Part2 ストレージ統合とシン・プロビジョニングの相乗効果

2011年9月2日(金)
Think IT編集部

情報システムは分散から統合へ

 これまで多くの企業が、ITシステムの運用効率化やコスト削減を目的として、サーバとストレージの統合を進めてきた。仮想化技術の進化もこの状況を後押ししている。そして、この流れは中小企業にも浸透している。
 しかし、社内を見渡すと、まだ社内にファイル共有サーバが散々し、各部署に業務サーバが乱立している企業が多い。また、ストレージの統合は部分的にしか実現できておらず、管理は分散化したままというケースもある。
 背景には、サーバの種類や使用用途に応じて、個別にストレージを導入せざるを得なかったという状況がある。これは、ストレージがサポートするプロトコルの種類によって、統合できるサーバが限定されるためだ。例えば、ファイル共有サーバは、サーバからアクセスする際、CIFSやNFSなどのファイル共有プロトコルを利用する。一方、業務サーバは、ストレージ専用ネットワーク(SAN)を通じてFibre Channel(FC) やiSCSIといったプロトコルを利用してストレージと接続する。そのため、ファイル共有用途にはNASなどのファイル共有ストレージを、業務サーバには専用の共有ストレージを使う必要があった。

SANとNASを1台に統合/集約

部分的な統合ではなく、全面的なストレージ統合によってストレージの管理効率を高めるためには、マルチプロトコルで利用できるストレージが有効だ。 EMCのストレージ「VNXeシリーズ」では、マルチプロトコル、つまりCIFS/NFSとiSCSIという、サーバ統合に必要な異なるプロトコルを1台で利用できる。その結果、SAN環境のストレージとNAS環境のストレージをまとめて統合できる(図2-1)。

図2-1●VNXe1台でファイル共有とストレージ共有の両方に利用可能
個々のサーバ向けのブロック・ストレージやファイル・ストレージを、まとめて1台のVNXeに統合できる。

ストレージ使用率を統合で高める

 サーバが分散していた従来の環境では、サーバは内蔵HDDやDAS(Direct Attached Storage)で接続したストレージを使って、個々のサーバによってディスクの空き容量にばらつきが生じていた。また、ディスク容量が足りなくなった場合は、サーバを追加で購入していた。 ある調査報告では、サーバが分散した環境におけるストレージの平均使用率は「40%以下」という結果がある。ストレージの平均使用率が40%とは、仮に1TBの内蔵HDDを使用しているサーバが5台あれば、ユーザデータ容量の合計2TB、空き容量は合計3TBに相当する。 これは、従来サーバの購入時に、実際に使うデータ量よりも多めの空き容量をあらかじめ確保しておくことが慣例化されていたためであるが、設備投資の観点からは、ストレージの消費効率が低いと言わざるを得ない。 しかし、現在はこのような非効率な投資や運用から脱却できる。VNXeが備える「ストレージ・プール」と「シン・プロビジョニング」を活用して、上記のサーバ環境を統合すれば、空き容量を約45%削減し、ストレージ使用率を60%以上に高めることも可能だ(図2-2)。

図2-2●ストレージ統合によってディスク使用率が向上する
ストレージを統合することで、無駄なディスクが減り、ディスクの使用効率が向上する。図は、5つに分かれていたストレージを1つに統合した例。

ストレージ・プールがスタンダードに

 ストレージ・プールとは、VNXeが搭載する複数のHDDによってあらかじめ構成しておく、大きな仮想ボリュームを意味する。
 プールを構成しておけば、管理者はいつでもこのプールから必要な容量でボリュームを作成し、サーバに割り当てることができる。一方、不要になったボリュームは、削除することでストレージ・プールに還元され、再利用できる。
 ストレージ・プールにより、あらかじめ多めに空き容量を確保するという従来の設計思想が改善する。サーバに割り当てるストレージ資源を共有できるため、空き容量も共有して利用する仕組みに変わる。また、サーバに割り当てたボリュームの容量を、あとから容易に増やすこともできる。
 なお、ストレージ・プール自体の空き容量が少なくなった場合は、VNXeに必要な容量を満たすHDDを追加するだけで拡張できる。HDDの追加は、VNXeを停止することなく、オンラインで実行できる。
 今後、データ急増に対処する方法としては、このような最低限の投資で容易にストレージの容量を増加させる仕組みが必要だ。特にサーバが統合された環境におけるストレージ・インフラは、ビジネス・ニーズの変化に応じて、迅速且つ柔軟にストレージ・リソースを提供することが求められる。その意味でも、ストレージ・リソースはプール化して利用する方法がスタンダード化すると考えられる。

シン・プロビジョニングの活用

 前述の通り、これまではサーバを新しく導入する場合、将来の需要を見越してHDDの容量を多めに購入するのが一般的だった。例えば、500GBで十分に足りる状況でも、3~5年後を見越して1TB以上を確保する、という方針だ。しかし、初年度は利用しない容量が多くなるほか、将来も予想に反してデータ量が増えないことが多かった。
 シン・プロビジョニング機能は、サーバに対して大きなボリューム容量を仮想的に割り当てて、実際には最低限必要なディスクをプールから割り当てる、という機能である(図2-3)。

図2-3●シン・プロビジョニングの仕組み
シン・プロビジョニングは、サーバに仮想的なストレージ容量を見せながら、実際に使っているデータ量にシステム予約分の容量を追加して、最小限の物理ストレージを割り当てる仕組み。

例えば、500GBと認識されているボリュームでも、実際には100GBしか割り当てないという構成が可能になる。また、利用者のデータ容量に応じて、自動的に必要なディスク容量が追加されるため、運用の手間にはならない。
 VNXeでシン・プロビジョニングを有効にする方法は簡単だ。ボリュームをサーバに割り当てる時に、シン・プロビジョニング機能を「有効」に設定するだけで、あとはすべてストレージが処理を自動化する。なお、シン・プロビジョニング機能は標準搭載されており、ライセンス費用はかからない。
 将来の需要を見込んで大容量のストレージをあらかじめ購入しておく時代は終わった。これからのストレージ運用は、ストレージのリソースをプール化し、さらにシン・プロビジョニング機能を活用することで、投資コストの削減と運用管理の効率化することが一般化する。このようなストレージの機能を有効活用することで、サーバ統合のメリットを享受できるようになる。
 


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