連載 :
  インタビュー

バズワードと化したRPAの本質をリーディング企業に訊いた

2019年3月7日(木)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
Excelマクロの延長とも揶揄されるRPAの本質を伺うべく、RPAテクノロジーズの代表にインタビューを実施した。

ソフトウェアによって構築されたロボットによる自動化を推進するソリューションはRPA(Robotic Process Automation)と呼ばれ、IT業界における2018年のバズワードとなった。しかしIT部門からは「単なるExcelマクロの高級版」「例外処理に弱く実用的ではない」などの声を聞くことも多い。

RPAは新しいバズワードで終わるのか、それともITの新しい潮流として定着するのか。RPAを推進するRPAテクノロジーズ株式会社の代表取締役社長で、日本RPA協会の代表理事でもある大角暢之氏に話を訊いた。

まずRPAとは何なのでしょうか? 現在はバズワードとなっていますが。

RPAという言葉は確かにバズワードとなっていますが、実際にはもうかなり前から利用されていますし、我々がオープンアソシエイツ株式会社の中でビズロボ事業を始めたのが2008年になります。当時は、まだRPAという言葉がなかった頃です。その頃からRPAはITの領域ではなく、もっと現場に近い領域の話だと説明しているのですが、なかなかわかってもらえません。その当時から我々はRPAを「人材派遣ビジネス」だと思ってやっておりました。ただし、この場合の人材は実際の人間ではなく、デジタルの中にいる人材、つまり「デジタルレイバー(計算機上の働き手)」を企業に派遣しているということなのです。

RPAの本質はITじゃなくて人材である、ということですか?

RPAの本質とは?

RPAの本質とは?

そうです。このスライドにも書きましたが、RPAは企業が持つIT資産というよりも人材を補完する存在、つまりデジタルレイバーなのです。だからこれはIT投資じゃないということをずっと言い続けているんですよ。

基幹システムや情報系システムの一部というよりも現場の社員のヘルプをする存在、という捉え方ですか?

本質的には昔から技術はあって、それを使って自動化するということなんですね。後からRPAという言葉を当てはめて、いかにも西洋からやって来た凄い技術みたいに宣伝されていますけど。実際には、もう10年も前からあるものを使っているわけです。私も昔はコンサルティングの仕事の中でソフトウェアのテストの自動化をやっていましたけど、それと何にも変わらない技術を使っているわけです。その辺り、わかる方にはすぐに理解していただけますね。これまで営業現場などで手作業でExcelの入力やシステムへの画面入力をやっていた労力を、デジタルレイバーを入れることで、高速にミスなく実行してくれる。そういう意味では、ITの領域ではなくて完全に人材を省力化し、助けるモノなのです。

このスライドにもありますが、10人で8時間かかっていたものをロボットを入れることで1人で30分で終わる。そういう意味で現場の仕事に頼れる助っ人が来たという感覚ですね。

そうです。その助っ人は超高速で文句も言わないし、突然辞めることもありません。そういうことを現場の人が理解してくれて、それを部門や経営層が理解してくれると一気に導入が進みます。

ビジネスの全てがこのロボットに置き換わるのではないということですか?

それがこのスライドのDigital Laborの左横にある細い矢印の部分なのです。つまり、疲れないし休まない新人さんが職場に来たと思えば良いわけです。教えたことは間違えずに凄い速さで行えるけど、例外処理には弱いのです。つまりエラーが起こったら処理をスキップさせて、これまで通り人間が対応をすれば良いのです。「全てを自動化する」というところを目標にすると、かなりまずいことになります。そしてそれは、IT部門のエンジニアがRPAをやろうとすると往々にしてはまる落とし穴ですね。

IT業界には過去に「End User Computing」という失敗がありましたよね? IT部門ではなく事業部門がGUIで業務アプリケーションもどきを作り、効率化をしましょうと。結果的に属人化して誰もメンテできないし、業務の変化にも対応できず失敗となりました。RPAにも同様のことが起きるのでは?

その危険性は存在します。それは否定しません。たださっきも言ったように、新人社員に全てを任せることはありませんよね? ビジネスもブレークダウンしていくと複数のプロセスがあって、その中にさらに複数のタスクがあります。そのタスクの中にはシステムを使う操作というのがあって、その操作をデジタルレイバーにやらせるということを外さなければ、見直しもエラー処理も難しくはないのです。実際にはタスクを自動化してそのタスクを複数つなげるところも、別のロボットがやればいいのです。

つまり業務全体を一気にロボット化するのではなく繰り返しが多い部分をロボット化する、エラーハンドリングは従来通り業務の担当がやるということですね。それであればEnd User Computingの悪夢は繰り返さないような気がしますね。

これは弊社の営業部門の事例になります。営業部門なら必ずやっている請求書作成の業務ですが、一人あたり毎月400枚くらいの請求書を作っていました。締めの時期になるとこれだけで3日ぐらいかかっていました。当然ですが、業務が拡大すれば請求書は増えるし、担当者は辛いわけですよね。もう辞めようかみたいな気分になっちゃいますよね。それをデジタルレイバーで思い留まらせることができました。デジタルレイバー化したことで、これまで3日かかっていたものが35秒で終わるようになりました。

よくある請求書作成業務をロボット化することで処理時間を削減

よくある請求書作成業務をロボット化することで処理時間を削減

作業自体は単純な繰り返しですからね。

そうです。ロボットを部下として使って、ロボットができない部分だけを自分が処理するということにすれば、担当者は楽になりますし、在宅勤務の拡大にもなります。これは、フルタイムの社員は雇えないけど、以前社員だったスタッフを在宅で活用するという形で人材不足を解決できる流れにもつながるわけです。

ロボットを部下として使い生産性を上げる

ロボットを部下として使い生産性を上げる

デジタルレイバーの効果は、コスト削減というよりは現場が楽をするためにロボットを使う、という発想ですので、どんどん現場で拡がっていくわけですね。

また、プログラミングをしないというのも大事です。それをすると、システムエンジニアや外部のリソースを使わないと修正できないのでコストがかかります。なのであくまでも操作を自動化するレベルで抑えておくことがポイントです。

デジタルレイバーにやらせるべき仕事

デジタルレイバーにやらせるべき仕事

このレベルの仕事、というか操作を自動化しようということですね。

そうです。そこを勘違いした状態でシステムエンジニアがRPAを始めると、とてつもなくでかいレベルのシステムを作ろうとしてしまいます。実際にあった例ですが、2ヶ月掛けてシステムエンジニアが作ったロボットを、「メンテナンスが将来的にできなくなる」という観点で全部捨ててやり直したという事例もあります。

生産現場におけるFAと同じ位置付けのRPA

生産現場におけるFAと同じ位置付けのRPA

このスライドは製造業の方には理解してもらえるんですが、工場がどんどん自動化されていった際に「Factory Automation(FA)」という仕組みがありました。これは人間の作業を機械が代行するというものです。それをオフィス業務に当てはめてもらうと、わかりやすいと思います。完全に工場を無人化するということではなく、例外処理や機械にできないことを最終的には人間がやります。これがFAです。この機械を情報システムに、FAの部分をデジタルレイバーに置き換えるとわかりやすいのではないでしょうか。つまりRPAはITの投資ではなく、人間に対する投資であるということに尽きます。

RPAテクノロジーズの大角暢之氏

RPAテクノロジーズの大角暢之氏

IT部門からは「マクロの延長」「テストツールを適応しただけ」と揶揄されがちなRPAだが、既存の担当者と共存して助けてくれて、疲れを知らない頼りになる新人という設定にすることで、エラー処理もシステム変更への対応も「教えればいい」「直せばいい」という現実的な解に着地できるというのは、眼から鱗が落ちた瞬間であった。全てをソフトウェアだけで解決するのではなく人間と共存するという発想は、これからも必要だろう。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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