KubeCon China:LFとCNCFのトップが登壇しOSSの重要性を力説
Linux FoundationのJim Zemlinが登壇
上海で開催されたKubeCon Chinaの2日目、キーノートにLinux FoundationのExecutive DirectorであるJim Zemlin氏が登場。昨日のキーノートでテクニカルなアップデートの説明は終わっているためか、オープンソースソフトウェアの重要性を改めて強調するセッションとなった。
最初に「Open means Open」というスライドを使ってオープンソースソフトウェアがどこからでも発生していること、世界中のどこにでもソフトウェアが配布できること、誰でも参加できること、そして自由に使えるというライセンスによって、誰もがその利益を受けることができることを解説した。ここで例としてChina Mobileやファーウェイが中心になって開発したOPEN-Oと、AT&Tが開発したECOMPが統合されたONAPを挙げているところが、中国からの参加者にとってはポイントだろう。
そしてLinuxがオープンソースソフトウェアの代表的なソフトウェアであることには変わりはないが、CNCFが急成長していることを裏付けるように、CNCFがホストしているプロジェクト、プラチナメンバーの例を挙げて紹介した。
ここではLinux FoundationとCNCFが非常に近い仲であることが分かるスライドとなった。そして次のスライドで、中国からの参加者を喜ばす内容を解説した。それはKubernetesに対する中国からのコントリビューターの数が全体の2番目になったという内容を示すものだが、実際にはKubernetesだけではなく他のCNCFのプロジェクトでも同様であるというものだ。また中国発のプロジェクトとして、コンテナレジストリであるHarbor、トランザクション指向の分散型キーバリューストアのTiKV、そしてP2Pを使ったイメージ&ファイル配信システムであるDragonflyについても触れていたように、中国からのさらなるコントリビューションを促す一幕となった。
次にCNCFのメンバーについても言及し、2015年当初はファーウェイだけだったプラチナメンバーにAlibaba Cloudや中国のEC大手JD.comが加わり、それ以外のメンバーシップにおいても増加していることを説明した。
ここで、Ant Financialがゴールドメンバーとして参加したことを説明。ここでも中国の企業の参加に感謝を表し、メンバーをもっと増やしたいという意図がはっきり表れた瞬間となった。
ちなみにCNCFのプラチナメンバーになるためには年間35万ドルを支出する必要があり、軽い気持ちで参加できるものではないことは明らかだ。冒頭の写真で分かるように、今回のカンファレンスにおいて、ファーウェイはプラチナやダイアモンドのさらに上を行く「Strategic Sponsor」と位置付けられており、ファーウェイがこのイベントにかなり力を入れていることが分かる。ファーウェイがStrategic、その下のTencent CloudがDouble Diamond、その下がAlibaba CloudのDiamondと、これまでのカンファレンスでは見たことのないようなランクを付けられていることからもわかるように、ファーウェイ以外の中国のベンダーも本気でここに予算を投入していることがわかる。
そして中国を礼賛するターンの後は、オープンソースソフトウェアがすでに多くのシステムの中で使われており、モダンなシステムにおけるカスタムメイドのコードは10%程度で、残りはOSやミドルウェア、フレームワークが占めているということを解説した。つまりモダンなシステム開発を行うのであれば、オープンソースを無視できないということ解説した。
Zemlin氏は次に、オープンソースソフトウェアが少数のエンジニアやコミュニティから始まり、それがプロジェクトとして製品化され、最後に利益を産み出すことでオープンソースソフトウェアのバリューチェーンが回るということを説明。これは何度もZemlin氏のプレゼンテーションでは出てくるスライドではあるが、ElasticやMongoDBなどが問題視しているパブリッククラウドプロバイダーのフリーライド問題は敢えて触れないというスタイルとなった。
そしてオープンソースソフトウェアはゼロサムゲームではない、自分だけではなく他を助けるような行為は全体の底上げとなるという説明を行い、最後にこのカンファレンスで発表されたFATE Projectについて説明を行った。
CNCFのゴールドメンバーとなったWeBankが機械学習の新しいオープンソースソフトウェアを公開するという内容で、複数の機械学習モデルを連携させて、実行させるというものらしい。Federated(連合する)という単語の意味するところは、複数の機械学習モデルを使うという部分だろう。より詳細にはGitHubのページを参照されたい。
参考:https://github.com/webankfintech/fate
他にもCertified Kubernetes Administrator(CKA)の試験が中国語に翻訳されたこと、トレーニングのマテリアルも同時に中国語化されたことなどが紹介された。
Dan Kohnが語るKubernetesが伸びた理由
次に登壇したのはCNCFのExecutive Director、Dan Kohn氏である。
Kohn氏は歴史を振り返りながら、革新的なことが同時発生する事例をベースにKubernetesがコンテナオーケストレーションとして急速に支持を集めた流れを解説した。検索のトレンドから見れば、2017年ごろからMesosやDocker Swarmに比べて大きな伸びを示していることがわかる。
その後、Kubernetesが支持を集めた理由として、「とてもうまく働くこと」「ベンダーニュートラルなオープンソースソフトウェアであること」「コントリビューターを含め多くの良い人材が集結していること」を挙げた。
Linus Torvaldsをはじめとする多彩な登壇者たち
この後にLinuxとGitの生みの親であるLinus Torvalds氏と、VMwareのオープンソースプロジェクトのトップであるDirk Hohndel氏が、対談という形で登壇した。
Torvalds氏はこれまで15年位は良いソフトウェア開発に関わることができたとコメント。しかし現在はあまり未来のプランニングはやっていないそうで、その理由は多くの優秀な人材がコミュニティに存在するからだと語り、Linuxコミュニティの健全さをアピールしたかたちになった。また2021年にLinuxが産まれて30周年になることをHohndel氏が指摘、「何か期待している?」と質問すると「オペレーティングシステムはそれほど変わっていない、ハードウェアとユーザーは変わったけどね、だからコンピュータのリソースマネージャーであるLinuxもそれほど変わらないと思う」と素っ気ない答えをして、もう少し派手な回答を期待したHohndel氏を困らせて終わった。
その後、ファーウェイのVP、Evan Xiao氏が登壇し、IoTとエッジにおけるコンピューティングに関するファーウェイの考えを解説した。
ここではIoTデバイス側に、LiteOSが位置付けられていることがわかる。
次の登壇者はLinux FoundationのGreg Kroah-Hartman氏だ。Hartman氏は、最近見つかったCPUのハードウェアに依存する脆弱性に関する解説を行った。
MDS、Fallout、Zombieland、RIDLなどのCPUの投機的実行に関わる脆弱性について解説し、オンプレミスだけではなくクラウドプロバイダーにおいても影響されるとして、カーネルのアップデートを促した。SpectreやMeltdownに比べれば対応は迅速になったとは言え、Intel CPUの高速性を犠牲にするか、セキュリティを取るかという究極の選択をしなければいけないという意味では、キーノートとしては異色の内容となった。
最後に登壇したのは、Tencent CloudのVP、Burt Liu氏だ。Liu氏は「Cloud Native Best Practices」として、Tencent Cloudのエンタープライズ向けManaged KubernetesサービスであるTKEの解説を行った。
そして特にサービスメッシュについては、IstioをベースにしたTKE Meshを解説、サーバーレスについても現状では未提供ながらもすでにWeChatのMini-Programがサーバーレスで実装されていることを紹介。ここでは、Tencentの先進性をアピールしたかたちになった。
前半にLinux FoundationとCNCFのトップが講演し、Linus Torvalds氏を登場させて盛り上げ、深刻なセキュリティのセッションで締めた後はファーウェイとTencent Cloudを登壇させて、中国の参加者の期待に応えるという文脈は納得できるものだった。