省電力によるコスト削減

2009年9月1日(火)
渡邉 利和

消費電力削減へのアプローチ

 地球温暖化への対策としても、エネルギー資源問題への対応としても、エネルギー利用の高効率化に対する関心が高まっている。京都議定書の制定以後、各産業分野でのCO2排出量削減が進んでいる一方で、IT関連の消費電力量は増加し続けており、換算したCO2排出量も増えているということで問題視されているのも周知のとおりだ。2010年からは改正省エネ法(エネルギーの使用の合理化に関する法律)が施行されることもあり、企業での省エネ化への関心も高まっている。
 経産省主催による研究会の調べによると、2006年の日本の総発電量約1兆kWhに対し、IT機器の電力消費量は5%にあたる約500億kWhに上っている。CO2に換算すると約2600万t分で、乗用車800万台に相当するという。省エネの技術進歩がこれまでと同じペースで続いた場合でも、IT機器の電力消費量は2025年には約5倍の2400億kWh(CO2約1.3億t相当)、2050年には11倍の5500億kWh(同約3億t相当)になると見込まれている。
 また、EPA(Environmental Protection Agency:米環境保護局)によると、米国内の2006年のデータセンターの年間電力消費量は610億kWh。米国の電力消費量の1.2%。過去5年間でほぼ倍増しており、2007年から5年後には1000億kWhを突破すると予想されている。1000億kWhを電気代に換算すると約74億ドルに相当する。
 こうした電力の多くは、IT機器自体が消費する電力だけでなく、サーバーから発生する熱を冷却する装置が消費している。つまりこの問題に対しては、「IT機器自体の消費電力削減」と、「データセンター設備での消費電力削減」の2つのアプローチがある。

 Green Gridから2007年に提案された「世界的に通用する指標」として重視されているPUE(Power Usage Effectiveness)という指標がある。PUEは、以下の式で表される。

PUE=「データセンター全体のエネルギー消費量」÷「IT装置のエネルギー消費量」

全電力消費量に占めるIT装置の使用比率ということであり、値が小さいほどIT機器以外で使用されているエネルギーが少なく効率的であることを意味する。データセンターで消費される電力のすべてがIT機器で使用されていれば“1.0”となるが、これは現実にはあり得ない。
 実績値として、米国での平均的なデータセンターのPUE値は2.5~3.0程度だといわれている。EPAの発表によれば、これを2011年をめどに1.45に向上させることを目標としている状況だ。一方、国内で一般的なデータセンターは、2.2~2.5が平均的な値となっている。この差は、米国の多くのデータセンターが大規模な郊外型で、無人化、外気冷房などを取り入れた設備であるのに対し、国内のデータセンターは、都市型でビル内に設置されており、エネルギーの効率化を図るにしても制約が多いことが原因となっている。

省電力化への取り組み

 一般的なデータセンター内の電力消費の内訳を見てみると、IT機器冷却のための空調設備と、IT機器に給電するための電源設備での消費量がかなりの比重を占めていることがわかる(図1)。つまり、サーバー、ストレージ、ネットワークといったIT機器の消費電力を下げることと、IT機器から発生する熱を冷却するための電力を、必要最小限に抑えるというアプローチになる。
 空調を効率的に行うということは、冷やしすぎをなくし、必要な分だけ熱処理を行うということだ。そのためには、まずデータセンターの環境自体を把握する必要がある。そのための監視システムとして、アバール長崎や日本ノーベルなどが製品を販売している。また、環境アセスメントをサービスとして提供している事業者も増えており、最近はCFD(Computational Fluid Dynamics:数値流体力学)を応用した熱分布シミュレーションなども使われるようになっている(http://www.impressrd.jp/idc/story/2009/02/03/709)。
 特に最近は、ブレードサーバーなどの普及によってIT機器の高密度化が進行しており、局所的に大量の熱が排出されることが増えてきたことから、従来の部屋全体の空調に加えて「局所冷却」を取り入れる動きも一般化してきた。さらに、それでも冷却能力が不足する事態を見越し、水冷化も現実的なテーマとして見直されつつある。水と空気の比熱の違いから、冷水で冷却する方が大量の熱運搬が可能になるためだ。ただ、国内のデータセンターでは、水冷設備上の課題だけでなく、防災対策上のポリシーから、水冷が使えないデータセンターも多くあり、国内ではより効率の高い空調を開発するというアプローチが採用されている。

某出版社で雑誌や書籍の編集者として勤務していたが、2000年に退職し、以後はフリーランス・ライターとして活動中。もともとはUNIXとTCP/IPに関心を持っていたが、UNIXマシンがワークステーションからエンタープライズ・サーバーへと市場をシフトするのに引きずられ、いつの間にかエンタープライズIT関連の仕事が増えてきた。最近は、SDNやビッグデータ対応がネットワーク/ストレージのアーキテクチャに与える影響について興味を持っている。

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