KubeCon China:中国ベンダーが大量に登壇した3日目のキーノート
上海で開催されたKubeCon Chinaの3日目のキーノートは、中国ベンダーが最大限の露出を行うセッションとなった。初日の夕方のキーノートではプロジェクトのアップデート、2日目のキーノートではLinux FoundationとCNCFのトップが登壇しHuaweiとTencent Cloudを紹介、そして3日目に満を持して中国のベンダー、ユーザーが登壇して中国語で語りかけるという内容となった。
中国語のプレゼンテーションは英語に、英語のプレゼンテーションは中国語に同時通訳がすべてのセッションにおいて用意されるというのは昨年のKubeConと同じだが、去年よりも明らかに中国語のプレゼンテーションが増えており、中国のベンダー、ユーザーの存在感がともに増していることを感じさせるキーノートとなった。
自社製プロセッサーまでK8s対応を拡げるHuawei
最初に登壇したのは、HuaweiのAlan Lio氏だ。General Manager, PaaS Department, Cloud Business Unitというタイトルを持つLio氏は、クラウドサービスだけではなくエッジコンピューティング、そしてそこで利用されるチップセットにまで言及し、単なるデータセンターでのソリューションから視野を拡大した内容となった。
KubeEdgeがエッジサイドのプラットフォームとなり、サーバー側で処理される機械学習の学習フェーズとそれを利用する推論のプラットフォームとしてエッジでのコンピューティングが重要になると解説。ここでエッジのプラットフォームとしてIntelのx86だけではなく、Huaweiが2018年のHuawei Connectで発表したAI用のチップセットAscend910と310をサポートすること、HuaweiがデザインしたARMアーキテクチャーの64ビットプロセッサーKunpengシリーズをサポートするということが書かれていた。
AscendもKunpengもHuaweiの子会社であるHiSiliconが製造するプロセッサーで、アメリカのトランプ政権によるHuaweiへの通商規制からも微妙に影響されているように思えるというのは勘繰りすぎだろうか。
KubeEdgeはHuaweiが開発をリードするもので、CNCFのサンドボックスプロジェクトとして開発が進んでいるようだが、2019年6月にv1.0がリリースされたところであり、まだ未成熟なコミュニティとガバナンスモデルをHuaweiが企業として支えているという形と見ていいだろう。
HuaweiはKubernetesのプラットフォームとしてx86だけが先行していることに大きなチャンスがあると見ているのか、Huaweiとして自社のプロセッサーであるAscendのAIチップとKunpengのプロセッサーにも拡大するように努力をしているというのが次のスライドだ。
また機械学習という意味では、バッチジョブとしてデータセットの学習をKubernetes上で実装するオープンソースソフトウェア、Volcanoにも力を入れており、こちらのプロジェクトを紹介するスライドも用意されていた。
最後に中国におけるHuaweiの存在感という意味でCNCFの創設期からのメンバーであること、Pull Requestの数が中国でNo.1であること、中国各地で行われているCloudNativeDaysの参加者が7000名を超えたこと、書籍を出していることなどを紹介し、ステージを降りた。
マルチテナンシーを志向するAlibaba
次に登壇したのはAlibaba CloudのSenior Staff EngineerのXiang Li氏だ。Li氏はCNCFの技術的動向を決めるTOC(Technical Oversight Committee)に初めて中国から選出されたメンバーである。
Li氏はクラウドネイティブなソフトウェアがデベロッパーの生産性を上げ、コンテナによってリソースを最適化することができたことが重要であると説明した。特にその中心に存在するKubernetesがプラットフォームを構築するためのプラットフォーム、つまりPlatform for Platformになっていると語った。またスケーラビリティについても大幅に向上しているとして、TOCのメンバーらしいアップデートを行った。
またetcdやContainerd、Dragonflyなどについても簡単なアップデートを行い、Alibaba Cloudで検討されているマルチテナンシーについても解説。ここではSIGで議論されている中から、Alibaba Cloudが提案しているKubernetes on Kubernetesについて簡単に説明を行った。これはバルセロナでもMulti-Tenancy Working Groupのセッションとして解説されていたもので、Alibaba Cloudが当初からKubernetes on Kubernetesを提案していたこととも合致する内容となった。
そしてAlibaba Cloudでの経験を活かしてKubernetesのワークロード管理を行うOpenKruiseを紹介。Alibaba Cloud主催のハンズオン形式のワークショップでもOpenKruiseは紹介されており、大規模なKubernetes環境の運用管理に有効であることを強調した。
DiDiのライドシェア事業をさばくクラウドネイティブなシステム
次に登壇した中国企業はDiDiだ。DiDiはライドシェアサービスを提供する中国のベンチャーで、今回のKubeCon ChinaのTop End User Awardを受賞した企業でもある。
タイトルにはレガシーシステムからKubernetesをベースにしたクラウドネイティブなシステムへの移行とあるが、ここで言う「レガシー」とは日本の大企業が持つレガシーなシステムではなく、いかにコンテナを効率的に使えるようになったか? をメインに据えた内容だった。
このスライドではDiDiが持つインフラストラクチャーの状態を説明しており、3000台のサーバー上で5万個のコンテナが稼働し、ピーク時のCPU稼働率は40%というのが現在の状態ということになる。中国で提供されるライドシェアとして、2018年時点で5億5千万ユーザーをこの規模でさばいてしまうというのにも驚くが、信頼性を向上させ、稼働率を上げるためにさまざまな工夫を行ったという。
Tencent Cloudの発展の歴史
次に登壇したのはTencent CloudのYunong Xiao氏だ。
Tencent CloudはTencentのバックエンドを支えるインフラストラクチャーとしてサービスを展開しているパブリッククラウドプロバイダーで、Amazonに対するAWSの位置付けのサービスと言って良いだろう。特にメッセンジャーアプリであるWeChatは、すでに月間アクティブユーザー数が10億を超えるという巨大なサービスとなっている。WeChat以外にもゲームや広告なども展開しており、モバイルペイメントであるWeChatPayもKubernetesベースのインフラストラクチャーが使われているという。
2009年からサーバーの仮想化とコンテナ化、Hadoopのコンテナ化、独自のIaaSであるGaiaStackなどを経て、Tencent Container Engine(TKE)に発展したということを一覧できるのがこのスライドだ。
HelmをローカライズしたAlibaba
そしてこの日、中国からの最後のキーノートスピーカーとして、Alibaba CloudのエンジニアYu Ding氏が登壇し、Alibaba Cloudの解説を行った。
このプレゼンテーションでは、このスライドに注目したい。これはAlibaba Cloudのサービスの一部を解説したものだが、Kustomizeによるコンフィグレーションファイルのテンプレート化、OpenKruiseによる自動化、そしてKubernetesのパッケージマネージャーであるHelmが、中国語にローカライズされて独自のリポジトリーを提供しているということが書かれている。
KustomizeはKubernetes 1.14でマージされており、YAMLファイルを用途に従って書き換えることでYAMLファイルの数を抑えることができるツールだ。OpenKruiseはAlibaba Cloudが開発をリードするものだ。そしてHelmはMicrosoftに買収されたDeisが開発を行い、現在はMicrosoftがリードするパッケージマネージャーだが、中国国内での利用を見据えてローカライズされ、Alibaba Cloudの中に実装されている。このような理解で間違っていないだろう。
興味のある読者はこのサイトをブラウジングされることをお勧めする。
Alibaba Cloud上のHelm Repository:https://developer.aliyun.com/hub
この日はHuawei、Alibaba Cloud、DiDi、Tencent Cloudという中国を代表する企業によるプレゼンテーションが中国語で行われ、中国からの参加者にとってインパクトが大きいキーノートとなった。ちなみにAWSとRed Hatによるプレゼンテーションも行われたが、あくまでも英語が主体の参加者を繋ぎ止めるための添え物、という印象が拭えないものだった。
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