アジアの組込系ベンダーを対象に巻き返しを目指すSUSE。その戦略を担当者に訊いた
SUSEはRed Hatと同様にLinuxの商用ディストリビューションを開発提供する企業である。Red Hatがオープンソースソフトウェアのエンタープライズ向けのビジネスに注力してシェアと売り上げを伸ばしてきた一方で、SUSEはノベルによる買収からAttachmate、MicroFocusなどの企業を転々とした流浪のオープンソースソフトウェア企業という印象がある(さらに2019年中には、EQTへの売却が予定されている)。特にエンタープライズの領域ではOS、ミドルウェア、最近の流行りのKubernetes、クラウドネイティブなソリューションのいずれの分野でもことごとくRed Hatには差をつけられていると言っても過言ではないだろう。
しかしそのSUSEが新たなビジネスとして注力を始めたのが、組込系システムであるという。かつてレッドハットで組込系システムのビジネス開発に従事していた田中勝幸氏がSUSEに転職し、SUSEのエバンジェリストである村川了氏とともに組込系ビジネスを推進しているということで、両氏にインタビューをお願いした。ちなみに約2年前に行ったSUSEへのインタビューの記事も参考にされたい。「ソフトウェアデファインドの企業になりたい」と語っていたSUSEのコメントは、今となると意味深である。
参考:SUSE、HPEのOpenStackとCloud Foundry事業買収の意図を語る
以前は村川さんの名刺もノベルのものでしたが、今回は「SUSEソフトウェアソリューションズジャパン株式会社」となっています。これはいつからですか?
田中:正式には2019年2月1日からノベル株式会社からSUSEの部門が「SUSEソフトウェアソリューションズジャパン株式会社」として独立したということに由来しています。そういうことで、この2月からSUSEという名称が社名になったわけです。
村川:前にインタビューしたもらった時も本社の人間が「ノベルなんて名前を使うのはブランディングには良くない。早くSUSEの名前にするべきだ。そう思わないか?」と松下さんにもコメントを求めていたことも覚えてますよ(笑)
そうですね。2年前の取材の時の話ですが、もうIT業界ではノベルというブランドは全く意味がないので早くSUSEというブランドにするべきだと思ってました。
田中:現在はMicroFocusのオフィスに間借りしている形になりますが、1年半くらい後には別のオフィスで独立する予定です。
今回は、組込系のマネージャーとしてレッドハットで仕事をしていた田中さんが、どうして今SUSEに移ったのか、そもそもSUSEの組込系システムというのはどうなっているのか、などをお聞きしたいと思います。
田中:私は2019年1月にSUSEに入社し、今はSUSEのEmbedded SalesチームのAPJ担当です。つまり日本だけではなく中国、台湾、東南アジアという広いエリアを担当しているセールス、ビジネス開発ですね。
村川:私はIHV(Integrated Hardware Vendor、サードパーティのハードウェアベンダー)とエンベデッドのテクニカルディレクターという肩書です。そのため日本のサーバーベンダーさんを担当しつつ、田中と一緒に組込系システムのビジネスも開拓しています。本来であればサーバーベンダーのほうの仕事に重点を置かねばならないのですが、現実には組込系のシステムに関する案件が多く、話も速いので、最近は組込系のシステム提案を一杯やっている感じですね。
今、組込系をやっているSUSEのチームはどれくらいの規模なのですか?
田中:日本では我々2名、グローバルでも12名くらいのチームですね。ドイツとアメリカにもいますが、組込系といえばやはりメーカーが多い中国、台湾辺りに多くの案件があります。その辺りのメーカーを相手に打ち合わせをしていると判断のスピードが凄まじく速く、最初のコンタクトからクローズまで2ヶ月くらいしかかからないというのが驚きでした。また商談の規模も一桁以上違いますね。
つまりIoTなどのデバイスを作っている中国の深センのメーカーが、数万台くらいの規模でビジネスをやっていると。
田中:台数や売上については公開出来ないので、具体的な数字についてはご容赦ください。しかし私が過去にやっていた案件とは桁が違うというのはその通りです。
村川:判断や話が速いのは良いことではありますが、技術的な部分を詰めるという時になると、我々も手がけたことがないような要件がどんどん出てくるので、正直な話、冷や汗をかく場面もありますよ。しかしそれ以上にやりたいことがはっきりしていて、それをどうやって実現しようかという部分は非常に興味深いですね。
SUSEはエンタープライズの領域では正直、Red Hatに大分遅れを取っていると思いますが、組込系システムではそこはハンデキャップにはならないのですか?
村川:正直に言うと、エンタープライズの案件ではどうしても最初に出てくる話が「Red Hatに比べてSUSEはどうなの? Red HatではなくSUSEを選ぶ理由は?」であり、この段階をクリアしないと次には進めません。しかし組込系システムであれば、まず先にやりたいことや作りたいものがあって、それをSUSEがどうやって解決してくれるのか? というところから入るので、エンタープライズのようなステップが不要なのです。
田中:それと組込系システムのプロセッサとしてARMやRaspberry Piをサポートしていたり、Xilinxとのシステムにも対応しているという部分が評価されていますね。この辺は、どんどん出てくる新しいプロセッサに対応するというのがポイントだと思います。先ほどもお話したように、小さなチームでグローバルにやっているので、素早く動けるというのも大きいですね。チームでやっている毎週のカンファレンスコールでも、毎回毎回こんな案件が!? と感じるものがどんどん出てくる。そういう意味でとてもおもしろいですね。
最近の傾向としてサーバーやデスクトップPCで動かしていたアプリケーションをそのままIoTデバイスやエッジで動かすというのが流れがあります。そのためにコンテナという選択肢が出てきますが、SUSEとしてはその部分に関してはどういう提案になるのですか?
田中:それに関して、SUSEでは300MBという小さなサイズのOSであるJeOSというものを開発をしています。SUSE Linux Enterprise Server(SLES)のコードの必要最小限ものだけを使ってまとめたOSですが、これを使うことで必要に応じたプラットフォームとして提供できるわけです。
村川:SUSEはいわゆるエンタープライズ系システムを提案しているベンダーと異なり、ボトムアップのアプローチなんですね。つまりユーザーが使っているツールやドライバーに柔軟に対応する、それによって最適なシステムを提供できる、というわけです。そのためトップダウン的に「IoTならコレを使え」のようなメッセージは使いません。
それが地味に見える一つの理由だと思いますが(笑)
村川:そういう意味では戦略を見せるやり方が下手なのかもしれません。お客さんのニーズを聞き取りながら素早く動いて決断するというのが、ここ1年ぐらいSUSEの組込系システムで行われている手法ですね。
正直に言えば、エンタープライズ系ですとSUSEはどうしてもRed Hatと比較されてしまいます。Red HatはOpenShiftのような時流に乗ったプラットフォームも提供していますし。そうなると、エンタープライズのお客さんはそちらに目が行きがちですよね。一方組込系というのはそういう観点ではなく「オレがやりたいことはこれだ。SUSEのシステムでそれが出来るのか?」というような直接的な質問から始まるので、話が速いというわけです。
IoTや組込系システムも、これからはクラウド側のサービスとの連携が必須だと思います。自動車にしても、車載システムだけで完結せず、いかにクラウドサービスと連携するのか、全体としてどういう価値を提供できるのか、そこが勝負のカギだと思いますが、SUSEとしての提案は?
田中:そこに関してはこれからというのが正直なところですね。
正直な回答でとても良いと思います(笑)。
組込系システムにおいては、リアルタイムOSやLibero、Zephyrなどが主なプラットフォームだが、オープンソースを標榜するプラットフォームはどうしても標準化や合意形成という部分で動きが遅くなりがちだ。またクラウドサービスとの連携も、今後は必要となってくるだろう。そんな中、SUSEのアプローチであるボトムアップで顧客の必要に応じてシステムを提案するやり方は、動きの早い中国、東南アジアの製造業者のニーズにはピッタリあっているのかも知れない。クラウドサービスとの連携については、まだ未知数というのが今回の印象だが、今後はクラウドサービスプロバイダーとの連携なども発表されてくるだろう。組込系システムにおけるSUSEの活動に、今後も注目していきたい。
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