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第4回:間違った「顧客至上主義」が蔓延!ユーザと情報システムの関係を見直せ!
著者:アプリソ・ジャパン  ジェームス・モック   2006/11/28
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暴走する完璧主義により1年のプロジェクトが3年に

   以下のような筆者の体験があった。あるメーカーのERP導入プロジェクトで、カットオーバー予定の6ヶ月前にプロジェクトルームを訪れた時のことだ。話を聞いていくうちに、このプロジェクトはもう絶対に、期日に間に合わないことが分かった。

   当時SEの現場では、本番稼働に向けて懸命に残業を重ねて作業していた。だが、プロジェクトルームの壁には、未解決の課題やシステムの問題点などが所狭しと、数百項目にわたって列挙されていた。しかも、優先順位がまったく付けられていなかった。

   プロジェクトを担当しているシステム部門の部長に聞いてみると「うちの事業部は、うちにとって最重要の顧客です。出された要件は、完璧に仕上げるのがうちの仕事ですから、この段階から優先順位を考えても仕方ありません」という答えだった。

   これが、その会社の文化なのかも知れないが、すべての要件を満たそうと努力するばかりで、親会社の出す仕様に対して交渉する余地がない。そのシステム部門に管理されているベンダーやコンサルも、ユーザと直接接触する機会が少ないため、進言できる立場にない。結局、当初は1年弱と計画されたプロジェクトだったが、3年もかかってしまった。

   このプロジェクトのもう1つの問題点は、ERPの導入におけるビジネスオブジェクティブが明確になっていなかった点だ。

   担当者に質問したところ、「スクラッチで開発した旧システムの置き換え時期になってきています。また、将来的に海外の支社へ展開することを考えると、パッケージを選択するしかありません」という回答だった。つまりさらに業務プロセスを改善しようというビジネスオブジェクティプがまったく存在しなかった。

   ところが、パッケージを選択したにもかかわらず、プロジェクトが進むにつれ、細かい要件が頻発。それに完璧に対応しようとするあまり、大量のアドオン開発が発生した。その結果、完成したシステムは容易にアップグレードも海外展開もできないものになっていた。加えて「顧客至上主義」を追求したため、期間も予算もかなりオーバー。さらに、曖昧な導入目的から、そもそもの狙いから大きく外れるシステムになってしまった。

   それでも、この事例はパッケージベンダーからは成功したとして発表されている。本来の目的の達成を問わず、システムがうまく稼働しているだけで、「成功」だと称えられているのは不思議な話だ。


顧客視点の外部コンサルはプロジェクトの否定も厭わない

   一方、対照的な例もある。筆者が初めて情報システム部門のメンバーとして参加した、ERP導入プロジェクトでのことだ。

   当時、その会社は設立2年目ということもあり、経営者から現場ユーザまで積極的にプロジェクトに参画していた。おかげで、わずか1年でかなりの規模のシステム導入に成功した。

   この時に外部コンサルとして参加したのがA氏だ。A氏は、このプロジェクトの経験を通じ、会社のビジネス知識を得ると同時に、経営者との関係構築をはかれたという。そして、システムが稼働2年目に入る頃、同じERPパッケージを関連会社に展開するプロジェクトが立ち上がった。A氏の所属するコンサル会社も再度の協力を申し入れた。導入時の成功実績があったため、有力候補に挙げられた。もちろん、外部コンサルの候補は他にも2社あり、選定作業は慎重に進められた。

   ところが、関連会社が合併する直前で、しかも本社で開発中のERP用テンプレートがもうすぐ完成するという時になってA氏は、「ビジネスユニットが独自でプロジェクトを発足するべきではない」と経営者たちに進言した。その結果、プロジェクトは白紙に戻されることになった。

   筆者は今はベンダーの立場にいる。ベンダーの視点に立つとA氏のように、厳しい収益プレッシャーの中で自社の利益を放棄するような進言が、なかなか言い辛いということがよく分かる。当時A氏がとった行動は、相当の勇気が要ったと思われる。

   だが、このプロジェクトを取り消した翌年、このコンサル会社は再び別のプロジェクトのパートナーとして選ばれた。前年の「こんなITプロジェクトは必要ない」という進言が高く評価され、顧客との信頼関係をさらに強化できたためだ。さらに、つい最近のことだが、A氏は顧客の子会社に社長として出向することになった。なお、この成功事例は、どこにも発表されていない。

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アプリソ・ジャパン株式会社 ジェームス・モック
著者プロフィール
アプリソ・ジャパン株式会社   ジェームス・モック
香港生まれ、英国ブリストル大学機械工学卒、米国スタンフォード大学工学修士、テンプル大学MBA修了。1991年に来日。東京大学生産技術研究所でシュミレーション研究と日本企業で鉄鋼成形機械のCAD・CAM設計・開発に携わる。2001年に米アプリソの日本支社を立上げ、テクニカルディレクターとしてMES・POP・WMSなどのソリューションをスペインや中国、韓国、日本で導入するプロジェクトを取りまとめる。現場ユーザや企業の情報システム部門、導入コンサルタント、ソフトベンダの立場から純日本企業と外資系企業の日本国内外ITプロジェクトを幅広く経験している。


INDEX
第4回:間違った「顧客至上主義」が蔓延!ユーザと情報システムの関係を見直せ!
  はじめに
暴走する完璧主義により1年のプロジェクトが3年に
  厄介型問題の解決には関係者の平等な対話が必須