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  インタビュー

EMCは「Everything Must Change」の略?EMCのOSS戦略とは

2015年9月4日(金)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita

EMC連合の一社、PivotalはHadoopのソリューションを開発するソフトウェアカンパニーという側面もあるが、その中のPivotal Labsはアジャイル開発の推進を企業向けにコンサルティングする部門だ。そのPivotal LabsはDojoという施設をサンフランシスコに持っており、その名の通り、「道場」で数週間、ここにエンジニアが泊まり込んで朝から晩まで集中してアジャイル開発、Extreme Programing、Pair Programingなどを学ぶための独立した施設になっている。前置きが長くなったがそのDojoが東海岸にも設立されるということでボストン市内のケンブリッジにあるEMCのオフィスに訪問した。EMCといえばソフトウェアと言うよりもハイエンドのストレージアレイなどの製品が代表するようにハードウェアの会社というイメージが強い。そのEMCが如何にソフトウェアカンパニーに変わろうとしているのか、複数のエグゼクティブにボストンでインタビューを行った。

最初に取材に応えてくれたのはEMCのブライアン・ロッシュ氏(Brian Roche、Senior Director of Engineering, Cloud Management & Orchestration Division)だ。

Dojoオフィスに描かれていたEMC Codeのイラスト

図1:Dojoオフィスに描かれていたEMC Codeのイラスト

EMCが東海岸にDojoを作ろうと思ったその理由については以下のブログを参照されたい。
http://pulseblog.emc.com/2015/03/19/emc-turns-open-source-sensei-stages-first-cloud-foundry-dojo/

シニアディレクターのブライアン・ロッシュ氏

図2:シニアディレクターのブライアン・ロッシュ氏

まずDojoの目的を教えてください。

EMCがDojoをボストンに作った目的は2つあります。一つ目はDojoでオープンソースソフトウェアの開発を学び、コミッターになれるようにすること、もう一つがEMCがオープンソースソフトウェアに貢献することによってEMCの利益になることです。それを徐々にやろうとしています。最初はCloud Foundryに投資し、OSSでの開発手法を学ぶこと。Pivotalと協働しながら、企業の中のエンジニア、プログラマーがオープンソース的な開発手法に慣れてもらうことです。そして究極的にはEMCの製品を使って貰い、利益をもたらしてくれることを期待しているのです。

EMCはもともとエンタープライズ向けのストレージの会社というイメージがありますが、それが変わったということでしょうか?

社内のエンジニアの数を正確に数えたことはありませんが、全世界で約70,000名の社員の中でハードウェアに関わっている数はかなり少なくなっています。それぐらいソフトウェアをメインに開発していると言っていいでしょう。私はクラウド関連の部署にいるので特にそういえるのかもしれませんが。

Dojoは顧客に対してアジャイルなソフトウェア開発手法を伝授する場所ということですが、他社に比べて差別化のポイントということでしょか?

メソドロジーを教えるだけではなく我々の特長はオンプレミスのコンピューティングとパブリックなクラウド、そしてそれがハイブリッドになったコンピューティングスタイルを実現できること、ですね。全てがDevOpsの感覚でアプリケーションを毎日のようにデプロイする必要が無い、もしくは規制によってそれが出来ないお客様もいますから。ただしソフトウェアの開発手法としてはアジャイルはとても評価されていると思います。モバイルとコンテナーテクノロジーも現代のビジネスにとって非常に重要な要素だと思います。ただ、コンテナーにしても単にマイクロサービスとして開発運用するだけではなくそれを如何に管理するのか、より大きな視点でみればシステム全体を管理して運用するという視点が無ければ意味が無いと思います。特にコンテナーやパブリッククラウドに関してはスタートアップ企業にとっては非常に重要なポイントだと思います。なにせスタートアップは資金があるうちに素早くサービスをリリースして顧客を集めなければいけませんから。

EMCはフェデレーション(連合)としてPivotalやVMwareなどと協力しているということですが、実際にはどうやって活動しているのですか?

我々はDevOpsの文化をフェデレーションの中に拡めようとしています。たとえば毎月のミーティングなどは当たり前ですが、世界各地に拡がるさまざまな拠点をまとめようとするためには、社外の顧客だけではなく常に社内のカスタマーを意識する必要があります。これはTOYOTAなどのグローバルカンパニーでも同じではないでしょか。Dojoはアジャイルでテストドリブンな開発手法を推進することで6週間のプログラムの半分くらい過ぎた辺りから、プログラマーは自主的に何をすればいいのかが分かるようになるほどに集中したトレーニングですが、それをEMCフェデレーションの中に拡げていこうとしています。私は東海岸の出身ですが、毎月のようにサンフランシスコにも通っていますし、ケンブリッジ界隈にいるほかのITベンダー(AkamaiやMicrosoft)などとも良く話をしますよ。

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EMCのクラウドビジネスの担当ということでDojoによるアジャイル開発だけではなくハイブリッドクラウドにも注力しているのが分かるインタビューであった。

次にインタビューを行ったのは、EMCの中で「EMC{code}」というイニシャティブの指揮を取っているアート・ミン氏(Art Min、Vice President、 EMC Code)だ。ミン氏は西海岸に拠点を持っており、今回はボストン郊外のホプキントンにあるEMC本社からシアトルのオフィスにテレカンファレンスでインタビューを行った。

DockerConで手に入れたというTシャツを着るアート・ミン氏

図3:DockerConで手に入れたというTシャツを着るアート・ミン氏

EMC{code}とは何か?まずそこから教えてください。

EMC CodeはEMCが推進するオープンソースに関するエバンジェリストプログラムで端的に言えば、オープンソースソフトウェアを必要とするベンチャーなどにEMC製品を使って貰うための啓蒙活動と言っていいと思います。これまでベンチャー企業などが新たにアプリケーションを開発して、自社のシステムを構築する場合にAWSなどのパブリックなクラウドやオープンソースソフトウェアなどを活用することが当たり前という状況に対して、もっとEMCの先端的な製品を使ってもらおう、そのために自らコードを書いてプログラマーと対話して啓蒙していこう、というプログラムです。我々はとても少ない人数、12人のグループで活動していますが、主にエンジニアで構成されています。様々なイベントなどでオープンソースソフトウェアとEMCの製品のインテグレーションを紹介したり、オープンソースソフトウェアから利用するためのツールやドライバーを書いたり、トレーニングを実施したり、カンファレンスで講演をしたりしています。より詳しくはGithubのページを見てもらえるとわかって頂けると思います。

EMC CodeのGithubページ
http://emccode.github.io/

EMCはオープンソースソフトウェアではなくてハードウェアや商用ソフトウェアをビジネスの中核にしていると思いますが、そのEMCがオープンソースを推進する理由はなんでしょう?

EMCにとって(既にスタートアップというには巨大になってしまいましたが)TwitterやDockerなどのスタートアップは成長が期待できる対象なのですが、これまでは彼らの目から見てもEMCの製品は選択肢に入らなかったし、EMCにとってもスタートアップに製品を提供しようというマインドセットになっていなかったです。それを修正することを目的にしています。例えば、DockerからEMCのストレージ製品のECS(Elastic Cloud Storage)やScaleIOを使うためのドライバーなどのソフトウェアを公開しています。よくオープンソースソフトウェアは無料だと言いますが、Red Hatのビジネスをみてもわかるようにサポートなどの部分は有償なのです。なので必ずしもオープンソースソフトウェアが無償でコスト的に優位にあるというのは疑問だと思います。我々の顧客でも無償のオープンソースソフトウェアを使っていてもインストールやカスタマイズなどのインテグレーションをして欲しいという企業は少なからずいますし、コスト面だけでオープンソースソフトウェアを選択するということではないと思います。

その意味ではスタートアップが今はオープンソースソフトウェアを使っていても規模が拡大したり、ビジネスが大きくなった時にEMCの製品を選択して貰いたいということでしょうか?

そう言ってもいいかもしれませんね。とにかく今はオープンソースソフトウェアがEMC製品とも一緒に使えるということを広めていけたらと思います。向こう12ヶ月の目標としてはGithubで公開しているソフトウェアのダウンロード数を増やしてEMC以外からのコントリビューションを増やしていくことです。

サンフランシスコのDojoのオフィスの様子

図4:サンフランシスコのDojoのオフィスの様子

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エンタープライズストレージソリューションのEMCは既にオープンソースソフトウェアに対して自社ソフトを公開して、貢献する方向に舵を切ったと言えるかもしれない。これはストレージなどの領域で様々なオープンソースソフトウェアが公開されホワイトボックスサーバーでの実装が行われている状況に対して危機感を持ったEMCとしての競合対策なのだろう。「オープンソースソフトウェアを使った競合他社に顧客を奪われるぐらいなら自社のソフトをオープンソースソフトウェアにして顧客ベースを維持する」戦略の表れなのかもしれない。

ちなみにタイトルの「EMCはEverything Must Changeの略」というのは今回の訪問に同行してくれたEMCのPR担当者にケンブリッジから本社まで同乗させてもらった時に最近のEMCの若手社員の中で話されているジョークのひとつということだったが、あながちジョークでもなく真剣に「変わらなければいけない」と考えていることを感じさせるエピソードだった。

現行の「ハイエンドハードウェアと商用ソフト」と「コモディティハードウェアとオープンソース」の2本立ての戦略がRed Hatのように保守サポートを売上のメインにするビジネスに発展するのか、そのまま2本立てで行くのか、EMCのオープンソースソフトウェア戦略を興味深く見守りたい。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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