データセンター視点で考える全体最適化

2010年7月9日(金)
立石 琢磨

前回、データ量とトラフィック量の増加と、サーバー視点でなされてきた効率化とを比較することにより、電力消費量の増加という現代のデータセンターが抱える問題の一つについて量的な理由付けを試みてみました。今回は、サーバー視点からデータセンター視線に視野を移してみましょう。

指標(2):PUE(Power Usage Effectiveness)

PUE(Power Usage Effectiveness)という指標があります。これは米国のエネルギー効率化のための業界団体であるThe Green Gridが提唱するデータセンター設備のエネルギー効率を表す指標で、下記のように定義されます。

「データセンター全体のエネルギー消費量」÷「IT装置のエネルギー消費量」

PUEが1に近いほど効率のよいデータセンターと言うことができます。データセンター視点でPUEを改善するには、IT装置以外でのエネルギー消費量を改善すればよく、現在それらの中で注目されつつあるのが空調と電源設備での変換ロスです。

空調効率:冷気と暖気

TDP(Thermal Design Power:熱設計電力)はCPUで発生する熱量、あるいはその熱を散逸させるために必要な空調エネルギーの目安を表します。実際にCPUで消費される電力はTDPよりも大きな値になりますが、演算に使用される電力はそのうち2割程度で、残りは外部に放出されます。言わばデータセンターの空調は、この仕事をしない、多くの無駄な発熱を冷やすために存在します。

データセンターの空調を考える場合、空調効率を上げるために、サーバーの吸気(冷気)と排気(暖気)の混合を極力避けるようにします。

例えばサーバーの稼働要件として吸気が20℃以下で、このときの排気温度が24℃であったとしましょう (熱力学的にはサーバーは熱源ですから、吸気温度が熱源の温度より低ければ、サーバー内で発生した熱は吸気された冷気に移動します。単位時間にサーバー内で発生する熱量はサーバーのTDPによって規定されますので、これがすべて冷気に移動すると仮定すると、単位時間にサーバー筐体(きょうたい)を通過する風量と空気の比熱とから大ざっぱには排気温度を見積もることができるはずです。排気温度が熱源と等温にならない程度に吸気温度が低い場合には、熱力学的には吸排気の温度差(ΔT)は吸気温度に依存しません)。

24℃の暖気と等量の冷気を混合し、20℃の吸気とするためには冷気は16℃でなければなりません。サーバールーム内の空調機が24℃の暖気(排気)を回収し、16℃まで冷やすのと20℃まで冷やすのとでは、必要なエネルギー量は2倍違ってきます。当然、空調機の設定温度は、開口パネルまでの距離に応じた冷気の拡散や摩擦による温度上昇も見込んだ温度に設定します。

極端なモデルではありますが、冷気と暖気の混合が空調効率に及ぼす影響を推し量ることはできるのではないでしょうか。

こうした冷気と暖気の混合を避けるために、ホットアイル(hot aisle:暖気列)とコールドアイル(cold aisle:冷気列)とに分離するなどの工夫がデータセンターのサーバールームではなされています。さらに1歩進めて、物理的にホットアイルとコールドアイルを完全に分離してしまうようなアイルキャッピングという手法も登場してきています。

図1:(上)熱処理を考えた空調機とサーバーの関係(下)Rackableの中央上部排気(クリックで拡大)

冷気/暖気の混合以外にも、サーバールーム内のエアフローにおいて、流体力学で言うよどみ点に相当するホットスポット(熱たまり)ができてしまう心配もあります。一般にエアフローのような流体力学的問題を解析的に解くことは難しく、サーバールーム内のエアフローを詳細に設計あるいは推定するためには、机上で絵を描くだけではなく、数値シミュレーションが必要になります。

データセンターでの空調効率を考える上では、局所的にどこを冷やすかではなく、サーバーやストレージをどのように配置するか、それに対して空調機はどこに置くか、エアフローはどうなるか等、サーバールーム全体を見据えた最適化を考えなければなりません。

つまり、データセンターを全体として最適化するという問題が最優先事項に浮上してきました。

Rackableの中央上部排気

RackableシリーズのFoundation Rackとhalf depthサーバーを用いた構成では、ラックは両面吸気、中央上部排気になります。暖気が熱対流により自然に上昇する性質を利用すれば、上下でホットとコールドを「層」に分離できるようになります。

上層の暖気のみを排気できれば、暖気と冷気の混合が抑えられ、空調効率の改善によって生まれた電力余剰をサーバーやストレージで使用することができます。また単純にサーバールーム全体を満遍なく冷やすだけでよくなり、サーバールームの設計がシンプルになります。S(Space)”の効率化、PUEの効率化を同時に実現できる可能性があります。

伊藤忠テクノソリューションズ

データセンタ事業グループ DC戦略推進部 DCソリューション推進第2課 所属。2003年 CTC入社。剣道とさだまさしをこよなく愛するサーバ寄りのシステムエンジニア。これまでSun、Egenera、Rackable製品を担当。「宇宙の始まりとは?」をテーマに某室長から質問攻めにあっている。

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