連載 [第4回] :
  Red Hat Summit 2017レポート

Red Hat Summit 2017 CEOのJim Whitehurst氏がOpenShiftを語る!

2017年6月1日(木)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
Red HatのCEO、Jim Whitehurst氏、Pivotal Labとは違うイノベーションのためのLabの目的やOpenShiftの究極の目標、オープンソースソフトウェアのNetflixを目指すと語る。

Red Hat Summit 2017のジェネラルセッションにおいて、ホンダの全米進出を例に挙げて個人の発想する力の重要性を説いたRed HatのCEO、Jim Whitehurst氏だが、この記事では個別に行われたラウンドテーブルでの質疑応答をお届けしたい。特に注目してもらいたいのは、今回非常に力を注いだOpenShiftの、PaaSとしての最大の競合相手であるCloud Foundryに関する興味深いコメントだ。以下質疑応答より。

Red HatのCEO、Jim Whitehurst氏。非常に気さくで物腰の柔らかさ際立つ人物である

Red HatのCEO、Jim Whitehurst氏。非常に気さくで物腰の柔らかさ際立つ人物である

今回のサミットで公開されたOpen Innovation Labsについて教えてください。これはPivotalがXP(Extreme Programming)やペアプログラミングをPivotal Labで行っているようなものなのでしょうか?

注:Open Innovation Labsは、Red Hatがボストン市内に建設中のラボラトリーである。近傍にはケンブリッジにあるマイクロソフト、Googleなどのリサーチ部門などがあり、若い頭脳とアイデアが満ちているところ、と言ってもいいだろう。

これは実際にエンジニアが一緒になってソフトウェアを書く、ということを行う場所です。我々の持っている経験と方法論などが、顧客のプロジェクトの中に活かされるようになると思います。

Pivotal LabはXPとペアプログラミングに特化した、宗教的とも言っていいような実践のための場所だと言うのが私の印象ですが、Red HatのOpen Innovation Labsにはそういうバックボーンとなるメソッドとかはないのでは?

オープンソースソフトウェアを常に開発してきたRed Hatならではの文化的な方法論というものは、確かにあります。ただ、Pivotalがやっているような12ファクターアプリに特化したような開発と言うものではありません。実際のエンタープライズが抱えるアプリケーションというのは、必ずしも全てが12ファクターアプリであるわけもなく、それ以外のモノリシックなアプリケーションも多数存在するわけです。それらの存在を無視して、これから12ファクターのアプリケーションだけを書くためのエンジニアを養成するというのは、現実にマッチしていないのです。ですので、Open Innovation Labsでは、オープンソースソフトウェアを活用したDevOpsに向かっていけるようなアプリケーションの開発を一緒にやるということになります。

企業内に10~20%くらいしか存在しないアプリケーションを書くために、全てのエンジニアを再教育することは合理的ではありません。例えば、シリコンバレーにいるプログラマーは「独身で気ままに生きるハッカー」のように偶像化されていると思いますが、実際に企業に所属するプログラマーは「結婚していて子供は二人、それに犬を飼っている」というようなプロファイルをもっているものなのです。そしてそのようなプログラマーは1ヶ月に30分程度しか自分の知識を高めるための教育に費やしていないという調査結果があるくらいなのです。

これはあるCIOが言ったことですが、「世界にDevOpsのエンジニアは5人くらいしかいないのではないか、そしてもしもいたとしても、そのようなエンジニアはうちのような会社には来ない」、それぐらいDevOpsを実践できるエンジニアは数が少ないということです。ですから、DevOpsのエンジニアを雇おうとするよりも、自社のエンジニアを教育して移行を促すほうが現実的だと思います。もう一度言いますが、Pivotalのように12ファクターアプリケーションやXP、ペアプログラミングといった思想に特化した教育を行って、新しいソフトウェアだけを書くのではなく、より現実に即したやり方を行う。そしてRed Hatが持っている経験を使ってもらうという発想を実践するのが、Open Innovation Labsということになると思います。またそのやり方も、テキストブックで学ぶようなものではなく、実際に一緒に問題を解決するというやり方ですので、その結果を企業に持ち帰ってすぐに結果を出すことが可能になるのです。

Red Hatが作ろうとしているOpen Innovation Labsのステッカー

Red Hatが作ろうとしているOpen Innovation Labsのステッカー

Amazonとの連携が強化されていますが、他のRed Hat製品も将来的にOpenShiftと連携していくことになるのでしょうか?

AWSとOpenShiftの連携は、今回発表したようにOpenShiftからAWSのサービスをシームレスに利用できるようになっています。それと同じように、Red Hatが提供する製品もOpenShiftから同じように使えるための拡張を行っていく予定です。さらに人工知能については、これから全てのソフトウェアに人工知能の機能が入ってくると思っています。それぐらい人工知能は、特に機械学習は当たり前のものになっていくでしょう。その時にRed Hatが人工知能のライブラリー、例えばTensorFlowやCaffe2などを提供するかと言えば、「そうすることに価値があればするでしょう」とだけ答えておきます。

我々はもともと、インフラストラクチャーのレイヤーをオープンソースソフトウェアで提供するということをやってきました。例えばSAPやOracleは、その上でアプリケーションを提供するという住み分けができています。そういう意味ではOpenShiftから機械学習のライブラリーをスムーズに呼ぶことができるようになると思いますが、我々が独自に例えばTensorFlowを実装して提供するかといえば、可能性はそれほど大きくないと思います。OpenShiftに関して言えばその上で様々な製品が連携していく、例えるならNetflixのようにどのコンテンツもどのデバイスでも視聴できる、全てのオープンソースソフトウェアがOpenShiftの上で簡単に利用できる、そういうプラットフォームになれば良いと思っています。

Jim Whitehurst氏とのラウンドテーブルはアジアの他のメディアとの共同取材ということで、特に興味深いトピックを抜粋したが、12ファクターアプリに対するコメント、Ansibleが優れている理由、Googleとの住み分けなど、ビジネスとテクノロジーの双方について深い理解と洞察を持っていることが伺い知れた取材となった。ちなみにサミット2日目早朝の5kmランにCEO自ら参加したようで「ちょっと寒かったけど、気持ち良かったよね!」と気さくな人柄がにじみ出る一幕もあったことを付け加えたい。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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