システムの現状把握を欠かさないために必要なアクションとは

2013年3月7日(木)
塚本 浩之

適切な分析のための着眼点

ベンダーMIBをツールに反映

性能監視のためのツールを提供しているベンダーは多数あるが、ツールによって収集されたデータをどう解釈すべきか、どう分析したら良いのか、というノウハウまで提供してくれるベンダーは多くはない。こうした知識やノウハウは、アセスメントやコンサルティングなど、プロフェッショナルサービスのためのノウハウとして守られているのが実情だ。サービスを契約して運用管理を完全にプロの手に委ねてしまう、というのも1つの手ではあるが、こうしたノウハウをある程度は社内に蓄積しておきたいと考える企業も少なからず存在するだろう。そこで、本連載ではそうしたノウハウの一端を紹介していきたい。

まず、システムの監視を行う際には対象となるシステムをよく知ることが重要だ。どのようなシステムに対しても共通で適用できる万能の監視手法というものは存在しないと考えて良い。システムの処理内容や提供するサービスに求められる品質レベル、具体的な機器構成など、さまざまな要素が絡み合っている。そこで、まずは目的に照らしてどのような情報を収集すべきかを判断するところから始める必要がある。

サーバの性能監視であれば、プロセッサやメモリの使用率やディスクI/Oのパフォーマンスといった辺りは標準的な監視対象項目として思い浮かぶだろう。一方、ネットワーク機器などでは、トラフィック量やセッション数といった要素も加わってくる。性能情報は基本的にはSNMPを使えば取得できるが、どのような情報が得られるのかは機器ごとに違う上、同じ項目のデータが得られたとしても、そのデータの意味が完全に同じとは限らない。ベンダーが異なる場合、同じ項目のデータであってもその意味するところが微妙に異なっていることもある。データの意味を機器ごとに細かく確認していく作業はユーザーの手には余るが、ベンダーMIBに細かく対応し、そのノウハウをツールに反映している例もある。

実際のツールを使った性能監視の考え方を知る

続いて、分析のための基本的な考え方を整理しておこう。ここでは、筆者の所属するアイビーシー社の性能監視ツール「System Answer G2」に基づいて説明を行う。

アイビーシー社の分析に対する考え方では、まず個々の性能指標を「品質」と「性能」に分けている。「品質」は、ユーザー視点でのサービスのクオリティであり、満足できるレベルなのか不満を感じるレベルなのか、といった基準で判断を行う。一方「性能」は、品質を実現するために実際に割り当てられているリソース量だと考えて良いだろう。一般的な視点でのシステムの運用監視では、「性能」についてのみ注目しがちだ。これは、あらかじめ予測された負荷に対応できる分だけの処理能力を適切に割り当てたら、後はその処理能力が正しく発揮されているであろうことをしきい値監視を活用して確認する、といった手法になる。このやり方でも、負荷が安定したシステムであれば対応可能だが、負荷が大きく変動するようなシステムではカバーしきれない領域が出てくる。
そこで、ユーザー視点での「品質」についても日々の運用監視作業のなかに含めていくことが重要になる。この両方の情報を常時収集し、突き合わせて分析することで、単純な死活監視だけでは得られないシステムのリアルな情報を把握することが可能だ。たとえば、「品質は要求レベルを満たしているが、リソースが逼迫しつつある」という状況であれば、今後リソース不足に陥る可能性が高いと判断できるだろう。逆に、「満足できるレベルの品質を維持するために消費しているリソースがごく少ない」のであれば、それはそのサービスに対するリソース割り当てがオーバープロビジョニング状態になっている可能性が疑われる。この場合は、余剰なリソースを開放することで他のサービスに回すことができるなど、より効率的な運用が可能になる余地があるわけだ。

図2:「品質」と「性能」から見た、システムの稼働状態(クリックで拡大)

このように、通常はあまり明確に意識していないであろう「品質」と「性能」を明確に切り分け、両方の情報を収集することによって、将来的な投資判断などの具体的なアクションにつながる知見を得ることができる。

アイビーシー株式会社 技術部 部長

メーカー系SIでICTインフラ環境のインテグレーションを経てIBCに入社。製品やコンサルティングサービスを含めたソリューション全般を担当し、IBCのミッションである「ICTインフラの安定稼働」に対し、技術的な立場から何が出来るのかを日々検討しながら活動。

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