本当に役立つレビュー教育を行うには

2009年3月13日(金)
小笠原 秀人

レビュー教育の方法

 レビューを組織やチームで定着させるためには、必要性を認識してもらったうえで、レビューの基本的なルールやうまく実施するためのポイントを理解する必要があります。そのための方法として、組織単位でレビュー教育を実施することが効果的です。

 ただし、座学だけの教育を実施してもあまり効果は期待できません。レビュー活動を自分や組織の問題としてとらえてもらい、「やってみよう」と思ってもらうことが大事です。また、基本的なルールは事前に決めておき、教育の中で運用方法を説明するのも効果的です。

 レビューの効果やうまく推進するためのポイントを理解してもらうために、トレーニングの中で実際のレビューを実施することをお勧めします。さらに、レビュー対象とする成果物としては、開発中のドキュメントやソースコードを持参してもらうと、レビューの場で担うそれぞれの役割(リーダ、作成者、記録者、レビューアなど)を実感してもらえます。さらに、成果物の品質レベルを上げることにも役立ちます。

 通常、20人前後の人数を集め、以下の構成でレビュー教育を実施しています(途中で休憩を入れて、質疑応答の時間を確保したうえで、4時間で収まるように計画します)。

 1つ目は「レビューとは」と題した座学+グループ討論(40分)です。座学では、レビューの種類と目的、重要性、SW-CMMにおけるピアレビューの概要を説明します。グループ討論では、現状の課題の洗い出しなどを行うことが多いです(組織のニーズに合わせて適宜調整)。

 2つ目は「ピアレビュー」と題した座学(20分)です。ここでは基本原理、ピアレビュープロセス、ピアレビューチームを説明します。

 3つ目は「ピアレビューの実践」と題したグループ演習(90分)です。ここでは、ピアレビュー会議の進め方と結果のまとめ方を説明します。具体的には、4~5人にグループに分け、それぞれのグループでピアレビュー会議を実践し、実践結果を各グループから発表してもらい、役割別にうまく推進するためのポイントを整理します。

 4つ目は「ピアレビューに対する注意事項」と題した座学(30分)です。レビュー活動を実践するために注意すべき項目を説明します。

 5つ目は「実施ルール」についての説明(30分)です。組織あるいはチームにおけるレビューの運用ルールを説明します。ここでは、レビュー活動の推進担当者に説明をしてもらうようにしています

 この後の文章で、上記教育の中で大切な部分をピックアップして紹介します。

認知的不協和のわなからの脱出

 第1回で、認知的不協和の説明を簡単にしました。認知的不況和とレビューとの関係については、「1.レビューとは」のセッションで説明をしています。この説明をすることで、自分で自分の欠陥を見つけるのが難しい、レビューが効果的なのはわかるけどなぜうまくいかないのか、といったことが理解できるようになります。

 認知的不協和とは、「人が、互いに矛盾する『認知(知識、経験、状況)』を得た時に感じる居心地の悪さ、不快感」です。フェスティンガーの認知的不協和の理論では、以下のように説明されています。

・人は、認知的不協和を感じると、これを避けようとする心理が働く
・この時、自分の都合の良いように考え方を変える傾向にある。具体的には、自分にとって変えやすい方の認知を変える、自分が安心できるように考え方を変える、自分を褒めてあげられるように考え方を変えるといった行動をとります。

 レビュー時に、この認知的不協和がどのように現れてくるか考えてみましょう。

 レビューは、作成した成果物の欠陥を摘出する活動です。第1回の原理126で述べられているように「ソフトウエアを書くということは、いまだかって人類が到達し得なかった詳細さと完璧さのレベル」が要求されます。

 エラーを個人のものにしないという組織風土がない場合には、「自分が作成した成果物に問題があるのは、悪いことだ」という考えになりがちです。この「認知」を持ってしまうと、認知的不協和のわなに陥ってしまいます。つまり、自分の非を認めることは、人にとってストレスとなります。そのため、「自分の成果物には、問題はない」と考えてしまうのです。

 その結果、レビューをしても以下のような状況になることがあります。

・自分自身でレビューをしても、問題を発見することは難しい
これは「レビューして問題なかった」「これくらいなら、問題ないだろう」と考えてしまうことが原因です。

・問題点を指摘されると、それに反発してしまう
これは「それは違います」「これは問題にならないはずです」と反発してしまうことがあります。

 上記の認知的不協和のわなから脱出するためには、「自分で行ったレビューだけで十分としない」という意識と、「組織(チーム)としての品質の作り込み」の活動がとても重要です(図1参照)。

株式会社東芝
1990年 東芝に入社以来、ソフトウェア生産技術(メトリクス活用、不具合管理、静的解析、テスト設計/管理、プロセス改善など)に関する研究・開発およびそれらの技術の推進・展開活動を実践中。日本SPIコンソーシアム(JASPIC)運営副委員長、SQiPシンポジウム2009シンポジウム委員長。

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