「TAURI」を使う前に、まず「Rust」の所有権を理解する

2023年11月2日(木)
大西 武 (オオニシ タケシ)
第4回の今回は、「TAURI」をプログラミングしていく前に「Rust」で最も重要な「変数」に与えられる「所有権」について解説します。

はじめに

今回は、Rustの最大の特徴と言っても良い「変数」の「所有権」について解説します。本連載の第1回で変数には所有権があり、「スコープ」内だけで変数に所有権が与えられ、スコープから抜けたらメモリから解放される、と説明しました。

それだけでなく、所有権にはもう1つ重要な定義があり、1つの所有権は唯一の変数だけが持ちます。所有権を借りた場合を含み所有権がないと変数は使えません。そのことに関して主に次の5つが重要になります。

  • ムーブ
  • クローン
  • コピー
  • 参照
  • 借用

また、「let」で変数に所有権を与えることも、所有権の5大要素に加えて重要となります。これはこれまでの連載でも既に解説したスコープ内だけで所有権が与えられて変数を宣言することに含まれますね。

ただし「数値」の変数に関しては所有権を考慮する必要はありません。数値を代入して所有権が移動(ムーブ)することを「コピー」と言います。

以降、「Visual Studio Code」などで「good」プロジェクトを作成したりビルドしたり実行したりする方法は第1回を参考にしてください。

所有権の「ムーブ」について

変数については前回で簡単に解説したので、今回は変数の所有権が移される「ムーブ」から入っていきます。

プログラミング言語「C/C++」のポインタを使える人ならピンとくるでしょうが、C++で「new」してメモリを確保した変数を別の変数に代入したら、片方の変数だけを「delete」してメモリの解放をしてやれば良いですね。両方の変数をdeleteすると例外がスローされます。だからRustも例外がスローされないように変数の「アドレス」を持てる唯一の変数の所有権が移されるような感じです。

図1とサンプルコードのように所有権を移して移動した後は元の変数は使えません。元の変数でも所有権が使えるようにするには、所有権のクローンを作って複製したり所有権の参照を渡したりしますが、それらについては後で解説します。

図1:所有権の「ムーブ」

・所有権のムーブのサンプルコード
fn main() {
    let good1 = String::from("Good");
    let _good2 = good1;
    println!("{}",good1); // エラー!
}

【サンプルコードの解説】
「good1」変数に"Good"という文字列を代入して宣言します。
「_good2」変数に「good1」変数を代入すると所有権がムーブされます。
「_good2」変数の先頭に「_(アンダーバー)」を付けているのは、この変数が1度も使われることがないことを表しています。
「good1」変数をターミナルに表示しようとしますができません。

このサンプルコードをビルドすると「println!("{}",good1);」のところで次のようなエラーが出ます。「good1」の所有権が「_good2」に渡され、もう「good1」には所有権がないためです。

・所有権の「ムーブ」のサンプルコードをビルドするとエラーが出る
PS C:¥Users¥Roxiga¥Documents¥Rust¥good> cargo run
   Compiling good v0.1.0 (C:¥Users¥Roxiga¥Documents¥Rust¥good)
error[E0382]: borrow of moved value: `good1`
 --> src\main.rs:4:19
  |
2 |     let good1 = String::from("Good");
  |         ----- move occurs because `good1` has type `String`, which does not implement the `Copy` trait
3 |     let _good2 = good1;
  |                  ----- value moved here
4 |     println!("{}",good1); // エラー!
  |                   ^^^^^ value borrowed here after move
  |
  = note: this error originates in the macro `$crate::format_args_nl` which comes from the expansion of the macro `println` (in Nightly builds, run with -Z macro-backtrace for more info)
help: consider cloning the value if the performance cost is acceptable
  |
3 |     let _good2 = good1.clone();
  |                       ++++++++

For more information about this error, try `rustc --explain E0382`.
error: could not compile `good` (bin "good") due to previous error

所有権の「クローン」について

所有権が移った後も元の変数の所有権を保持するには、図2とサンプルコードのように変数の「clone()」メソッドで「クローン」して複製を作ります。

クローンすると変数の複製が作られるので、その「値」は別の「アドレス」に作られます。つまり別のアドレスなので、それぞれの変数がmut(ミュータブル、書き換え可能)の場合、違う値に変更されることがあり得ます。ここで値とは数値や文字列や配列やタプルや構造体や列挙型など、すべてを指します。

図2:所有権の「クローン」

・所有権のクローンのサンプルコード
fn main() {
    let good1 = String::from("Good");
    let good2 = good1.clone();
    println!("{}",good1); // エラーなし
    println!("{}",good2); // エラーなし
}

【サンプルコードの解説】
「good1」変数に"Good"という文字列を代入して宣言します。
「good2」変数に「good1」変数のクローンを代入します。
「good1」変数をターミナルに表示します。
「good2」変数をターミナルに表示します。

著者
大西 武 (オオニシ タケシ)
1975年香川県生まれ。大阪大学経済学部経営学科中退。プログラミング入門書など30冊以上を商業出版する作家。Microsoftで大賞やNTTドコモでグランプリなど20回以上全国区のコンテストに入賞するアーティスト。オリジナルの間違い探し「3Dクイズ」が全国放送のTVで約10回出題。
https://profile.vixar.jp

連載バックナンバー

開発言語技術解説
第15回

「TAURI」でデータベースを使ってみよう

2024/5/10
第15回の今回は「TAURI」でオープンソースのデータベース「SQLite3」を使用して、テーブル表に表示する解説をしていきます。
開発言語技術解説
第14回

「TAURI」で気象庁の「CSVデータ」を解析する

2024/5/1
第14回の今回は気象庁のWebサイトから指定した地域の1年間の気象データをダウンロードして「TAURI」で解析していきます。
開発言語技術解説
第13回

「TAURI」で「簡易RSSリーダー」を開発してみよう

2024/4/16
第13回の今回は「TAURI」で「RSSフィード」を読み込んでWebページに一覧表示し、リンクのページを開くための新規ウィンドウを作成するところまでを解説します。

Think ITメルマガ会員登録受付中

Think ITでは、技術情報が詰まったメールマガジン「Think IT Weekly」の配信サービスを提供しています。メルマガ会員登録を済ませれば、メルマガだけでなく、さまざまな限定特典を入手できるようになります。

Think ITメルマガ会員のサービス内容を見る

他にもこの記事が読まれています