DELLとの合併を前に製品を整理したEMC。Modernizeを目指す―EMC Worldレポート

2016年5月31日(火)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
EMC Worldがラスベガスで開催された。マイケル・デルも登壇し、合併が両社にとって最善の選択であったと強調。果たしてポートフォリオカンパニー同士の合併の先にあるものは何か?

ストレージの老舗というよりも今やDELLに買収されるEMCというほうが通りがいいと思われるEMCが例年のプライベートイベント、EMC World 2016をラスベガスで開催した。今回はジェネラルセッションを中心にレポートをお届けする。

DELLによるEMCの買収が発表された2015年10月以来、両社の持つ製品やカルチャーがうまく合うのだろうか?が業界では話題の一つであり、その意味は合併によって顧客に対するシナジーが生まれる様な製品やサービスの提供が起こりうるのだろうか?ということだろう。当然、買収を繰り返して大きくなってきた両社だけにオーバーラップは存在する。EMCの屋台骨であるストレージについてDELLはEqualLogicを2007年に買収、Complellentを買収したのが2011年である。またセキュリティについてもEMCがRSAを買収したのが2006年、DELLがSecureWorksを買収したのが2011年だ。

また近年大きな流れとなっているハイパーコンバージドインフラストラクチャーについても、EMCはVCE、VxRail、VxRACKなどかつてCiscoと協業していたVCEの製品も含んで多くの製品を持っている。VCEも今やEMCの一事業部だ。DELLに至ってはVMwareが開発したEVO:RAILを搭載した製品を揃え、更にハイパーコンバージドインフラストラクチャーのパイオニアであるNutanixの製品をOEM供給を受けている。加えてSPOF(単一障害点)を持たない独自のアーキテクチャーでスケールアウトできるハイパーコンバージドインフラストラクチャーを実現しているScalityについても製品ラインアップにそろえているという状況だ。これだけ製品がオーバーラップしている状況で、DELLとの合併直前の2016年5月のEMC WorldはEMCにとって最後となる「EMCだけのポートフォリオを見せる機会」であったと言えるだろう。

それはEMC World初日のジェネラルセッションから見て取れた。当然ながら参加者の多くはEMCを劇的に復活させた2001年以来のCEOであるジョー・トゥッチ氏がDELLとの合併を受けてどのようなスピーチをするのかに注目が集まった。実際には思ったよりも多くを語らず、過去を自身が初めてCEOとして登壇した当時のスライドを使って振り返った後に今年がEMCのCEOとしての最後のステージになるだろうというコメントを残して、DELLの創業者であるマイケル・デル氏を招き入れた。会場はトゥッチ氏のスピーチの最後にはスタンディングオベーションとなり、EMCの従業員やパートナー、顧客から如何にトゥッチ氏が愛されていたのかを目の当たりにする一面であった。

EMC Worldのステージに立つジョー・トゥッチ氏

マイケル・デルのスピーチではどうしてDELLとEMCが合併するのか、については非常に簡単で、お互いが補完できる製品ラインアップを持っていること、一緒になることでシナジーが生まれること、を説明した。その際にHPがHPとHPEに分割されて小さくなったことをジョークのネタにして如何にDELLとEMCが一緒になることがいいアイデアなのかを語った。

なお、EMCは新会社、「DELL EMC」となり、親会社となるDELL Technologiesの傘下に入る。RSAやVMware、Pivotalなども同様だ。

ジェネラルセッションのキーとなるメッセージは今回のキャッチコピーである「Modernize」に代表されるようにレガシーなシステムからクラウドネイティブなシステムに切り替わることを示唆しているが、実際にはレガシーなシステムとクラウドネイティブなシステムの双方をカバーする製品ラインアップを持っていることを強調した。その2つの製品をパフォーマンス重視かキャパシティ重視かによってさらに分け、4つのエリアに分類することでレガシーからクラウドネイティブまで広くカバーできることを示したと言える。

製品が数多く存在し、ポジショニングが見えにくくなっていたEMCにとってはレガシーかクラウドネイティブか、パフォーマンス重視かキャパシティ重視か、によって製品を切り分けられたことは次に待っているDELLの製品との統合には良い兆候だろう。

製品はこの4つに区分けされる

ちなみに上の写真にある「Requiring A Complete Storage Portfolio」の前のスライドには「Businesses will have a Wide Variety of Workload with two distinct Architectural Paradigms」が来るので「エンタープライズには様々なワークロードがあり、それをスケールアップ型のアーキテクチャーとスケールアウト型のアーキテクチャーでカバーする完全なストレージ製品のポートフォリオが必要だ」という意味であり、まさにEMCが今回のイベントで整理したかったことと言って良いだろう。

ここでは製品以外の新しいサービスであるMyService360を紹介しよう。

MyService360を発表

MyService360はこれまでのEMCの提供するオンラインカスタマーサポートのMy Supportを置き換えるサービスで、顧客が利用するEMC製品に関するアップグレード情報などを知らせてくれるという。自社が持つ製品に関する通知や分析などを行い、事前にこういうアクションを取るべきというプロアクテイブな対処を可能にするという。同じような仕組みでRed Hatが発表したRed Hat Insightsというサービスがあるが、これは多くのオープンソースソフトウェアを提供するRed Hatがオープンソースにありがちな製品の組み合わせによる不具合などを顧客から集めたデータを集約することで分析し、あるモジュールをアップグレードした場合には他の関連するモジュールのアップグレードを促すなどということが可能になる。これは多くの顧客のシステムに関するデータを集約して分析することで可能になるサービスだが、EMCのMyService360はまだそこには至っていないらしい。製品ラインを多く持つEMCとして顧客の持つシステムに関するデータを集約してより知的なサービスに進化させていって欲しい。

初日に発表された新製品はミッドレンジのストレージ、Unityだ。EMCには珍しくVもXも付かない製品名のUnityは従来のVNXをリプレースする製品となる。オールフラッシュのモデルとフラッシュ/HDDのハイブリッドモデルを用意した製品ラインで、オールフラッシュ元年を標榜するEMCにとっては価格重視の顧客に対するオファリングということだろう。

EMC Unityを発表するDavid Goulden

この日はDELLとの合併前に製品のポートフォリオを整理した姿を見せたという形式だったが、実際にクラウドネイティブな新製品の発表は2日目以降に行われた。

パートナーが展示を行うブースもオープンとなり、如何にもアメリカらしい派手な造りのEMCブースである。RSAやPivotalもブースを構えていた。

ハードウェアを持ち込んたEMCの展示ブース
RSAやPivotalもブースを展示
著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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