LINE、開発者向けカンファレンスでスマートスピーカーWAVEを実現するAI、Clovaの概要などを解説

2017年10月26日(木)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
LINEはデベロッパー向けカンファレンスでLINEのAIプラットフォームであるClovaの概要や将来の計画などを解した。

メッセージングアプリケーションとプラットフォームを提供するLINEは、2017年9月28日にLINEの目指すスマートポータルを推進するためのデベロッパー向けカンファレンスを開催した。最初の登壇者はLINEのCTO、朴イビン氏だ。

LINEのCTO、朴イビン氏

LINEのCTO、朴イビン氏

朴氏はまず、世界規模で拡大するLINEの規模を月間のアクティブユーザー数やイベントレコード数などを用いて紹介した。月間のアクティブユーザーは1億6900万人、さらに一日に処理するレコード数は1500億という凄まじいスケール感である。世界各国でのアクティブユーザー数やペイメントサービスなどの扱い額など、世界的に拡がるLINEのプラットフォームのスケール感を十二分に訴求した。

数字が語るLINEの世界規模

数字が語るLINEの世界規模

次に、今やソフトウェア開発では必須の要素と言えるオープンソースソフトウェアに関する話題を紹介した。ここではHBase、Kafka、Hadoopなどに対するコントリビューション、さらにLINEが公開しているオープンソースソフトウェアであるArmeria、Promgenなどが簡単に紹介された。またMessaging APIを公開したことで、LINEのBotが13万以上も誕生し、20億ユーザーから利用されていると語った。

LINEにおけるOSS

LINEにおけるOSS

次に紹介したのは今年の3月に発表され、限定的とは言えすでに製品化されたスマートスピーカーClovaだ。朴氏は自動車や家電などとも接続されることで、「クラウドをベースにした生活をより良くするためのアシスタント」というClovaの位置付けを強調した。

Clovaを紹介する朴氏

Clovaを紹介する朴氏

また朴氏は、将来の計画として2018年に向けた開発計画の概略を紹介した。ここではBotとClovaのインテグレーションなどが2018年に予定されていることが見てとれる。

2018年までの計画を紹介

2018年までの計画を紹介

次のセッションは「Technologies in Clova」と題したClova WAVEの詳細を解説するセッションだ。登壇した橋本泰一氏は、Clovaのバックエンドのアーキテクチャーなどについて解説を行った。

LINEの橋本氏

LINEの橋本氏

解説の冒頭では、近い将来にClovaによって可能になると思われる生活の一部を見せるコマーシャル映像が紹介された。この映像は、先日行われたサッカー日本代表の最終予選のハーフタイムでも放送されたという。自宅に帰った男性が電灯を点けるようにWAVEに命令したり、娘の相手をしながら、最終予選の状況をWAVEに尋ねたり、WAVEからLINEのメッセージを送ったりというデモを通じて伝えたかったのは、「生活を支援するAI」という姿だろう。

ClovaのCM:【公式】Clova: TVCM ~ もうすぐ来る未来篇(60秒)

橋本氏は、機械学習や深層学習がAIと称される昨今の流れに対して「LINEが考えるAIとは、機械学習や深層学習のことではありません」と語り、機械学習ブームに対するLINEの姿勢を明らかにした。「機械学習、深層学習は要素であり、LINEが目指すAIは「生活に溶け込むアシスタント」という点を強調した。その意味では、CMに見られたように生活の様々なシーンでユーザーを支援するClova WAVEは、その具体的な形であるということだろう。

Clovaのアーキテクチャー

Clovaのアーキテクチャー

ClovaのアーキテクチャーはWAVEに代表されるクライアント、Brainと呼ばれる中核の音声認識、言語理解、音声合成などのコンポーネント、Skillと呼ばれる外部のリソース、そしてそれらを支えるプラットフォームからなると解説。この辺りの構成はAmazon Alexaとも類似しており、音楽再生やニュース、天気情報を取り込む部分を「スキル」と呼ぶ辺りも一緒である。

また開発者向けに、外部とのインターフェイスを受け持つCIC(Clova Interface Connect)、CEK(Clova Extension Kit)の解説を行った。CICにはClovaサービスに接続するためのAPIとSDKが、そしてCEKにはClovaから外部のサービスを実行するためのAPIが用意されるという。

橋本氏のプレゼンテーションは日本語から英語に同時通訳されることを意識したためか、非常に丁寧な話調で好感が持てるものであった。とはいえ、Clova WAVEのデモも実機が壇上に置かれることもなく、自然言語による対話がコアなユースケースであるにも関わらず、全てがスライドによるものであった。

先日行われた「O'Reilly Artificial Intelligence Conference」では、AmazonのAlexaの責任者が実際に何度も壇上でAmazon Echoを使ったデモを行い、その優位性をアピールしていたことを知っている筆者にとっては、Clova及びWAVEの完成度を知る意味でも、デモを見たかったのが正直なところである。また日本語に特化した難しさに関する解説もあったが、これも常識レベルの内容で、より詳細な日本語解析の内容に突っ込んで欲しかったところである。

またClovaの強化点として挙げられたのは「Growth」であるという。この成長という言葉が機能の拡張を意味するのか、それともスマートスピーカーの販売数の伸びを意味するのかは微妙なところだが、誰が話しているのかによって文脈を深く理解する話者認識や、クリスマスなどのイベントを理解すること、対話を行う際に概念を導入するなどの意欲的なポイントが挙げられた。朴氏のスライドでも明示されたが、2018年には開発者向けの開発環境も公開されるという。すでにAmazon Alexaでは、開発者が様々な応用を競うコンペティションも開催されていることから考えると、LINEにとっての急務はAlexaが日本語対応する前にClovaの日本語音声認識を完成させ、より多くの開発者をエコシステムに取り込んでいくことだろう。本当の意味でClovaが開発者から評価されるのは、その時かもしれない。

AlexaのSkill開発を競うコンペティション:Amazon Alexa Skills Challenge

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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