連載 [第6回] :
  KubeCon China 2019レポート

KubeCon China:中国ベンダーが大量に登壇した3日目のキーノート

2019年9月10日(火)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
KubeCon Chinaの3日目のキーノートは、有力な中国ベンダーが勢揃いで最大の露出を行ったセッションとなった。

上海で開催されたKubeCon Chinaの3日目のキーノートは、中国ベンダーが最大限の露出を行うセッションとなった。初日の夕方のキーノートではプロジェクトのアップデート、2日目のキーノートではLinux FoundationとCNCFのトップが登壇しHuaweiとTencent Cloudを紹介、そして3日目に満を持して中国のベンダー、ユーザーが登壇して中国語で語りかけるという内容となった。

中国語のプレゼンテーションは英語に、英語のプレゼンテーションは中国語に同時通訳がすべてのセッションにおいて用意されるというのは昨年のKubeConと同じだが、去年よりも明らかに中国語のプレゼンテーションが増えており、中国のベンダー、ユーザーの存在感がともに増していることを感じさせるキーノートとなった。

自社製プロセッサーまでK8s対応を拡げるHuawei

最初に登壇したのは、HuaweiのAlan Lio氏だ。General Manager, PaaS Department, Cloud Business Unitというタイトルを持つLio氏は、クラウドサービスだけではなくエッジコンピューティング、そしてそこで利用されるチップセットにまで言及し、単なるデータセンターでのソリューションから視野を拡大した内容となった。

HuaweiのAlan Lio氏

HuaweiのAlan Lio氏

KubeEdgeがエッジサイドのプラットフォームとなり、サーバー側で処理される機械学習の学習フェーズとそれを利用する推論のプラットフォームとしてエッジでのコンピューティングが重要になると解説。ここでエッジのプラットフォームとしてIntelのx86だけではなく、Huaweiが2018年のHuawei Connectで発表したAI用のチップセットAscend910と310をサポートすること、HuaweiがデザインしたARMアーキテクチャーの64ビットプロセッサーKunpengシリーズをサポートするということが書かれていた。

AscendもKunpengもHuaweiの子会社であるHiSiliconが製造するプロセッサーで、アメリカのトランプ政権によるHuaweiへの通商規制からも微妙に影響されているように思えるというのは勘繰りすぎだろうか。

KubeEdgeをエッジサイドのプラットフォームとして採用

KubeEdgeをエッジサイドのプラットフォームとして採用

KubeEdgeはHuaweiが開発をリードするもので、CNCFのサンドボックスプロジェクトとして開発が進んでいるようだが、2019年6月にv1.0がリリースされたところであり、まだ未成熟なコミュニティとガバナンスモデルをHuaweiが企業として支えているという形と見ていいだろう。

KubeEdge1.0のリリース

KubeEdge1.0のリリース

HuaweiはKubernetesのプラットフォームとしてx86だけが先行していることに大きなチャンスがあると見ているのか、Huaweiとして自社のプロセッサーであるAscendのAIチップとKunpengのプロセッサーにも拡大するように努力をしているというのが次のスライドだ。

AscendとKunpengプラットフォームにもKubernetesを移植

AscendとKunpengプラットフォームにもKubernetesを移植

また機械学習という意味では、バッチジョブとしてデータセットの学習をKubernetes上で実装するオープンソースソフトウェア、Volcanoにも力を入れており、こちらのプロジェクトを紹介するスライドも用意されていた。

Kubernetesのバッチジョブ用プラットフォームVolcanoを紹介

Kubernetesのバッチジョブ用プラットフォームVolcanoを紹介

最後に中国におけるHuaweiの存在感という意味でCNCFの創設期からのメンバーであること、Pull Requestの数が中国でNo.1であること、中国各地で行われているCloudNativeDaysの参加者が7000名を超えたこと、書籍を出していることなどを紹介し、ステージを降りた。

Huaweiの存在感をアピール

Huaweiの存在感をアピール

マルチテナンシーを志向するAlibaba

次に登壇したのはAlibaba CloudのSenior Staff EngineerのXiang Li氏だ。Li氏はCNCFの技術的動向を決めるTOC(Technical Oversight Committee)に初めて中国から選出されたメンバーである。

Alibaba CloudのXiang Li氏

Alibaba CloudのXiang Li氏

Li氏はクラウドネイティブなソフトウェアがデベロッパーの生産性を上げ、コンテナによってリソースを最適化することができたことが重要であると説明した。特にその中心に存在するKubernetesがプラットフォームを構築するためのプラットフォーム、つまりPlatform for Platformになっていると語った。またスケーラビリティについても大幅に向上しているとして、TOCのメンバーらしいアップデートを行った。

プラットフォームのためのプラットフォームとなったKubernetes

プラットフォームのためのプラットフォームとなったKubernetes

Kubernetesのスケーラビリティについてアップデート

Kubernetesのスケーラビリティについてアップデート

またetcdやContainerd、Dragonflyなどについても簡単なアップデートを行い、Alibaba Cloudで検討されているマルチテナンシーについても解説。ここではSIGで議論されている中から、Alibaba Cloudが提案しているKubernetes on Kubernetesについて簡単に説明を行った。これはバルセロナでもMulti-Tenancy Working Groupのセッションとして解説されていたもので、Alibaba Cloudが当初からKubernetes on Kubernetesを提案していたこととも合致する内容となった。

Alibaba Cloudが提案するマルチテナンシーの概要

Alibaba Cloudが提案するマルチテナンシーの概要

そしてAlibaba Cloudでの経験を活かしてKubernetesのワークロード管理を行うOpenKruiseを紹介。Alibaba Cloud主催のハンズオン形式のワークショップでもOpenKruiseは紹介されており、大規模なKubernetes環境の運用管理に有効であることを強調した。

OpenKruiseの紹介

OpenKruiseの紹介

DiDiのライドシェア事業をさばくクラウドネイティブなシステム

次に登壇した中国企業はDiDiだ。DiDiはライドシェアサービスを提供する中国のベンチャーで、今回のKubeCon ChinaのTop End User Awardを受賞した企業でもある。

「レガシーシステムからスケーラブルなインフラへ」というDiDiのプレゼンテーション

「レガシーシステムからスケーラブルなインフラへ」というDiDiのプレゼンテーション

タイトルにはレガシーシステムからKubernetesをベースにしたクラウドネイティブなシステムへの移行とあるが、ここで言う「レガシー」とは日本の大企業が持つレガシーなシステムではなく、いかにコンテナを効率的に使えるようになったか? をメインに据えた内容だった。

さまざまな改善を経てたどり着いた現状

さまざまな改善を経てたどり着いた現状

このスライドではDiDiが持つインフラストラクチャーの状態を説明しており、3000台のサーバー上で5万個のコンテナが稼働し、ピーク時のCPU稼働率は40%というのが現在の状態ということになる。中国で提供されるライドシェアとして、2018年時点で5億5千万ユーザーをこの規模でさばいてしまうというのにも驚くが、信頼性を向上させ、稼働率を上げるためにさまざまな工夫を行ったという。

DiDiが行った信頼性向上のための改善

DiDiが行った信頼性向上のための改善

Tencent Cloudの発展の歴史

次に登壇したのはTencent CloudのYunong Xiao氏だ。

プレゼンテーションを行うXiao氏

プレゼンテーションを行うXiao氏

Tencent CloudはTencentのバックエンドを支えるインフラストラクチャーとしてサービスを展開しているパブリッククラウドプロバイダーで、Amazonに対するAWSの位置付けのサービスと言って良いだろう。特にメッセンジャーアプリであるWeChatは、すでに月間アクティブユーザー数が10億を超えるという巨大なサービスとなっている。WeChat以外にもゲームや広告なども展開しており、モバイルペイメントであるWeChatPayもKubernetesベースのインフラストラクチャーが使われているという。

Tencent Cloudのコンテナ利用の歴史

Tencent Cloudのコンテナ利用の歴史

2009年からサーバーの仮想化とコンテナ化、Hadoopのコンテナ化、独自のIaaSであるGaiaStackなどを経て、Tencent Container Engine(TKE)に発展したということを一覧できるのがこのスライドだ。

HelmをローカライズしたAlibaba

そしてこの日、中国からの最後のキーノートスピーカーとして、Alibaba CloudのエンジニアYu Ding氏が登壇し、Alibaba Cloudの解説を行った。

Alibaba CloudのYu Ding氏

Alibaba CloudのYu Ding氏

このプレゼンテーションでは、このスライドに注目したい。これはAlibaba Cloudのサービスの一部を解説したものだが、Kustomizeによるコンフィグレーションファイルのテンプレート化、OpenKruiseによる自動化、そしてKubernetesのパッケージマネージャーであるHelmが、中国語にローカライズされて独自のリポジトリーを提供しているということが書かれている。

Alibaba Cloudの機能の一部を解説

Alibaba Cloudの機能の一部を解説

KustomizeはKubernetes 1.14でマージされており、YAMLファイルを用途に従って書き換えることでYAMLファイルの数を抑えることができるツールだ。OpenKruiseはAlibaba Cloudが開発をリードするものだ。そしてHelmはMicrosoftに買収されたDeisが開発を行い、現在はMicrosoftがリードするパッケージマネージャーだが、中国国内での利用を見据えてローカライズされ、Alibaba Cloudの中に実装されている。このような理解で間違っていないだろう。

興味のある読者はこのサイトをブラウジングされることをお勧めする。

Alibaba Cloud上のHelm Repository:https://developer.aliyun.com/hub

この日はHuawei、Alibaba Cloud、DiDi、Tencent Cloudという中国を代表する企業によるプレゼンテーションが中国語で行われ、中国からの参加者にとってインパクトが大きいキーノートとなった。ちなみにAWSとRed Hatによるプレゼンテーションも行われたが、あくまでも英語が主体の参加者を繋ぎ止めるための添え物、という印象が拭えないものだった。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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