未来志向のデモが披露されたAppDynamicsのカンファレンス

2016年12月8日(木)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
アプリケーション性能管理のAppDynamics、同社の3回目となるカンファレンスを開催。カジュアルな雰囲気で、未来志向のデモを行った。

アプリケーションの性能をモニタリングするソリューションを提供するAppDynamicsは、2016年11月13日から17日の5日間にわたって、同社の3回目となるプライベートカンファレンス、「appsphere/16」をラスベガスで開催した。2日目のジェネラルセッションでは、まだ開発中のプロトタイプが紹介された。ベンチャーらしく現状の機能に満足せず、より未来の姿をプレビューすることで参加者の興味を盛り上げた形だ。

ジェネラルセッションはカジュアルな雰囲気で

2日目となるジェネラルセッションは、16時開始ということで直前にビールや軽食が会場でサーブされ、カジュアルな雰囲気で始まった。今回登壇したのは、プラサップ・デンディ氏。「General Manager, Product Operations and Emerging Technologies」の肩書を持つデンディ氏は、製品と研究開発のオーナーだ。デンディ氏は「今日はスライドはナシ、堅苦しい話もナシ」で楽しんでくれと訴えた。

NFL、Xeroxなどが並んだパネルディスカッション

NFL、Xeroxなどが並んだパネルディスカッション

ジェネラルセッションの前半は、AppDynamicsの顧客である4社を登壇させたパネルディスカッションということで、アメリカンフットボールの運営団体であるNFL(National Football League)、Union Pacific(全米最大の鉄道会社)、Xerox、Progressive(全米最大の自動車保険会社)のIT責任者を壇上に招き、現在、興味のあるテクノロジーやユーザーエクスペリエンスを向上させるためのアイデアなどについて語り合った。ここでのポイントは、実際に話された内容ではなく、NFL、Union Pacific、Progressive、Xeroxなどの北米でよく名前が通っている企業がAppDynamicsの顧客であるということを来場者に誇示することだったように思える。

プロトタイプ技術で魅せるデモタイム

そして後半は、いよいよデモタイムということで、前日にも登壇したCTOのバスカー・スンカラ氏が登場し、これから見せる4つのデモを紹介した。これらのデモはAppD Labと呼ばれるAppDynamicsのハッカソンのための組織で行われたプロトタイプを紹介するものだ。

最初のデモは、AppDynamicsのダッシュボードからある機能を有効にするためにいくつもメニューやボタンを押さなければいけない部分を、SearchバーからいくつかのWordを入れるといわゆるタイプアヘッド式に実行すべき機能を一覧表示するというものだ。これはjQuery.jsで実装されているものを、AppDynamicsのUIに応用したハックと言うべきだろう。このデモは、特にAppDynamicsのヘビーユーザーと思われる来場者にはウケたようで、会場から歓声が挙がっていた。ちなみにこれは、バンガロールにある開発拠点で開発されたもののようで、デモを行ったエンジニアもバンガロールから来たということだった。

2つめのデモは、ステージ上に簡単な店舗を作り、その中での購買を模したものだ。ヘッドフォンを買うために訪れたミレニアム世代の女性が商品を手に取り、購買するまでを模している。店舗の棚にセンサーが付けられており、商品が棚から取られたことを検知し、POSで販売を完了、その後に実際に売り上げが追加され、店舗の倉庫から在庫がマイナス1される。ここまでの一連の流れを、AppDynamicsのダッシュボード上からリアルタイムでモニタリングするというIoT的なデモだ。店舗や倉庫の棚に仕込まれたセンサー、POSなどにはAppDynamicsのエージェントが仕込まれており、リアルタイムで商品の在庫数から売り上げなどのデータが集計されるところがモニタリングされることで、ビジネスの結果を可視化できることを訴えた。これはAppDynamicsがモニタリングの対象として、IoTデバイスを重視しているということの訴求だろう。

店舗を模したデモを見せるBalwinder Kaur氏

店舗を模したデモを見せるBalwinder Kaur氏

3つめのデモはより現実的なもので、3 TierのWebアプリケーションを例にとり、遅延などの異常が起こった際に単にそのエラーメッセージを検知して通報するだけではなく、モニタリングされたデータの相関関係を時系列に追いかけて、本当の原因がどこにあるのかを探るRoot Cause Analysis(根本原因分析)を行うというものだ。

赤い部分の異常値が他のどのメトリックスと相関しているかを可視化

赤い部分の異常値が他のどのメトリックスと相関しているかを可視化

このデモンストレーションでは、ビッグデータと深層学習を応用して原因を探すという説明がされたが、アプリケーションの作り方、データベースやミドルウェアなどの構成の仕方によってそれぞれのエラーの出方も相関関係も変わってしまうはずだ。しかしシステムの監視と対応を静的なルールベースではなく、機械学習を使って自動的に適応させ、効率的な運用に活かそうという発想だろう。このような発想が、MicrosoftやVMwareなどのベンダー以外から出てきたというところが非常に興味深い。

そして最後のデモは、AmazonのEchoを使った音声認識機能を用いてAppDynamicsの操作を行うというものだ。単にインターフェースを置き換えるだけではなく、PagerDutyを使って担当者に注意を喚起するSMSを送るなどの仕掛けも見せることで、パートナーにも気を遣っている感じが出ていて微笑ましい(PagerDutyは、このイベントのスポンサーでもある)。

このデモと最初のタイプアヘッドサーチのデモは、英語圏であればすぐにでも欲しいというユーザーもいるだろう。全体的に学芸会的な演出も少し垣間見えたが、モニタリングをベースに様々な方向に機能を拡張していこうという意思がはっきりと現れたジェネラルセッションであった。昨年はあまりにもビジネス面に傾いたことで、エンジニアにはあまりウケなかったAppDynamicsのメッセージであったが、今年はエンジニアも多く登壇し、技術的な情報を求めるエンジニア層に応えた形のジェネラルセッションであった。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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