データセンター視点で考える全体最適化

2010年7月9日(金)
立石 琢磨

指標(3):TCO(Total Cost of Ownership)

最後にもう一つの考慮すべき効率化要素として、TCO(Total Cost of Ownership)、データセンターでの保守・運用コストがあります。

日本人的な保守・運用の考え方と、クラウド世代を想定した保守・運用の考え方とは根本的に相いれない部分があります。いわゆる日本人的な保守・運用とは、単一障害点なくシステムを設計し、システムのあらゆる事象を把握・整理し、練られた手順書に基づく手堅い対処と、「24/365+駆け付け3時間」に代表される迅速な対応による緻密かつ繊細なものです。

これは小規模なシステムや基幹系のシステムでは致し方のないことです。運用アウトソーシングのビジネスは、多様なシステムを一括して運用することにより、共通する必須要素に帰納しメニュー化することで運用コストを抑えて提供するものでした。

クラウドと呼ばれるシステムは分散処理によって特徴づけられる多ノードからなるシステムです。数千台を超えるサーバー群を緻密かつ繊細に運用・保守することは容易でなく、またこの規模であれば、導入時期や、ハードウエア構成も違ってきてしまいます。

「はやぶさ」に対して7年にわたってなされた運用手法は、クラウド世代向きとは言えません。

「Everything should be made as simple as possible, but not simpler.(あらゆるものはシンプルであるべきだ)」

これは物理学者アインシュタインの言葉です。彼を貫いた審美眼でもありました。

大量のサーバーやストレージで構成されるクラウド世代に適したデータセンターでの運用・保守の考え方も可能な限りシンプルなものにしなければなりません。システムにかかわる登場要素が増えるにつれ、局所的にルールや規則を適用することは新たな例外や複雑さを生み出す負のスパイラルになりかねません。複雑なシステムを繊細・緻密に運用しようとすれば、そのまま運用コストに跳ね返ります。

図3:ファシリティからハードウェア、運用保守までを一貫して全体最適化する

サーバーやそのコンポーネントにMTBF(平均故障間隔)があるように、モノは必ず劣化し、いずれ壊れます。またクラウド世代のシステムには膨大なトラフィック、データ、人によってランダムな揺らぎが与えられます。

壊れても慌てないシステム設計、壊れる予兆やinfoレベルのメッセージで焦らない運用設計、リプレース・拡張が容易な全体設計、自前作業ができるようなシンプルなハードウエア。大量のサーバーやストレージからなるクラウド世代のシステムを相手にするとき、局所的な「視点」ではなく、ファシリティからハードウエア、運用保守までを一貫した「視線」でとらえて全体最適を図っていくことによって、シンプルなシステムとその運用を実現できるのではないでしょうか。

結び:クラウド世代の福音とは?

今回いくつかの指標を例にとりましたが、既にお分かりのようにこれらには「計算する人の思惑」が含まれがちです。指標の数値にだけ視点を向けるのではなく、考え方の視線をその中から拾い出すべきでしょう。

クラウドはユビキタスやユーティリティコンピューティング、リソースプール、N1、On Demand、Adaptiveといった、「はやぶさ」が旅立ったころにはビジョンにすぎなかった概念が、現実のものとなってきつつある現在において、タイムリーに現れたキーワードです。

ユーザーには「クラウド」がまさに福音に聞こえ、これまでの複雑さを回避し、効率を向上させるマジックピースに見えるかもしれません。しかしそのシステムを抱えるデータセンターはユーザーが吐き出した複雑さ、非効率さを一手に引き受けることになります。

データセンターにとっての福音は、シンプルに全体最適された、効率のよいデータセンターとは?という新しい課題に答えが見えたころ、聞こえてくるのではないでしょうか。

伊藤忠テクノソリューションズ

データセンタ事業グループ DC戦略推進部 DCソリューション推進第2課 所属。2003年 CTC入社。剣道とさだまさしをこよなく愛するサーバ寄りのシステムエンジニア。これまでSun、Egenera、Rackable製品を担当。「宇宙の始まりとは?」をテーマに某室長から質問攻めにあっている。

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