Pivotalの強みはビッグデータ分析とアジャイル開発のタイトな連携
2013年設立の非常に若い会社でありながらもPlatform-as-a-Service(PaaS)であるCloud Foundryで業界をリードするPivotal Softwareが2014年12月11日に東京で「Pivotalジャパンサミット2014」を開催した。およそ200名が参加し、製品戦略、導入事例から医療におけるビッグデータの活用研究の紹介、さらにDevOpsへの提言まで幅広いメッセージを披露した。
IaaSの上位層と捉えられているPaaSは、Salesforce.comが買収したHeroku、Google App Engine、Red Hatが提供するOpenShift、マイクロソフトが開発するAzureと共にPivotalが開発するCloud Foundryなどがメジャーなプレイヤーだ。先日、PivotalはCloud Foundryをコミュニティ主導のオープンソースソフトウェアとして前進させるために40社以上の企業からの賛同を得てCloud Foundry Foundationを設立した(関連記事)。
単に大手のITベンダーがエンジニアや資金を出してオープンソースソフトウェアを開発するのではなく、ガバナンスも徹底的にソフトウェアに対するコントリビューションベースによって行われるこの新しい財団はLinux Foundationとも強いパートナーシップを獲得している。Linux Foundationの理事のJim Zemlinが賛同のビデオに単なるゲストではなくホストとして登場している辺りでもその熱さがわかるだろう。実際にPivotalの親会社にあたるEMCやVMwareなどが参加しているだけではなくHPやIBM、インテルが参加を表明し、アジア、ヨーロッパに亘ってソフトウェアベンダーだけではなくNTTなどの通信事業者、アクセンチュアなどのコンサルティングまで幅広い賛同を得ているのがわかる。
Pivotalの仮想敵はAmazon AWS
Pivotalのビジョンと戦略と題されたセッションに登壇した製品担当プレジデントのスコット・ヤラ氏は、クラウドコンピューティングの進化の一つの形態として、Amazon AWSを引き合いに出し、「垂直統合型のパブリッククラウドは結果としてベンダーロックインになり、進化が止まる」と強調した。ヤラ氏はコンピュータシステムの進化を携帯電話の進化と比べて、ガラケーと称されるいわゆるフィーチャーフォンからブラックベリーに代表される「会社のメールを読めるだけのスマートフォン」から現在の「PCに代わる端末」としてのiPhoneやAndroidの隆盛をクラウドコンピューティングにあてはめ、実はまだクラウドコンピューティングの進化は止まっていないと述べた。特にAWSとGoogle Compute Engine、AzureなどのパブリッククラウドとOpenStackやVMwareなどによるオンプレミスなクラウドなデータセンターを組み合わせて、企業向けにより良いプラットフォームを提供出来ることがPivotalの強みであると強調した。
その後に登壇したのはCloud Foundry製品を担当するジェームズ・ワター氏だ。ワター氏はこれまでの大企業がハードウェア、OS、ミドルウェアなどを固定してシステムを開発&運用していた時代は終わり、これからはクラウドをベースにしたアジャイル開発と継続的なデプロイメントを可能にする運用方法が企業にとっては重要だと米国の保険業界の事例を使って説明した。ヤラ氏が「パブリッククラウドとオンプレミスの組み合わせ」をマクロ的に捉えて解説したのに対し、ワター氏はより踏み込んでアジャイル開発とそれを支える継続的運用、つまりDevOpsによる素早い開発と運用の実現が必要だと強調した。ここで興味深かったのは、ワター氏のスライドによればIT業界の大手、IBM、HP、シスコ、オラクルなどが既にそのDevOpsの実現という流れに乗り遅れた負け組として紹介されているにも関わらず、冒頭のCloud Foundry Foudationの設立のスライドではサポーターとしてHPやIBMなどが挙げられていることだろうか。実際にはIBMはBluemix、HPはHelionでCloud Foundryの活用を推進している強力なメンバーであるわけで、全体としてはそれらの大手IT企業はクラウドには遅れてはいるものの、乗り遅れないように応援している、というのがPivotalのスタンスなのかもしれない。
Pivotalの強みはビッグデータ分析
次に登壇したPivotal Labのデータサイエンティスト、フルヤ・エミールファリナス氏はビッグデータの医療現場における活用に関して米国内の大手医療機関におけるビッグデータを活用したCode-a-Thonの事例を紹介。ここからPivotalが単なるPaaSのベンダーではないことが徐々に強調される流れになった。Pivotal、Cloudera、Hortonworks、IBMが参加したCode-a-Thonは24時間以内に公開されたデータを用いてある地域の空気の汚染データとぜんそくの発生に関する相関関係を明らかにするアプリケーションを開発するイベントだ。エミールファリナス氏はこのイベントにおいてPivotalが勝ち抜いたことを解説した。ここでPivotalのPaaSだけではないデータサイエンティストの活躍する領域、つまりビッグデータの分析に対して強力なソリューションを持っていることを紹介するセッションとなった。実際にビッグデータを専業とするClouderaやHortonworksに対してアプリを開発し、データを分析する処理において差別化することが出来るのはビッグデータ専業を看板にする新興企業にとっては脅威ではないだろうか。
より詳細な情報はPivotalのブログを参照されたい。
DevOpsの実現を推進出来るPivotalのソリューション
最後に登壇したテクノロジー担当のシニアディレクターのアンドリュー・クレイシャファー氏のセッションはこれまでの大企業向けのカッチリとしたプレゼンテーションとは趣きの異なるいかにもハッカー的なプレゼンテーションとなった。ここでは如何にDevOpsの考え方と実践が必要なのかを、日本の侍に戦いを挑んだ蒙古襲来を例にとりながら説明した。開発チームと運用チームが協力してシステムの発展を進めることが重要で特に継続的インテグレーション(CI)と素早いシステムへのデプロイメントが品質においても重要な効果をあげられることを以下のスライドで端的に紹介した。
ここでクレイシャファー氏は「ところでAmazonというブックストアがワシントン州シアトルにありますが、そこでは開発したコードを本番環境にデプロイする頻度は11秒に一回です(笑)スゴイですね!」とクラウドコンピューティングにおけるAmazonの先進性を素直に讃え、DevOpsの観点から如何にAmazonがすごいのかを訴求した。それによるとAmazonの凄さは単にサービスの機能だけではなく開発と運用を分けない企業としての文化なのだという。またオンデマンド動画サービスのNetflixがどうしてDevOpsの事例として紹介されるのかを解説した。特にNetflixに関しては従来の開発と運用が別チームでお互いの足を引っ張り続けることの弊害を強調。さらにNetflixの社内クラウドで稼働しているChaos Monkeyと呼ばれる本番環境の中でランダムにプロセスを殺すBotを紹介し、システムに何があっても止まらないように常に準備することが必要であり、それには開発と運用が一緒になって考えること、開発と運用を一緒に行うことが重要であることを訴えた。
冒頭のヤラ氏のプレゼンテーションの中でAmazon AWSはベンダーロックインを引き起こす仮想敵として取り上げられていたことを思い起こすとDevOpsの観点からはAmazonに学ぶべき点が多いということを強調したセッションとなった。
今回、Pivotalは日本での存在感を増すためのきっかけとしてこのイベントを位置付けているようで、イベントの最後には新たにCloud Foundary Foundationに加わった東芝からの簡単なプレゼンテーションもあり、PaaSだけではなくアジャイル開発やビッグデータ分析においても先進性を見せつけるショーケースとなったイベントであった。
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