連載 :
  インタビュー

本州最北端という立地条件を活かして高品質&低コストのデータセンターサービスを提供

2017年11月24日(金)
工藤 淳

本州の最北端、青森県に拠点を置き、冷涼な自然の気候を活用した外気冷房や雪氷冷房を利用した、世界最高レベルの省エネルギー型データセンターを展開する「青い森クラウドベース株式会社」。大幅な電力消費の抑制効果や、地震などの自然災害が少ない点が、安定運用と災害耐性を求めるユーザーに注目され、順調に利用者を増やしている。さらに設立から2年目の2017年にはIoTプラットフォームやオブジェクトストレージ、超高速開発ツールなどの新しいサービスを相次いでリリースしている。今回はそうした青い森クラウドベースの事業や、新サービスについて詳しく伺ってみた。

出席者
  • 長内 睦郎 氏(青い森クラウドベース株式会社 代表取締役社長)
  • 浅野 太仁 氏(青い森クラウドベース株式会社 執行役員)
  • 佐藤 威瑠 氏(青い森クラウドベース株式会社 センター長)
  • 加固 秀一 氏(ピツニーボウズジャパン株式会社 ソフトウェア事業部 執行役員 事業部長兼営業本部長)
  • 滝澤 好道 氏(株式会社ソフトウェア・パートナー 営業企画部 マネージャー)

「雪で冷やすデータセンター」ならではの省電力効果と高い可用性

----最初に、青い森クラウドベースの概要について教えてください。

浅野:現在、青森県内に3つの拠点があり、本社が弘前に、事務所が青森と六ヶ所村にそれぞれ置かれています。本州の最北端と言うと非常に遠い印象ですが、東京から青森空港までは1時間前後。そこから90分たらずでデータセンターに到着できるなど、ロケーションの面でも優れています。しかしやはり最大の特長は、外気冷房と雪氷冷房を利用した「雪で冷やすデータセンター」です。寒気の厳しい冬場はもちろん、夏場も冬の間に積み上げておいた雪の下に不凍液の流れるパイプが埋設してあって、そこで冷やされた不凍液をデータセンター内に循環させて冷やします。これだと外気を直接導入する方式に比べ、ハードウェアの故障が低くなるという利点もあります。

浅野 太仁 氏(エムキューブ・プラスハート 代表取締役社長=青い森クラウドベース・マーケティング担当)

----自然の寒気を利用する結果、省エネルギー性能にも優れていると伺いました。

浅野:データセンターの電力使用効率の指標であるPUE(Power Usage Effectiveness)で見ると、1.2未満をクリアしています。東京の最新型のデータセンターの1.5前後と比較しても、かなり高い省エネルギー性能です。電気代で単純比較すると、サーバー1本あたり5万円くらいの節約になります。もし10本持っていれば年間600万円の節約になると考えると、これは他のデータセンターにはない大きな利点です。

----信頼性や可用性という点では、何かアドバンテージがありますか。

浅野:首都圏と比べても遜色のない、高信頼のネットワークバックボーンを持っています。太平洋側と日本海側の2系統で冗長化されており、さらに山形、仙台、新潟、福島の各ポイントでも冗長化を図っているため、万が一どこかのネットワークが切れても、お客様のシステムとの接続が失われる心配はありません。

雇用創出や地域の活性化という点でも内外の人々から期待を集める

----そもそも青森という場所でデータセンター事業を始めた経緯をお聞かせください。

長内:データセンターのある「むつ小川原開発地区」は、いわゆる開発特区として産業誘致に関するさまざまな優遇制度が適用されます。また面積も東京23区の1.5倍と広く、自然災害のリスクも少ない。データセンターにはうってつけなのですが、青森県が誘致を始めた当初は応じる企業がありませんでした。せっかく冷涼な気候など好条件がそろっているのにもったいないというわけで、私たちが名乗りを上げたのです。

長内 睦郎 氏(青い森クラウドベース株式会社 代表取締役社長)

----大都市から離れていて、自然災害のリスクも少ない。客観的に見ると、実にデータセンターには最適の環境ですね。

長内:しかしプロジェクトが始まると、いろいろと問題も出てきました。そもそも当時はまだ仙台以北に、データセンター専用の回線が来ていなかったのです。そこで株式会社NTT PCコミュニケーションズに協力を依頼したところ、自費で私たちのデータセンターまで回線を引き込んでくれました。彼らとしては、首都圏から600km以上離れている点が、ディザスタリカバリの面で大いに魅力だと判断したのです。

----一方で、データセンターに対する地域の期待はいかがですか。

長内:雇用創出と地域活性化という点でも期待されており、青森県を挙げて応援していただいています。というのも、首都圏で働いている技術者やIT関連の人材には意外と青森県出身者が多く、私たちのデータセンターによって雇用が創出された結果、地元に戻ってくる人が出てきています。日本の各地で人口減少に悩む自治体は少なくありません。データセンターという経済基盤を通じて、地域に人を集める環境を実現できる意義は大きいと自負しています。

日本発のクラウドとしてリーズナブルなコストと高い信頼性を両立

----世界初の試みと言われる雪氷冷房の利点などについて、もう少し詳しく教えていただけますか。

佐藤:繰り返しになりますが、やはり省エネルギー性能の高さですね。データセンターのある六ヶ所村は、夏場でも平均気温が23℃という非常に冷涼な気候です。特に2017年は、7月でも20℃に達しませんでした。こうした気候のおかげで、もともとPUE1.2未満を目標値とする設計だったのが、現状はそれを下回るPUE1.15で稼働しています。現在の稼働率はまだキャパシティの半分くらいなので、いずれ満床になればさらに低い数値が期待できます。

佐藤 威瑠 氏(青い森クラウドベース株式会社 センター長)

----電力コストに悩むユーザー企業に青い森クラウドベースのデータセンターは、非常に大きなコスト削減効果があるわけですね。

佐藤:コスト削減の期待以上に、最近では自治体などが、エアコンをまったく使わない冷却システムなので環境にやさしいという評価から、採用が増えてきています。またクラウドの料金を転送量分の料金も含めて定額で提供しているので、予算化がしやすいという点もユーザーの評価が高いポイントです。

----いよいよ日本国内でも、リーズナブルな価格と高い信頼性を兼ね備えたデータセンターが出てきたという印象です。

長内:本来クラウドは、ユーザーの数が増えていけばコストが分担されるので安くなるべきなのに、これまでの海外の大手のクラウドサービスはそういう仕組みになっていません。そうした料金体系も含めて私たちは、あくまでユーザーファーストの視点から、日本版クラウドとして提供できるメリットを追求していきたいと考えています。

----セキュリティの面では、どのような特長が挙げられますか。

佐藤:私たちの親会社の一つに、長内が社長を務めるマルマンコンピュータサービス株式会社があります。医療関連のパッケージソリューションを長年にわたって提供してきた実績をもとに、青い森クラウドベースのデータセンターにも医療関連データ向けの設計を盛り込んであります。

またすでに青森県のセキュリティクラウドなども、私たちのデータセンターを利用いただいています。今後は電子カルテのバックアップデータや、いずれは医療システム全体をクラウドに移行するところまで利用を拡大していきたいと思っています。

----特にアピールしたい独自の技術やソリューションなどがあれば、紹介していただけますか。

佐藤:現在はまだ2年目なので、目新しい技術を追い求めるよりも、現在稼働しているサービスの安定提供というデータセンターの基本に注力しています。そのためにインターネット回線に太平洋側と日本海側の2系統を設けて、万が一障害が起こっても確実に迂回できる構成になっています。またデータセンターやクラウド基盤はクラスタ化しており、障害時にもすぐに復旧できます。もちろん運用面でも、何か気づいた点があればすぐに情報共有・対応できるよう、運用面の強化を図っているのが大きな特長です。

ユーザーの声に応えて新たに登場した3つの新しいサービスとは?

2017年9月以降に相次いでリリースされた3つの新しいサービスについて、それぞれ担当者に紹介していただいた。

WebGIS-AI IoTプラットフォームサービス
ビッグデータとオープンデータを統合・分析・加工して、可視化した分析レポートを提供

----旬のキーワードであるIoTに関するサービスですが、どのような背景や狙いがあるのでしょうか。

浅野:お客様のニーズを調べると、クラウドの利用者で一番多いのは、ビッグデータを持っている企業だとわかりました。こうしたお客様の場合、AWSだと転送量に比例してコストがかさんでしまい、何とかならないのかと私たちのところに相談に見えるケースが少なくありません。IoTの拡がりでビッグデータ活用を始めるお客様が増えているならば、そこで足りない部分を補完できるサービスがないかと考えていた時に、ピツニーボウズジャパン社からMapInfoというGIS(地理情報システム)を利用したサービスの提案をもらいました。もともと私たちはオープンデータに着目してきたのですが、オープンデータとお客様の持っているWebログなどのビッグデータ、さらにMapInfoのGISデータが連動したら、何か面白いビジネスができるのではと考えてリリースしたのが、このWebGIS-AI IoTプラットフォームサービスです。

----現在、農業や建設分野でドローンを使った測量などの試みが出てきていますが、ここにWebGIS-AI IoTプラットフォームサービスが連携できると、かなり面白い展開になるでしょうね。

加固:まさに我々もそうした認識に基づいて、青い森クラウドベースをパートナーとして、今回新しいプラットフォームサービスを提供することを決めたのです。ピツニーボウズはすでに米国で、バックエンドにある大量の位置情報のリアルタイム処理の実績を持っています。その一例としては、米国大手通信キャリア向けに、電波強度の情報をスマートフォンのアプリケーションを利用してリアルタイムで収集し、それを地図と合わせてユーザーに提供するサービスなどがあります。WebGIS-AI IoTプラットフォームサービスには、そうしたソリューションでの経験がふんだんに盛り込まれています。

S3互換オブジェクトストレージ
高パフォーマンスのオブジェクトストレージを、1GB15円の低コストで利用可能

----現在オブジェクトストレージのスタンダードになっているAmazon S3互換というポイントを押さえつつ、クラウドならではの可用性や安定性を担保したサービスとして提供できるのが特長と伺いました。

佐藤:まさに、お勧めできる利点はそこです。ストレージもクラスタ構成にしているので、耐障害性の高い構成が実現しています。AWSが提供しているS3に遜色ないサービスとして、安心してお使いくださいというところです。

----コスト面ではどうでしょうか。

佐藤:AWSユーザーで、どうしても転送コストが高くて困っているといったお客様には、当社の互換オブジェクトストレージならばAPIもS3互換なので、定額での料金プランをご提供できます。そうした意味で、すでにある程度稼働しているシステムならば、こちらに移行していただくことで、コストメリットが出てくる可能性があります。

----コストを考えず必要に応じて好きなだけリソースをスケールさせて使って、いらなくなったらすぐに手放せるのが、クラウドの大きな魅力の一つです。

浅野:おっしゃる通りです。予算を気にせずに、とにかくビッグデータを思い切り収集・処理・分析したいというのがお客様の気持ちです。その気持ちを最優先に、ビジネスドリブンなストレージ活用が実現できるのが、S3互換オブジェクトストレージの最大の特長です。

Wagby on 青い森クラウドベース
システムの知識がないエンドユーザーでも、簡単に使えるクラウド版の超高速開発ツール

----ここ数年、超高速開発ツールというのが注目を浴びていますね。

滝澤:超高速開発ツールにもいろいろな製品がありますが、その中でもWagbyは純国産のツールであること、もう1つ、クラウドと親和性が高い点が重要なセールスポイントになっています。アーキテクチャがJavaのためマルチプラットフォームで動作可能なことから、Linuxベースで運用されているお客様が多いクラウド環境とも非常に相性がよいのです。

また「Wagby on 青い森クラウドベース」は、システムの開発と運用に必要なすべての環境を「クラウドサービス」として提供しています。この「課金で使える = ソフトウェア資産を自前で持つ必要がない」という点もメリットの一つで、少ないコストでシステムの開発と運用ができる点が大きな魅力です。

----クラウドの場合、あらかじめ提供されている以外の機能が使えないといった制限がしばしば指摘されます。

滝澤:Wagby on 青い森クラウドベースでは、自社の業務にマッチした完全オリジナルの業務システムを、お客様自身で開発・利用できるサービスを月額課金で提供しています。私たち株式会社ソフトウェア・パートナーはSIerとしての30年以上の経験から、最近のお客様の大きなニーズを精細に分析。その結果をもとに、企業のビジネス活性化に貢献する業務システムを月額課金で安価に提供しようとの狙いから、今回このサービスを開発しました。

----ノンプログラミングで、業務担当者みずからシステムを作れるのは、非常に便利ですね。

滝澤:これまでに導入いただいた企業でも、まったくシステムの知識がないエンドユーザーの方が、Wagbyを使ってオリジナルのシステムを開発・運用なさっています。これまで業務システムというのは、専門のシステムエンジニア以外にはとても扱えないものでした。それがWagbyを使えば、業務を一番理解している業務担当者が、自身に必要なものを短期間で開発できようになるのです。

滝澤 好道 氏(株式会社ソフトウェア・パートナー 営業企画部 マネージャー)

----基盤となるデータセンターに加え、各種の新しいサービスも登場して、ますます青い森クラウドベースの可能性が拡がっていくと予想できます。最後に長内社長から、今後に向けた抱負をお願いします。

長内:上でもお話したように、ユーザーファーストの理念に基づいた純国産のデータセンターサービスを、これからも提供していきたいと考えています。しかしそれは私たち1社でできることではありません。パートナー各社も含めいろいろな方々と力を合わせて、ユーザーに喜んでいただけるサービスの実現を目指したいと願っています。

----本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。

フリーランス・ライター兼エディター。IT専門出版社を経て独立後は、主にソフトウェア関連のITビジネス記事を手がける。もともとバリバリの文系出身だったが、ビジネス記事のインタビュー取材を重ねるうち、気がついたらIT専門のような顔をして鋭意お仕事中。

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