AppDynamics、2回目のユーザーカンファレンスで垣間見えた理想と現実
2015年11月30日~12月4日の5日間、アプリケーションモニタリングソリューションで急成長しているAppDynamicsがラスベガスで2回目となるユーザー向けカンファレンス「AppSphere2015」を開催した。約1500名の参加者がテクノロジーにフォーカスしたセッション、事例セッションなどに参加し、AppDynamicsのサービスの理解を深める5日間となった。
12月1日のオープニングキーノートではAppDynamicsのフィールドオペレーションつまりセールスのトップ、ジョー・セクストン氏がMCとして登場。まずはAppDynamicsが最近注力しているアプリケーションインテリジェンスの必要性やアプリケーションモニタリングの概要などを紹介した。
それから9月に新CEOとなったデビッド・ワドワーニ氏が登壇。ワドワーニ氏は前職のアドビでのデジタルトランスフォーメーション(ICTを活用したビジネスの変革)について自身の経験を紹介し、これから全ての業種業界においてデジタルトランスフォーメーションが必要であり、それを進められるのがAppDynamicsのソリューションであると宣言した。
ただまだワドワーニ氏は就任後2か月ということ、B2Bのモニタリングや分析のテクノロジーにはそれほど通じていないであろうこともあってか、その後に登壇した創業者のジョティ・バンサル氏にその辺りのテクニカルなプレゼンテーションは譲り、自身のプレゼンテーションでは主にアドビでの経験を語るに留まった。
そして創業者で現在はチーフストラテジストのジョティ・バンサル氏が登場。ここでは次期バージョン、4.2の新機能などの説明とデモをCTOのバスカー・サンカラ氏を交えて行った。最近のプレスリリースを眺めてみるとAppDynamicsはSalesforceのやり方を参考にして新しいバージョンを「Winter '16」と表記するようだ。実際にはAppDynamicsは顧客のデータセンターのオンプレミスでもSaaSの形式でも稼働できるため、オンプレミスのバージョンを4.x、SaaSとしてのバージョンをWinter '16などと表記するようだ。実際にはどちらの場合も全く同じソフトウェアである。
ここでもう一度、AppDynamicsの基本的な機能を紹介しておこう。AppDynamicsはアプリケーションモニタリングを最初の機能として開発された。現代の複雑な構成を持つWebシステムを実現するサーバー、データベース、ミドルウェア、アプリケーションなどを監視するために各プロセスやサーバーにエージェントを設定することでブラウザーから送信されたリクエストがファイヤーウォール、ロードバランサー、Webサーバー、データベースサーバー、アプリケーションサーバーなどの複数のサーバーやプロセスを介して最終的にブラウザーに返っていくまでをモニタリングするテクノロジーを基本としている。その際にマニュアルで構成を設定しなくても、エージェントから出されるモニタリング情報をコントローラーと呼ばれるエージェントを統括するプロセスが収集し、そのデータを分析して自動的に構成を生成し、どのリクエストがどのサーバーに渡っていくのかを可視化することができる。更に特徴的なのはモバイルアプリにもエージェントを組み込むことで、スマートフォンアプリからのリクエスト
がどこで滞っているのかを監視できる。更にアプリが異常終了した状況をモニタリングすることが可能でスマートフォンアプリを活用したE-Commerceやゲーム、ストリーミングなどにも威力を発揮する。
もともとCAに買収されたWily Technologyが実現していたメインフレームなどで稼働するアプリケーションの性能評価を行う機能を現代のモダンなWebシステムで実現したものと言って良いだろう。AppDynamicsの創業者のジョティ・バンサル氏はWilyでアプリケーションモニタリングを開発していたという背景があり、CAに買収されたことをきっかけに自身が本来やりたかった理想的なシステムをAppDynamicsで実現したということだろう。
まずバンサル氏は、新しい機能としてPaaS統合を紹介した。Red Hatが推進するOpenShiftとのインテグレーション、Pivotalが推進するCloud Foundryとのインテグレーション、さらにSalesforceのPaaSであるHerokuとのインテグレーションを紹介し、モダンなアプリケーション開発スタイルであるPaaSにおいてもモニタリングソリューションを組み込むことが容易に可能になったことを解説した。
AppDynamicsはもともとアプリケーションのモニタリングからスタートしたわけだが、その基本アーキテクチャーを更に進化させて最近は「アプリケーションインテリジェンス」という分析の領域に進出している。これは単に性能を監視するだけではなく、アプリがどのように使われているのか、例えばECアプリで購買がどのタイミングで放棄されたのか?その時のカートに入っていた金額はいくらか?などの「行為」を「分析」する機能を実現しているのだ。これができると単に反応速度を管理するだけではなくアプリケーションの使われ方やユーザーの動向を理解して、様々な施策が打てることを意味している。AppDynamicsのエグゼクティブが盛んに経営者層に向けたメッセージを発しているのは、単にアプリ監視、サーバー監視のニッチなソリューションと思われたくないという意図があるからだろう。
デモの中では実際にモニタリングを行っているインターフェースや統合されたエージェント管理機能などが紹介されたが、実は次期バージョンで大きなプラットフォームのアーキテクチャーを変える予定があることも明かされた。
これはエージェントから上がってくるデータのストレージをMySQLで行っている現バージョンをもっとビッグデータを指向した分散データストアに移行するというものだ。確かに死活管理だけではなくアプリから上がってくる様々なデータをきめ細かくモニタリングして分析しようとすれば、今流行りのIoTから集められるビッグデータ並みのデータ量が想定される。そこでRDBを諦め、Clouderaなどのビッグデータ処理プラットフォームと同様にファイルシステムはHDFS、データの統合にMapReduce、Redisを使ったキャッシュなどと言ったコンポーネントが使われた概念図が紹介された。ここでは分散されたサーバーを管理するためにZookeeperによる分散管理機構が採用される模様で、1分間に5億件を超えるデータを処理できるプラットフォームを目指すという。
しかし、3日間のカンファレンスに参加して感じたことは、まだAppDynamicsの伝えたいメッセージが伝えたい人には届いてないのでは?ということだった。このようなカンファレンスの場合、毎日朝一番のセッションは満員御礼、場合によっては立ち見も出るというのがこれまで大手ベンダーのカンファレンスを経験した筆者の印象なのだが、AppDynamicsのカンファレンスでは初日からキーノートセッションには空席が目立ち、それが日に日に多くなっていくというものだった。だが、一転してDeep Diveと称されたより深い技術的なセッションは満員という状況を考えると、ビジネスの経営者層にアピールしたいキーノートセッションよりももっと深く製品を理解したいテクニカルセッションを重視する参加者、つまりエンジニアが多かったということだろう。全般的にAppDynamicsのセッションに人が集まり、他のパートナーのセッションには空席が目立ったという印象だ。AppDynamicsそのものを知りたい人が多いのだろう。3日目のキーノートに登壇した「Fecabook Effect」という書籍の著者であるデビッド・カークパトリック氏の講演はビジネスパーソンには興味深いものだったかもしれないが、半分ほどしか埋まっていないシアターから直後の「Deep Dive into AppDynamics Application Analytics」というセッションに移動したみたら、超満員に立ち見、更に質問が相次ぐという状況で、まだ参加者はより製品への理解を深めたいというニーズの方が高いのだろうと思わせる光景であった。この段階を超えた先に行くのがAppDynamicsの次の課題かもしれない。
来年も同様に開かれるというAppSphereだが、機会があれば1年間の進歩を見てみたいと思わせるカンファレンスであった。
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