SUSE、最新のSUSE Linuxの状況等を解説。マイクロソフトからの支援も
LinuxディストーションであるSUSE Linuxを提供しているSUSE(日本ではノベル株式会社のSUSE事業部)は、2017年3月15日に都内で開催された「SUSE Expert Day 2017」にてSUSE Linuxの最新情報を紹介した。その他にも、管理ツールであるSUSE Manager、自動化のためのツールであるSaltStack、OSSのCephをベースにしたSUSE Storage、HPEから買収したOpenStack関連情報、さらにはアプリケーションをビルドするためのOpen Build ServicesといったDeveloper向けツールの紹介などを行った。
最初に登壇したのはノベル株式会社代表取締役社長の河合哲也氏だ。河合氏はまず、すでにエンタープライズにおいてもデジタルトランスフォーメーションが起きていることを紹介した上で、SUSEのソリューションの概要を解説した。SUSEが「Software-Defined Infrastructure」と呼ぶLinux、Cloud FoundryとOpenStack由来のStorage、それにOpenStackでのコンテナ管理ツールであるMagnumとKubernetesを加えて、モダンなインフラのラインアップが揃ったことを強調。HPEのソフトウェア資産であるOpenStackとCloud Foundry関連が独SUSEの親会社に当たる英MicroFocusに買収され、実質的にSUSE管理下になったことでOSからプライベートクラウド、PaaSまで揃ったということをアピールした形だ。
河合氏は最新のトピックとして、Cloud Foundryのボードメンバーになったこと、富士通、インテル、SaltStackらとの提携を強化したことなどを説明した。
次に登壇したSUSE事業部エバンジェリストの村川了氏は、SUSEの中核となるLinuxディストリビューションであるSUSE Linux Enterprise Server(以下、SLES)の最新バージョンの解説を行った。SLESという略称で呼ばれるSUSE Linux Enterprise Serverは10年間の標準サポートとその後、3年間の延長サポートがあること、さらにサービスパックによって機能拡張とバグ修正などが行われることを解説。SUSEユーザーであれば知っていることだろうが、SUSEのディストリビューションを利用していない企業のIT部門の管理職にとっては若干、眠くなる内容だった。
今回のセッションは欧米では1日かけて紹介する内容を半日に凝縮したということなので、内容的には非常に多くのことを駆け足で紹介することになり、前提知識がないエンジニアには少々キツイ内容だったかもしれない。その他にも、コンテナ向けのマイクロOSであるJeOSやビルドツールなどが紹介された。さらにOSのパッチ適用時にシステムを停止させずに行うLive Patchingなどについて解説。SAPのインメモリデータベースであるHANAを稼働しているアプライアンスにパッチを適用するために停止と起動を行うと、30分から1時間程度かかることを紹介。Live Patchingの必要性を強調した。またHPC(High Performance Computing)における製品も強化していることを説明し、「IBMのメインフレームとSAP用のLinux」という認識からHPCやRaspberry Piに代表されるエッジデバイスでのOSとしてのSLESを印象付けた形になった。
次に村川氏が紹介したのは、管理ツールであるSUSE Managerと自動化のツールであるSaltStack、通称Saltだ。Saltを使うことで、企業が有するオンプレミスのサーバーとクラウド上の仮想マシンなどを、一元的に管理できるという。このような管理ツールは、Red Hatによって買収されたAnsibleがユーザー数や日本語での技術情報といった面で先行しており、SUSEとしてはその辺りを強化する必要があるだろう。今回の村川氏のプレゼンテーションもほぼ英語ということで、図らずも日本語による情報の少なさが見えてしまった感がある。
次に登壇したのは、日本マイクロソフトにおいてOSSの戦略をリードする新井真一郎氏だ。マイクロソフトは、今回のイベントの唯一のスポンサーとなっている。新井氏は、自社のパブリッククラウドであるAzureとその上で稼働するSLESについて簡単に解説した後に、Azureの紹介をデモを交えて行い、Azureが企業向けクラウドとして評価されていることを強調した。Azureのユースケースとして、エヴァンゲリオンのアニメーション制作会社であるカラーも紹介され、Azureの利用が拡がっていることを印象付けた形になった。
マイクロソフトにとってみれば「Microsoft?Linux」を具体化する手段としての今回のイベントへのスポンサー提供ということだろうが、それにも増して重要な点は、なによりもLinuxがクラウド上のOSとして無視できないこと、そしてもはやWindows対Linuxという構図ではないことを印象付けたかったということだろう。そして、その目的は達成されたと思えるプレゼンテーションだった。
続いて登壇したのは、SUSE事業部のセールスエンジニアであるヤン・ヒルベラート氏だ。最近、Midokuraから転職してきたというヒルベラート氏は、SUSEによるCephストレージの実装であるSUSE Enpterprise StorageとOpenStackに関して紹介した。
ストレージについては2016年11月にSUSEが買収したOpenATTICによって管理が行える部分を強調し、OpenStackについては将来的にKubernetesを統合した形でコンテナへの対応を強化することが紹介された。またCloud Foundryの統合についても言及があった。OpenStackのディストリビューションを提供するRed Hatと同じように、PaaSとコンテナ対応の強化がトピックということであろう。
全体的にユーザー事例の紹介が少なく、技術的な解説を短時間に盛り込み過ぎという印象のあるイベントであった。インフラであるOSとSaltなどの運用ツールからアプリケーション開発のためのツールチェーン、コンテナー戦略まで解説したわけだが、フルスタックエンジニアならまだしもインフラとアプリケーション開発はトラックを分けて説明しないと必要な情報が伝えたい相手に伝わらないのでは? と思わざるを得ない。スライドの日本語化も中途半端だった印象があり、今後の努力を期待したい。
(編注:2017年4月7日18時10分更新)記事公開当初、村川氏のお名前が間違っておりました。お詫びして訂正致します。
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