Zabbix Summit 2025から、チェコ共和国のプラハに本社を置くZabbixパートナーであるinitMAXのCEO、Tomas Hermanek氏のセッションを紹介する。initMAXはZabbix Summitのトップのスポンサーでもあることから、初日のキーノート直後にセッションを行うという特権を得ていたというわけだ。
セッションの動画とスライドは以下から参照できる。
このプレゼンテーションは、AIをエッジデバイスで実行することでこれまでシステムに組み込むことが難しいと考えられていたアナログなデバイスをZabbixの監視対象にするという内容で、タイトルも「AI on the Edge in Zabbix」というシンプルなものとなっていた。
これはスマートメーターのようにデバイス自体から計測データを取り込むのではなく、アナログなメーターからカメラで数値を読み取り、それをZabbixで監視することで異常を検知するというシステムである。
このシステムについてはすでにGitHubの上でコードやドキュメントが公開されているので、詳細はそちらを参照して欲しい。
●公式ページ:https://github.com/jomjol/AI-on-the-edge-device
●公式ドキュメント:https://jomjol.github.io/AI-on-the-edge-device-docs/
このシステムのポイントは安価なマイコンボード(ESP32)とカメラを使って、数値を読み取る部分に機械学習(CNN)を使っていることだろう。以下の図は公式ドキュメントからの引用だが、メーターの上に3Dプリンターで生成されたマウントを載せ、そこ上にESP32のシステムを設置し、データを撮影、それをTensorFlowLiteで作られた機械学習モジュールが数値を認識してJSON/MQTT/HTTPなどのプロトコルで上位のシステムに伝送し、それをZabbixで監視するシステムである。
公式ドキュメントでは市販されているESP32のどれを選ぶべきかという基本の部分から、カメラモジュール、フォーカスの合わせ方、フラッシュの使い方、認識すべき領域(ROI=Region of Interests)の指定方法まで事細かにドキュメント化されている。
この画像の「1.2.1 ハードウェア」にある右側の写真には黒いプラスチック製の筒の上にESP32が設置されているが、これはメーター自体を黒い筒で覆うことで外部からの光を遮断し、ESP32のフラッシュを使うことで常に同じ露光、角度、距離で画像を取得する工夫である。
この例の難しいところは小数点以上の数値は数値が回転する方式のメーターだが、少数点以下を表す4つのメーターは針が回転することで数値を示す方式を取っている点だろう。その位置に合わせて認識領域を設定し、データを認識する必要があるからだ。
そのためROI(認識領域)を設定するWebインターフェースも装備されていることで、このシステムが単なるデモではなく実際に多くのメーターに適用できる機能を備えていることも重要なポイントだ。つまり単なる「やってみた」的なデモやPoCではなく、実際に水道や工場などシステムに装備されているアナログメーターからデータを取得してZabbixで監視をするということがすでに実現済みだと示している。
このシステムで注目すべきポイントは、アナログなデバイスを置き換えることで監視可能にするのではなく、現行のシステムはそのままで安価なマイコンボードを組み合わせることでクラウド側に依存することなくデバイスで推論を実行し、監視可能にするというところだろう。
これまでも多くのZabbixのセッションで、自宅のサーバーやネットワークをRaspberry Piなどを使って監視する例は多く見てきた。今回も自宅システムの監視例として、デスクトップに設置したミニ扇風機をペットの猫が触ることを検知したいというニーズをシステム化したセッションが行われていた。これはリトアニアのパートナー企業であるAB SEB bankasのエンジニアGiedrius Stasiulionis氏によるもので、扇風機の音をマイクで取り込んで数値化し、その変化から「猫が触っている」ことを検知するというものだった。だがこのHermanek氏のセッションのように、マイコンボード上で画像認識を行い、データを送信するところまでをシステム化した例は少ないと言える。
このシステムもアナログなデータを監視システムに取り込むという発想で、工場などの監視において光学的に見えることが必要な監視カメラでは難しいが、人間なら音の変化により異常の検知が可能であることをそのままシステムに移し替えたと言える。Stasiulionis氏のスライドは以下から参照できる。
●参考(PDF):Monitoring Sounds with Zabbix
この2つのセッションはアナログなシステムを強引にデジタル化することでシステムに組み込むのではなく、コストを抑えながらアナログデータの利用を目指したものとして興味深いセッションだった。システムの監視には柔軟な発想が必要であることを考えさせる内容となった。
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