EMC、ハイパーコンバージドインフラの切り札、VSPEX BLUEについて語る
ストレージ製品の最大手、EMCはホワイトボックスサーバーを使ったスケールアウト型ハイパーコンバージドインフラのアプライアンス、VSPEX BLUEのパートナー向け発表会を行った。発表に伴いEMC本社における製品ラインの責任者であるVP&General Manager, VSPEXのギル・シュナーソン氏が来日し、Think ITのインタビューに答えた。
シュナーソン氏は、イスラエル出身で元DECからコンパックを経たベテランでEMCではVSPEX及びVPEX BLUEのグローバルな統括責任者という役割である。実は来日の数日前にマウンテンバイクで落車し、鎖骨を骨折してしまったそうで怪我をおしての来日であった。そんな状況でもインタビューに応じてくれたことに感謝したい。
EMCはストレージ製品の専業メーカーと思われているが、最近はVMware、Pivotal、VCEなどと資本関係にある企業数社と「EMCフェデレーション」という連合を作って製品の連携を進めている。ハイパーコンバージドインフラストラクチャ—は最初にシスコとの合弁会社であるVCEからVBLOCKという製品が2010年に日本でも発表されたが、2014年秋にVCEに出資をしていたシスコが保有する株の大部分をEMCに売却することでほぼEMCの別部門という扱いになっていた。そして今回、新たな製品としてハイパーコンバージドインフラのアプライアンス、VSPEX BLUEの発表を行ったわけだ。EMCは先日のEMCのプライベートイベント、EMC WorldでVxRACKというハイパーコンバージドインフラの新製品をVCE製品として発表した。つまりEMCはVBLOCK、VxRACK、VSPEX BLUEという3種のコンバージド製品を持つことになったのだ。
ちなみにハイパーコンバージドインフラストラクチャーとは、x86ベースの安価なサーバー(無駄なパーツを切り捨てた俗にいうホワイトボックスサーバー)を使ってソフトウェアを活用することで高価なNASやSANを必要とせずに単純にサーバーを追加することでCPU性能を上げ、ストレージ容量を追加することが出来る(台数を追加することでリニアに性能と容量が上がる部分をスケールアウトと表現する)サーバーのことを指す。つまりこれまでのストレージアレイやスイッチ、ファイバーチャネルなどを使わずにx86サーバーとギガビットのイーサーネットだけを使ってエラスティックなクラスターを構成することを特徴とする。もともとはGoogleやFecabookが自社のデータセンターにホワイトボックスサーバーを導入し、Cassandraなどを使って分散処理することでハードウェアコストを下げながらシンプルに拡張可能なクラスターを構築していたノウハウを応用してアプライアンス化したものと考えていいだろう。先行する主なベンダーとしてはNutanix、Tintri、Scalityなどが挙げられる。
EMCはポートフォリオカンパニー。
———まず製品の位置付けを教えてください。
シュナーソン氏:このスライドで説明しましょう。我々は現在3つの製品ラインを持っています。左側のVBLOCKはスケールアップ型のサーバーで従来型のERPなどのワークロードに対応する製品です。そして中央の製品が最近発表したVxRACKでこれはハイパーコンバージドインフラとしてスケールアウト可能なデータセンターレベルのサーバー製品となります。そして右が今回発表したVSPEX BLUEです。これは左の二つ(VBLOCK、VxRACK)がエンタープライズレベル向けの製品を指向していることに対して部門レベルもしくは遠隔地のリモートオフィス、ブランチオフィス向けの製品となっています。VSPEX BLUEは管理の容易さとシンプルな運用を目的に開発されており、大量のエンジニアを抱えなくても柔軟なコンピューターリソースを配置出来るソリューションであると考えています。シンプルにするために型番(SKU)はひとつしかありません。アプライアンスの中に必要なソフトウェアのライセンスも含まれていますので、販売する時も簡単になるでしょうね。日本ではネットワールドがVSPEX BLUEの販売パートナーとして参加して頂いたことをうれしく思っています。
———他のハイパーコンバージドインフラの製品との差別化のポイントを教えてください。
シュナーソン氏:まずはVCEのVBLOCKなどとの違いですが、VSPEX BLUEは全てEMCがデザインして製造している製品であるといえるでしょう。VCEの製品はシスコのサーバーとスイッチにEMCのストレージを組み合わせたものですが、VSPEX BLUEはアプライアンスとして既に構成されており、複雑な構成や設定を必要とせずにすぐに利用できることを目指しています。また筐体のサイズが大きくないことが重要なポイントでエンタープライズ向けの製品とは違い、あまりオフィスが広くない場所にも設置が楽なことですね。
アーキテクチャー的にはVSPEX BLUEはVMwareが開発したEVO:RAILに準拠している製品です。ベースにあるVMwareのVirtual SANやvSphereなどによるVMware製品の信頼性や安定性に加えてEMCのサポートがあるところが新興のベンダーとは違うと言っていいと思います。他社は利用できるハイパーバイザーを選択できるということを利点としているベンダーもいますが、我々の調査ではアプライアンスを選択するお客様にとってそれはあまり重要ではないし、実際に複数のハイパーバイザーを使っているというお客様は非常にまれです。KVMのようなオープンソースソフトウェアを自社で管理出来るような企業はそれなりにエンジニアを抱えて自社で構築やサポートを行えるのですが、アプライアンスを選択するような企業にとってそれは事情が違うと言えます。より簡単に導入できること、管理と運用が出来ることを目指した場合、VSPEX BLUEのようなアプライアンスの意味が出てくるのです。またシステムの更新の際にも徹底的に自動化されていますので、システムの運用を続けながらシステムの更新を行うことが出来ます。これも管理を楽にしたい企業には必要な機能でしょう。
他社のソリューションが一ひとつの製品で全てを行えると言っているのに対してEMCはそれぞれの役割に合わせて製品を作っています。我々はポートフォリオカンパニーであると言っていいと思います。つまり組織の規模とアプリケーションの種類によって使い分けをして欲しいと考えています。
———EMCさんに価格のことを聞くのもどうかと思いますが、今回の製品の価格面での競争力はあるんでしょうか?
シュナーソン氏:我々は常に競合力を高めたいと思っています。今回の製品についても十分に価格競合力はあると信じています。実際にハードウェアもインテルアーキテクチャーのホワイトボックスサーバーを活用していますし。
———実際にアプライアンスを製造しているのはどこなんですか?
シュナーソン氏:EMCが既に製造しているアプライアンスにEMC Elastic Cloud Storageという製品があります。ECSと同様にVSPEX BLUEもFoxconnで製造を行っています。
———今回の発表を受けて日本ではどのように売れていくだろうと想定していますか?
シュナーソン氏:我々はパートナーと協力して販売を進めていくわけですが、AWSなどのパブリッククラウドへのゲートウェイを使ったクラウド環境のアプライアンスとして使われるようなケースと支社や小さな拠点向けのアプライアンスとして使われるような場合とでは売れ方が違うのではないかと社内では議論しています。その辺りも含めてEMCにとっては新たな領域ですので、期待をしているところです。
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これまでのストレージのハイタッチセールスに加えてチャネルを活用した量を売るためのアプライアンスであるVSPEX BLUE。Nutanixなど先行するベンダーに対して1年後にどれくらいの成長をみせているのか、楽しみである。
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