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連載 :
  インタビュー

データセンターでは世界初の雪氷冷房 「青い森クラウドベース」、青森でのビジネス展望を語る。

2015年5月27日(水)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita

自社でコンピュータを用意せず、外部のサーバーを活用する、いわゆる「クラウドコンピューティング」の導入が個人から中小、大企業へと進んでいる。

クラウドコンピューティングとひとことで言っても、実際にはアプリケーションを月額契約したり、サーバーをレンタルしたり、自社サーバーの運用管理を委託するなどの様々な形態があるが、いずれにしてもサーバーやネットワーク機器を設置するデータセンターへの需要は増すばかりだ。

データセンターの課題

データセンターへの需要とともに増加しているのが電力消費コストだ。特にサーバーが小型化し集積度が上がるにつれ、収納するラックが必要とする電力は増加する。例えば、サーバーとストレージを一体化したハイパーコンバージドインフラストラクチャーを開発・販売するNutanix社のアプライアンス「NX-3000」では1ノードで最大1900ワット、同じく仮想化に特化したTintri社のアプライアンス「VMstore T880」では1ノードで最大950ワットだ。

消費電力が多くなるに従って発熱量も増え、結果的に更なるコンピュータ機器と冷却のための電力が必要となる。データセンターを都市部に置く場合であればオフィスビルの数フロアを特別に施工して空調を強化し、大容量の配電を行い、停電時の電源供給に備えて自家発電機を屋上に設置するなど、密集する都市部のビル環境に何とか対応して需要に応えているのが実態だ。

そのような状況の中、全く別の発想で増加する電力需要と災害リスクに対する最適解を提供しようとするデータセンター企業があらわれた。青森で世界初の雪氷冷房を実現したデータセンター事業を展開する「青い森クラウドベース株式会社」だ。雪氷冷房は北海道や新潟などで野菜や米の保管庫として建設されており、降雪が多く農作物の備蓄が必要な地域で広まりつつある方式と言えよう。商業施設では北海道の新千歳空港が冷房施設に雪氷冷房を採用しており、農業以外の分野でも徐々に導入が広がってきている。

新千歳空港における雪氷冷房の事例
http://www.cls-web.com/business/cool_project.html

そこで今回は、2014年5月に創設された青い森クラウドベース株式会社の専務取締役、宮本啓志氏に雪氷冷房の利点、青森にデータセンターを構えた理由、将来の構想などを伺った。

青い森クラウドベース 専務取締役 宮本 啓志氏
 

雪氷冷房のメリット

―― まずは青い森クラウドベース全体の概況を教えてください。

宮本氏:現在、青森県の六ヶ所村に用地を確保して、データセンターの建設を始めました。2015年4月に起工式を行い、2016年1月から本稼働となります。現状では2棟のサーバー棟と事務棟などを建設しており、その後にもう2棟の建設を予定しています。雪氷冷房に関しては昨年冬に降った雪を蓄えて、実際に今年の夏にどれぐらいの冷却ができるかを検証することになっています。

―― まだサーバー棟が建っていないのに、雪氷による冷却効果の検証を予定しているということですね。

雪氷冷房のための雪山。ビニールシートと木片で今夏に備える

宮本氏:そうです。これは会社を立ち上げた時に私が強く主張して実現したもので、お客さまの立場では『雪氷冷房をやるのにちゃんと冷えるのか?』を検証できるモノが無い状態では信用できませんよね? だからやりましょう、ということです。

現在、検証に備えて溜めた雪にシートを掛け、その下に断熱用のウッドチップを敷いて保存してあるので、今年の夏には雪が冷水になって冷却する様を確認できます。現在の雪の備蓄量はまだ実際の1/4くらいですが、これで実証実験はできるかと。

―― つまり、冬に溜めた雪が夏に溶けて、その冷水がサーバー棟から出てくる熱水の配管を冷やして循環させ、サーバー棟の空気を冷却する、という方式ですね。

宮本氏:実際には間接外気冷房と併用して冷却します。直接外気を取り入れるのではなく、冷たい外気で中から出てくる熱い空気を熱交換器で冷やすやり方です。これだと湿度のコントロールが非常に簡単です。また外気の塵などの影響もなくなります。

青森県の年間平均気温は10.4℃と低く、東京などの首都圏とは比べ物にならないぐらい冷房に必要な電力を抑えられるのです。更に雪氷冷房が利用できないような状況でも対応できるように、通常のコンプレッサー式の冷房装置も用意しています。

―― もともと外気が冷たい場所で降った雪を蓄積して暑い時期に利用するだけでなく、通常は冷たい空気も併用して冷却するということですね。

モジュラー型のデータセンター

―― 今回、モジュラー型のデータセンターというコンセプトもあったと思いますが、そちらについて教えてください。

宮本氏:これまでのデータセンターは、一度建てたらそのまま耐用年数まで使い切るという発想でした。首都圏にある都市型のデータセンターであれば、どうしても全体の電源容量やラックの重量制限などが設計時点での構造に縛られてしまいます。

ところが、IT産業は進歩や発明が止まりません。常に高性能のサーバーがより小さくなって出てきますが、非常に集積度が高い最新のサーバーを集中的に格納しようとしても、古い構造のデータセンターでは1ラック当たり2kVAまでしか電力を供給できないことがあります。ラックにみっしりとサーバーを置いてコストを下げようと思ってもデータセンター側の電源制限で格納できず、スカスカの状態でラック数だけが増えていく、都市型のデータセンターではそんな状況をよく見かけます。

弊社のサーバー棟であれば1ラック当たり6kVA~20kVAの電源を供給できるように設計しています。また、データセンターの平屋のサーバー棟は、弊社のケースだと施工から完成まで実に約半年で済みます。つまり、いつでも最新の建築技術、最新の冷却技術を採用できますし、顧客からのニーズを取り入れて設計することもできるのです。

例えば、最近は省電力の観点から動作保障温度が40℃という高温稼働対応型のサーバーも増えてきています。以前のように冷やさなくても稼働するサーバーを収めるデータセンターは冷却に電力を必要としない分、価格に反映させることも可能になるのです。そういう変化、進歩に対応するにはモジュラー型の設計・施工ができる建屋が必要だと我々は考えています。

ちなみに、弊社の社屋の設計にはコンビニの建築ノウハウが使われています。地方に行くと、ロードサイドのコンビニは建設から営業開始までが早いと思いませんか? それと同様に、工場であらかじめ造っておき、現地であっという間に組み立ててしまう、そんなノウハウが使われています。もちろん、工期は短くても震度6強以上に対応する新耐震基準に準拠していますし、土台もしっかり造ってあります。入退場の際のセキュリティにも最新の技術が使われる予定です。

青森がデータセンター建設に適する理由

―― 青森ではなく、もっと寒い場所でも良かったのですか?

宮本氏:いろいろと調査した結果、青森に落ち着いたということです。寒いだけであればほかの場所もありますが、夏にある程度気温が上がる、つまり溜めた雪が解ける程度には暖かいというのが条件だったのです。寒すぎて雪が解けないと冷やせませんから(笑)。

気温が低いだけではなく、落雷も年間1500回以下と少ないのです。首都圏だと年間6000回ですから。台風も主な経路からは外れていますし、先の震災で問題になった津波も太平洋からは6㎞離れていますし、海抜52メートルですからかなり安心ですね。災害対策としても非常に良い立地だと考えています。実際に、首都圏や関西にあるデータセンターの災害対策拠点として検討して頂いている企業もあります。バックアップとなるサーバーの置き場所的な発想です。

―― ビジネスとしては、どのような企業をターゲットにしているのですか?

宮本氏:「今のところ、3種類のお客様を想定しています。まずは青森、東北の企業や教育機関、官公庁です。個々のIT資産はそれほど大きくないですが、数が集まれば集中させるコストメリットが出てくると思います。IT資産管理にコストを省き、安心してサーバーやアプリケーションを使って頂くことを目指しています。

次は従来のデータセンター事業、クラウド事業を行っている企業がエンドユーザーを収納するデータセンターとして使って頂く形式です。ラック数本から一棟まるまる使って頂くような形態も可能です。海外企業が大量のサーバーをハウジングする形態で使って頂く場合なども含まれます。

最後は企業のディザスターリカバリ―的に使って頂く形式です。先ほども少しお話ししましたが、関西や首都圏にサーバーを置かず、それ以外の地域にサーバーを置きたい、災害対策として使いたいというお客様です。これはグリーンでエコなエネルギーに注目している海外企業からも非常に関心を持っていただいています。

将来に向けたビジネス展望

―― 現在は2棟の完成を目標に建設が進んでいるというお話でしたが、将来の構想を教えてください。他の地域での展開はあるのでしょうか?

データセンターの外観。全てが平屋の設計。上の白い塊が雪氷だ

宮本氏:売上目標などは公開していないので具体的には話せませんが、東北地域の産官学関連のお客様はある程度集まるだろうと予想しています。既に六ヶ所村役場さんからは『使います』というコメントを頂いております。クラウド事業者の方ともお話をしていますが、セキュリティの観点からなかなか事例として公表しづらいという事情があり、大きな契約を頂いたとしても公表は難しいとは思います。

事業としては、建設中の2棟のサーバー棟は2年で一杯にしたいと思っています。施工が早いのがモジュラー型の利点ですから、2棟目が一杯になりそうな頃合いを見計らって3棟目、4棟目を建てれば間に合います。1年で1棟ずつ増やしていけたらと思っています。

また、弊社としては今のところ、他の地域への展開は計画していませんが、この事業が上手く行けば通信系やメーカー系のクラウド事業者が真似をするでしょう。それは良いことだと思います。

なお、今回のプロジェクトでは設計・施工に富士電機株式会社、雪氷冷房には積水化学北海道株式会社の協力があったという。地域の特性を活かした雪氷冷房のデータセンターが稼働する来年1月、そして酷暑を迎えるだろう来夏に「青い森クラウドベース」がどれだけの成果を挙げているのか、今から楽しみである。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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