時代は共有へ。「温故知新」の日本型シェアリングエコノミーを共に創りあげよう ―「SHARE SUMMIT 2019」レポート
11月11日(月)、東京・虎ノ門ヒルズフォーラムで「SHARE SUMMIT 2019 Co-Economy共創・共助がつくる令和時代の新しい経済」が開催された。
オープンイノベーション・SDGs・キャッシュレス・シェアなど、いまを彩るテーマのセッションが行われたほか、モノ・空間・スキルなど、シェアサービスを提供する企業ブースが設けられ、来場者からはシェアサービスへの高い熱量を感じた。
本記事では、数多く行われたセッションの中から、2つを紹介する。
キャッシュレスが当たり前の時代に
1つ目は「キャッシュレス元年 ~激変するライフスタイルに企業はどう対応するか~」をテーマにしたセッションだ。モデレーターは株式会社TRUSTDOCK 代表取締役の千葉孝浩氏、パネラーには経済産業省商務・サービスグループキャッシュレス推進室長の津脇慈子氏、GMOペイメントゲートウェイ株式会社 常務執行役員 イノベーション・パートナーズ本部 戦略事業統括部統括部長の吉岡 優氏、LINEPay株式会社 取締役COOの長福久弘氏、株式会社タイミー 代表取締役 小川 嶺氏らが登壇した。
キャッシュレス比率は24.1%。普及への課題は?
- 津脇:日本のキャッシュレス比率は24.1%(11/11現在)の現金主義。2025年までに4割、将来的には8割がキャッシュレスとなるよう推進していきたい。
- 吉岡:支払い時に現金以外で支払うのがキャッシュレス。普及への課題はクレジットカード端末や各種QRコード決済が可能な端末を広げることと、タクシーアプリやUber Eatsなど、スマホの利用と支払いがセットになっている購買プロセスへの対応だ。
- 小川:これまで日雇いバイトは現金払いが主流だったが、弊社ではインターネットバンキングと連動して終業時間と同時にユーザーのウォレットへ振り込まれる。真の信用経済を作っていきたい。
アフターキャッシュレスの世界の誕生
- 津脇:現金やこれまでの概念でお金を支払うことがなくなる。新しい経済圏を作り出す人も出てくるのではと楽しみにしている。
- 小川:お金がどこから来てどこへ支払われているか、お金の導線が一貫して見られたら良い。お店側にもメリットがないと使われないので、A社で得たお金はA社に落ちる仕組みが見えることで、キャッシュレスは広がっていくのではないか。
現金は紛失リスクがある。キャッシュレスをインフラに
- 津脇:キャッシュレスというインフラはその地域ごとに形作られるもの。消費者がどのように望み参加するかによる。日本らしいキャッシュレス社会を形成していきたい。
- 小川:少子高齢化が進んでいる日本のノウハウをアジア圏に広げていきたい。日本で得た自分の信用度を活用し、旅先でバイトできるなど、世界中で働ける仕組みを作りたい。
- 長福:決済だけでなくマーケティングツールとして広めていきたい。現金は紛失するリスクがあるものだと思えばキャッシュレスは増えていく。
- 吉岡:各店舗でEC決済のインフラが整っていない。本日、QRコードをお店に簡単に導入できるキャッシュレスプラットフォームをリリースした。 加盟店がキャッシュレス決済を導入しやすく、客をEC決済で混乱させないインフラ整備を進めていきたい。
令和はGDPでなく資産回転率を上げていこう
2つ目は「シェアという思想 ~令和時代を切り拓くスピリット~」をテーマにしたセッションだ。一般社団法人シェアリングエコノミー協会 事務局長の石山アンジュ氏をモデレーターに、パネラーにはビジョンアーキテクトVISIONING COMPANY「NEWPEACE」代表の高木新平氏、ジャーナリスト・評論家の佐々木俊尚氏、ANAホールディングス株式会社 デジタル・デザインラボ・チーフディレクターの津田佳明氏らが登壇した。
令和は昭和・平成の発想自体を変える時代
- 佐々木:平成はシステム・仕組み・テクノロジー全てにおいて新しいものが出てきたが、昭和の感覚が捨てられなかった。昔の感覚の古い神話は早く捨て去り、もう一度今の時代やシステムに適合した新しい常識を作るのが令和だ。
- 高木:平成は昭和の均一的な教育システム・終身雇用・国民年金・保険など、守られた「1億総中流」時代を引きずった時代。
- 佐々木:これまでは機械化すれば雇用が増え経済も成長したが、今後の総機械化による雇用を産まない経済はどうなるか分からない。シェアをするほどGDPは上がらなくなるが人々は少しずつ豊かになるという、この矛盾した今の経済の仕組みを反転させる必要がある。
- 津田:昭和は需要もあったため、一生懸命ものを作り、GDPも給料も上がった。しかし、平成から令和になり、需要が見込めなくなった今では、どんどん生産効率が落ちている。シェアリングエコノミーは「資産回転率」を確実に上げる仕組みで経済効率性はある。無形の資産の回転率を上げていけば良い。
- 佐々木:これまでは、経済成長を前提に国家予算が組まれ社会福祉も維持されてきた。松島氏(WIRED編集長)の言う「フューチャーリテラシー(未来をどのようにイメージできるか)」が大切で、旧来のように経済成長しない時代に、新しい経済モデルやライフスタイルをどのように確立するのか、考えるときに来ている。
【参照】Co-Economyは未来を実装する
https://wired.jp/2019/09/10/co-economy-share-summit-2019/
令和のヒントは「足るを知る」こと
- 高木:今の社会制度や大量生産大量消費、大量廃棄の価値観は戦後に作られたもの。江戸時代にあった「足るを知る」精神やシェアするという価値観が令和時代のヒントになるのではないか。
- 津田:AIやビックデータにより最適化が進むのは良いことだが、人間は合理的や機能的でないことに幸せを感じることもある。心の豊かさに通じるような幸福感は効率や合理的な行動とは繋がっていないのでは。
- 石山:欧米では巨大化・効率性を拒む「プラットフォームコーポラティズム」という運動が起きている。Air bnbに対抗する「Fair bnb」は非営利で組合費を払い、小さい地域でしか使えないなど、小さなコミュニティでシェアリングを徹底的にする動きが起きている。
【参照】シェアリングエコノミーが普及した後、個人は社会とどう向き合うべきか
https://share.jp/sharing-economy-forum/2018/
与える人が幸せになる時代
- 佐々木:中国の監視社会システムでは、金持ちでなくても毎日ボランティアなど善行を積むことで優遇される。「金持ちでなくとも優先される社会の仕組みの方がしあわせ」と、ある女性は言った。金持ちだけが優先される社会が幸せなのか考えるときに来ている。少なくとも「与える人が幸せになる時代」になるのは間違いない。
- 石山:家族や仲間など、近い距離感での与える幸せは経験しているが、広い範囲で与える幸せの経験値を生むためにはどうしたら良いか。
- 佐々木:与えた方が徳をする空気が広まれば良い。
- 高木:イベントもそうだが、参加するよりも登壇・運営側に立つ方が得られるものが大きい。小さな成功体験を積み重ねていくことで、それぞれが人に与える側の良さを知るのが良い。
- 佐々木:ECでは価格競争になってしまい、店と顧客の繋がりが生まれにくい。令和では巨大プラットフォームの中に店と顧客の関係が構築され、小さなコミュニティがいくつも形成される仕組みが必要。
最後に「令和を生き抜いていく私たちが持つべきスピリット」について、登壇者が一言共有したところで、イベントは終了した。
- 津田:「Beyond ALL」時代に合わせながらルールをうまく変え、当たり前から飛び出して行く力。
- 佐々木:昭和時代の古い神話のような常識は終わった。新しい時代に適合した、普遍・良識・標準とは何かを、21世紀から22世紀にかけて新しい常識を作ろう。
- 高木:「PtoP(Person and publicの略)」仕事と家庭・働くと消費が分断されていたのが20世紀的な昭和な価値観を、いかに色々なコミュニティで混ぜ合うか。
* * *
キャッシュレス・令和時代の思想など、一連の社会の動きは、これまでを否定するのでなく、原点に還っているときなのだと感じた。今、創出されているシェアサービスに自分自身が参画意識を持ち、生活の中で活用・実践していきたい。
仕事と家庭など、これまで分断的に考えられていた思想の格差がなだらかになり、真の平和に繋がる令和時代の変容に期待している。
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