SUSE日本法人の新社長、日本のITは「知識の底上げが必要」と語る
SUSEの日本法人であるSUSEソフトウェアソリューションズジャパン株式会社に、2020年8月から代表取締役社長として就任した関原弘隆氏にインタビューを行った。過去に何度かインタビューを行ったことのある村川 了氏も同席し、インタビューに応えた。
まずは関原さんの自己紹介をお願いします。
関原:私は新卒で京セラに入りまして、そこではモバイルネットワーク関連の仕事をしていました。そこからSAPに移って最初はERPの技術コンサルタントとして働きました。そこから営業と営業の管理職などを経て、直近ではSAPのマネージドサービスであるHANA Enterprise Cloudの立ち上げをやりました。そこからご縁があってSUSEに移ったという感じです。
ERPのSAPはITの中ではアプリケーション、ビジネスロジックの領域ですよね、でもSUSEはどちらかといえばインフラストラクチャー領域だと思います。だいぶ違うと思いますが、どうしてSUSEに移ったんですか?
関原:SAPには23年も在籍してさまざまな経験をしましたし、ERPの立ち上げという経験もさせていただきましたが、そうするとこのままで次は何をしよう?という疑問に立ち向かわないといけないことに気が付きました。それが2年くらい前のことですね。そこからいろいろお話を聞いたりしていました。今回SUSEに移ったのは、これまで現場の担当者として新しく何かを始めるというのをやってきたことを、今度は経営の立場でチャレンジしてみたかったということです。
SUSEに来て一番驚いたことは何ですか?
関原:これは良い意味での驚きなんですが、これまでSAPでお付き合いしていたお客様に「今度はSUSEとしてよろしくお願いします」と挨拶にいくんですが、そうするとすべてのお客様が「もうオープンソースは使っているよ」と教えてくれるんですよ。もちろん「SUSEの製品を使っています」というありがたいお客様もいますが、OSとしてのLinuxだけではなく企業のさまざまなところでオープンソースソフトウェアが使われているんです。
本番環境ではなく開発に使ってますという企業もありますが、とにかくお客様が口を揃えて「もうオープンソースは普通に使っている」と言う点が一番の驚きでしたね。
オープンソースは、単独の企業ではなくてコミュニティによって開発、保守されているというケースがほとんどです。それについてはプロプライエタリなソフトであるSAPから来た関原さんにとって不安はありましたか?
関原:確かに当初は不安でしたね。でもプロプライエタリなソフトウェアはお金で保守やバグの修正を担保しているわけですが、オープンソースのコミュニティの貢献っていうのはお金だけじゃない他のモノがあるんだということを目の当たりにして、当初の不安はなくなりましたね。
村川さんにも伺いたいのですが、誰が直してくれるのかわからないコミュニティっていう中で活動することに不安はないですか?
村川:確かにそういう不安があるのはわかります。SUSEに入って確実に言えることは、この会社とエンジニアとの距離がとても近いということなんですね。つまりいろいろな経路をたどって話をしなければならないというのがないのです。
例えば「今度はこういう機能を入れて欲しいとお客さんが言ってる」ということを伝えたとしても、「これこれこういう理由でそれはできない」ということが確実に返ってきます。他の企業だと「できない」で終わってしまうことがありますが、SUSEにおいては「なぜか?」という理由がちゃんと付いた形で結果が分かるんですよ。そこはとても大事な部分だなと思います。
でもそれってSUSEのエンジニアに限られた話ですよね? つまりSUSEの社員ではない外部のエンジニアがそういう対応してくれるか?というのは……
村川:我々もコミュニティに入って活動していますし、そういうところでは同じように対応することでそういう文化というか雰囲気みたいなものが拡がると良いなとは思いますね。
コミュニティの運営が難しいというのは日本だけではなく世界中で起こっていることで、なかなか正解がないというか、プロジェクトによって状況が異なるので一概には言えないのがツライですよね。では次はビジネスの話を聞かせてください。これからSUSEをどうしていきたいですか?
関原:これまでSUSEはOSの会社として認知されていたと思いますが、それだけではなくて企業の抱える問題点やPain Point(痛点、課題)を一緒に解決してくれる会社として認知して欲しいと思います。そのためにはもっといろいろな人にリーチする必要があります。
これまでベンダーは企業にアプローチするためにIT部門の管理職や経営層に訴求してきた訳ですが、ある企業のIT部門の方から「もう俺たちと話をしに来なくてもいいよ。これからは実際にソフトウェアを作ってる若い人たちがソフトウェアを選ぶんだから」とはっきり言われました。つまり幹部クラスにアプローチするんじゃなくて、企業内のデベロッパーが欲しいと思うようなアプローチをしてくれってことなんですね。
だから我々も、ソフトウェアを選ぶ決定権を持っている人は誰か? これをちゃんと認識していかないといけないし、そういう人に対してもリーチしていかなければいけないと思っています。
ただ日本特有の問題として企業の内部には運用チームしかいない、開発は外部の子会社やシステムインテグレーターという状況だと、デベロッパーにアプローチできないこともありそうですね。
関原:そうですね。なので、先ほど紹介した方も「これからはもっと内部にデベロッパーを抱えないといけない、そのための組織構造を変えるところから手を付けないといけない」このように認識されていました。ただしこれは、採用や雇用そのものから変えていかないと、なかなか実現するのは難しいですね。逆に質問なんですが、そういうことをやっている日本企業というのはあるんでしょうか?
私の知っている限りでは、デンソーやKDDIなどはデベロッパーを直接内部に取り込んでアジャイルな開発を推進していますね。そういう大企業で余裕があるところは、大元の組織を変えずに外部に小さな別組織を作ってどんどん開発を推進するというやり方ですね。ウオーターフォール開発ではないので、「カットオーバーの日程は決まってない」というのをIT部門の管理職が受け入れられるか? というのがチャレンジだと思います。
村川さんに伺います。SUSEがソリューションを指向するのはわかります。しかし日本の市場ではまだOSの会社として認知されていると思いますが、中から見ると今のSUSEはどんな会社ですか?
村川:実際には2017年頃から、SLES(SUSE Linux Enterprise Server)以外のソフトウェアも合わせて提供するようになりました。これはSLESだけでは問題解決はできないので、それ以外のオープンソースソフトウェアを組み合わせてポートフォリオとして提供するというものです。OpenStackもそうですし、Kubernetesもそうです。足らないものは外から持ってきて提供するというオープンソース的なやり方ですね。
関原さんに伺います。OSの会社ではなくてソリューションを提供する会社になるとしてどんな施策を考えておられますか?
関原:一つはこれまでのパートナー中心の販売施策ではなく、ダイレクトにお客様にリーチしていくダイレクトセールスを強化しようとしています。実際、APAC(アジア太平洋地域)特に日本ではパートナーが中心でした。しかしすでにドイツとアメリカはダイレクトセールスを強化するようになっていますので。パートナーに加えてダイレクトにお客様に対してメッセージを出していくということになりますね。
パートナー制度の利点は細かいところをパートナーに任せられるので手が掛からない、人的リソースが少なくて済むといった部分だと思います。ダイレクトセールスを強化するとなると、そういうエンジニアやハイタッチの営業を用意する必要がありますよね?
関原:そうですね。今はまだ言えませんが、強力なエバンジェリスト的なスタッフを採用しようとしています。あとタッチポイントを増やすという意味では、こういう恰好(ダークスーツにネクタイ)ではダメな人たちがいるんですよ。私の前職ではコレでないとダメだったんですけど(笑)。
これからはスーツも良いですが、ポロシャツにジーンズもアリというスタイルで行かないとデベロッパーは話を聞いてくれませんよね(笑)。村川さんにお聞きしますが、SUSEにはこれからどうなって欲しいですか?
村川:これまでのSUSEはパートナーを通じてお客さんの要望やバグのレポートが挙がってくる感じの会社でした。これからはお客さんの抱える問題を一緒に考えるような、そういう声が聴ける会社になって欲しいなと思いますね。
最後に関原さんが思う日本のIT業界が抱える問題点をひとつだけ挙げていただけますか?
関原:「教育」ですね。教育が圧倒的に足らないと思います。これはエンジニアの教育や養成というだけではなくて、例えばスマートフォンを使う若い人、学生などエンドユーザー側の知識が足りてないということです。これはお金、つまり金融の基礎や税金に対する教育にも通じる問題点なんですが、その部分の底上げをしないと日本ではイノベーションが生まれないと思います。新しいチャレンジが出てきても、すぐに潰してしまうのもその影響なのかなと思います。
その意味では日本の企業が少し変わってきてるかなと思うこともあります。これまで新しいソフトウェアを紹介しにいくと必ず「事例はあるの?」とか「いつ頃から開発してるの?」とか、つまり安定を求めるために保険を掛けたがるというのが日本のITだったわけです。しかし最近では、他社に抜かれないためにどんどんと新しいソフトウェアを企業側が試そうとしているというのを感じます。そういう部分でも少しずつですが、日本も変わり始めていると思います。
「SUSEはSAPと比べてルールが少ないが、その分、人とのつながりベースで新しいことにチャレンジできる」と語る関原氏。プロプライエタリなソフトの牙城であるSAPから、オープンソースが前提のSUSEに移ってのチャレンジに注目したい。
ちなみに冒頭の写真に写っている明るい緑色のカメレオンが最新のマスコットだそうだ。前のバージョンと比べると、色が明るくなったことと脚のヒレがなくなった点が違いだという。
SUSEがデベロッパーにリーチするためには、もう少し大胆なイメージ戦略が必要ではないかと感じた。
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