があるとともに、内部統制の評価の基準に準拠し有効に機能しているかどうかを評価して、その結果を外部に報告することが求められる。連結財務諸表の信頼性に重要な影響を与える内部統制は、毎年決算期末時点の状況を評価することが求められている。

   また連結財務諸表がベースになることから親会社のみならず、連結子会社の内部統制も評価の対象となる。経営者はその評価結果として「内部統制報告書」を作成し、有価証券報告書とあわせて制度上の開示を行うことになる。


内部統制の監査とは

   経営者が作成した「内部統制報告書」は、適正であるかどうかについて外部監査人の監査を受けることが求められている。

   日本版SOX法では、外部監査人よる内部統制の監査に関して企業の負担を軽減するために、米国SOX法のもとでの監査とは異なる仕組みとなっている。すなわち日本における外部監査人は、経営者が実施した内部統制の評価について監査を実施する。

   しかし米国SOX法における外部監査人は日本版SOX法における監査業務に加えて、内部統制の評価を自ら直接に行い、その結果を報告するというダイレクト・レポーティング(直接報告業務)も行っている。

   内部統制の評価および監査の導入は、企業に新たな負担をもたらすことは事実であるが、日本版SOX法では少なくとも米国に比べて監査の負担は軽減されると思われる。


企業は制度に向けて何をしなければならないか

   制度対応に向けて企業では、以下のような取り組むべき主要なテーマがある。

  • 財務報告の信頼性を確保するために必要な一定水準以上の内部統制の整備・運用
  • 内部統制の整備・運用方針および手続の状況などの文書化
  • 内部統制の評価を実施するリソースの確保(人材の育成、組織の構築)

表4:日本版SOX法への対応策

   それではそれぞれの内容について具体的に解説していく。


財務報告の信頼性を確保するために必要な一定水準以上の内部統制の構築

   全社的なレベルと個別業務レベルのリスク評価を行い、リスクに対応して現状の内部統制がどの程度整備されているかを評価し、不足する統制を導入する。


内部統制の整備・運用方針および手続の状況などの文書化

   新制度対応にあたって企業が多くの時間を割かれるのが、自社の内部統制の内容を文書化するという作業である。何らかの統制活動を行っているとしても、その内容を十分に文書化していないケースは多いと思われる。

   「基準案」では、内部統制の整備・運用方針や手続の状況を文書化することが要求されている。どの程度具体的に文書化しなければならないかは、難しいところであるが、米国では該当するプロセスについてほとんど知識のない人が統制が有効に整備されているかどうかを理解し、評価することができる程度ともいわれている。


内部統制の評価を実施するリソースの確保(人材の育成、組織の構築)

   少し先のことになるために見過ごされがちであるが、制度のスタート後に自社の内部統制の評価を担当する人材確保が重要な問題である。上記したように財務報告にかかわる内部統制(連結ベース)は、重要でない部分を除いて、毎年すべてが評価対象となるために多くの時間と人手が必要となる。

   しかし、現在わが国で十分な内部監査の担当者を抱えている企業はさほど多くはないであろう。これから内部統制の評価・見直しを進めていく中で、内部統制評価のためのインフラ構築として監査調書や監査手続の整備とともに、いかに人材の育成や確保を進めていくかが重要な問題である。

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中央青山監査法人
著者プロフィール
中央青山監査法人  岡田 清
事業開発本部 ビジネス&システムアドバイザリー部長
公認会計士


INDEX
第1回:財務報告を行う上での内部統制‐日本版SOX法を迎えて
  日本版SOX法とは
  財務報告にかかわる内部統制の意義
内部統制の評価とは
正しく学ぶ内部統制のススメ
第1回 財務報告を行う上での内部統制‐日本版SOX法を迎えて

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