仮想化環境の具体的な設計方法を知る

2011年2月8日(火)
宮原 徹(みやはら とおる)

仮想化環境サイジングのために理解すべきポイント

仮想化環境をどのような機器で構成すれば、必要なリソースが用意できるだろうか。要件定義の際に割り出したリソース量を、適切な設計でハードウエア構成に落とし込まなければならない。もちろん、できるだけコストを抑えながら、必要な冗長性も確保しなければならない。

仮想化環境の構成を検討する上で、理解しておく必要のあるポイントを解説する。

消費電力削減効果

上記項目3で挙げた消費電力削減効果だが、試算例を挙げておく。

既存環境では300W消費するサーバーマシンが30台稼働しており、合計が9000W。これらのマシンを仮想化統合することで、消費電力は3000W、3分の1まで削減できる。電気代に換算すると、年間約127万円、5年間で約635万円の電気代が節約できることになる。

図3:消費電力削減効果

図3:消費電力削減効果

この計算例は一例だが、台数が多いほど、またリソース使用率が低く仮想化統合の比率が高くなればなるほど電力削減効果は高くなる。ただし、あまり統合比率を高くし過ぎると、サーバーマシンが故障した時に影響を受ける仮想マシンの数が増えてしまうので、バランスを考える必要があるだろう。経験的には、1物理マシンあたり10仮想マシンぐらいが1つの目安で、場合によって仮想マシンの数を減らしたり増やしたりすることで調整すると良いだろう。

最近のサーバーマシンはかなり低消費電力になっており、発熱も少なくなるため、冷却に使用する電力も少なくなるという2重のメリットがある。台数削減と冗長性のバランスを考えながら、システム構成を検討する必要がある。

CPUの仮想化

仮想マシンには「仮想CPU」が1つ、あるいは複数個割り当てできる。処理能力を高めたい仮想マシンにはたくさんのCPUを割り当てるが、実際に計算処理を行うのは物理CPUである。仮想CPUと物理CPUの関係を理解しておかなければ、必要な性能は得られない。

図4:CPUの仮想化

図4:CPUの仮想化

まず、仮想CPU<物理CPUの状況では、特段性能の問題は発生しない。すべての仮想CPUが同時並行で物理CPUに割り当てられて処理が行えるからだ。

次に仮想CPU>物理CPU、つまりCPUのオーバーコミットメントが発生した時だが、仮想CPUの合計割当数に反比例して性能は劣化していく。例えば図にあるように仮想CPUが4つ、物理CPUが2つしかない場合、一方の仮想マシンが処理を行っている間、他方の仮想マシンは処理が行えない。公平に各仮想マシンにCPUが割り当てられた場合、各仮想マシンの受け取り処理能力は物理CPUの50%ということになる。

ここで注意しないといけないのは、物理CPUが割り当てられたとしても、必ずしも仮想マシンがCPUリソースを使い切っているわけではないということだ。OSやアプリケーションが何も動作していないアイドル状態ならば、他方の仮想マシンがよりたくさんのCPUリソースを要求していたとしても追加でCPUが割り当てられることはない。

この問題を回避するためには、まず仮想マシンに割り当てる仮想CPUの数は最小にとどめておくこと。ほとんどの場合、ゲストOSやアプリケーションはCPUが1つでも十分に動作するので、むやみに仮想CPUを多く割り当てても、性能はそれほど向上しない。そして必要に応じて仮想CPUを増やすのだが、同時に物理CPUの数も増やしていき、できるだけオーバーコミットメントが発生しないようにすることを心がける。ハイパーバイザーの設定で各仮想マシンに割り当てるCPUリソースの量(CPU時間)を調整することはできるが、できるかぎり物理設計の段階で考慮しておきたい。

メモリは多めに

メモリについては、性能を考慮すればオーバーコミットメントは避けたいところだ。ハイパーバイザーは、ゲストOSのメモリ要求に応じて物理メモリを割り当てたり、回収したりする「バルーニング」をサポートしているので、ある程度効率良くメモリを利用することはできれば、理想を言えばハードウエア障害が発生した時に、仮想マシンをライブマイグレーションやフェールオーバーできるよう、メモリは余裕をもって搭載しておきたい。

次回は、冗長化設計、ネットワークおよびストレージの設計について解説する。

[※編集部注] ページの表示崩れを修正しました(2011.07.26)

著者
宮原 徹(みやはら とおる)
日本仮想化技術株式会社 代表取締役社長兼CEO

日本オラクルでLinux版Oracleのマーケティングに従事後、2001年に(株)びぎねっとを設立し、Linuxをはじめとするオープンソースの普及活動を積極的に行い、IPA「2008年度 OSS貢献者賞」を受賞。2006年に日本仮想化技術(株)を設立し、仮想化技術に関する情報発信とコンサルティングを行う。現在は主にエンタープライズ分野におけるプライベートクラウド構築や自動化、CI/CDなどの活用について調査・研究を行っている。

連載バックナンバー

Think ITメルマガ会員登録受付中

Think ITでは、技術情報が詰まったメールマガジン「Think IT Weekly」の配信サービスを提供しています。メルマガ会員登録を済ませれば、メルマガだけでなく、さまざまな限定特典を入手できるようになります。

Think ITメルマガ会員のサービス内容を見る

他にもこの記事が読まれています