IBMのSoftLayerは他のクラウドサービスとどう違うのか?
SoftLayerの特徴を活かした事例
具体的な活用例として、OpenStackのディストリビューションを開発しているMirantis社では、OpenStack Expressというサービスを用意している。これは、同社のWebサイト上でパラメータを指定すると、そのパラメータを使ってSoftLayerのクラウド環境上にOpenStackベースのプライベートクラウド環境を構築する、というものだ。
ユーザーが自分でハードウェアなどを用意することなく、OpenStack環境を即座に試せる環境が手に入るわけだ。こうしたサービスにも対応できる柔軟性がSoftLayerの特徴となる。
また、データホテル社では、サービスメニューの1つとして「DATAHOTEL for App」を提供している。同社はこのサービスを「ゲーム/スマートフォンアプリ向けマネージドクラウドサービス」と説明しており、「世界7拠点追加」と謳っている。
このサービスは、データホテルが国内のゲーム開発企業向けに提供する、実機ベースのクラウド技術とITインフラの運用標準化を使ったフルマネージドクラウドサービスである。既存のデータホテルの海外拠点がカバーしていない地域に新たにデータセンターを建設するのは現実的ではないため、同社が拠点を置いていない地域に関してはSoftLayerのインフラを使ってカバレッジを拡大した形になっている。
日本と韓国ではデータホテルのデータセンターが使われている一方、米国、シンガポール、オランダのデータセンターはSoftLayerのリソースが使われている。ユーザーとなるゲーム開発企業から見ると、データホテルの1つのサービスでグローバル展開が可能になるわけだ。
豊富なサービスメニューの例としては、MQUEUE(Message Queue)や監視/モニタリング、独自のイメージングツールであるFlex Imageなども提供される。これは、物理サーバのイメージを取得して、このイメージから仮想サーバを作る、あるいはその逆など、物理と仮想を自在に行き来できるイメージングツールとなる。また、ネットワークサービスではファイアウォールやロードバランサ、IDS/IPS、DNS、アンチウィルスやCDN、SSLサーバ証明書管理など、一般的なサービスはほぼ全て提供している。なお、CDNのエッジは現在日本国内にも東京と大阪の2カ所に設置されており、動画配信サービスなどの展開も可能になっている。
ストレージに関しても、オンプレミスで使われるようなSANやNASの利用が可能なほか、オブジェクトストレージなども用意されている。しかも、これらはポータル画面上からのユーザー自身による設定ですぐに利用可能となるなど、クラウドサービスとしてのサービス提供の枠内に収まる。もちろん、バックアップのソリューションなどもある。
さらに、「ソリューションデザイナー」を使えば、ウィザードに沿ってパラメータだけ入力すれば、ビックデータ解析やプライベートクラウドなどの複雑なシステムを即座に構築できる仕組みもある。
無償ネットワークの仕組み
SoftLayerのクラウド上にサーバをデプロイすると、標準ではプライベートネットワーク側とパブリックネットワーク側の2つのネットワークポートが準備される。パブリック側にはファイアウォールやロードバランサなどのネットワークサービスを配置し、プライベートネットワーク側にはストレージなどを置くほか、SoftLayerが用意しているセキュリティサービスやパッチサーバなどを利用することも可能だ。パッチサーバは、OSベンダーが提供するパッチを再配布する仕組みだ。
一般的には、クラウド環境上のサーバのOSをアップデートする場合、パブリックネットワーク上に存在するOSベンダーのWebサイトからデータを入手するため、ネットワーク・トラフィックが発生し、課金対象となる。
しかし、SoftLayerではプライベートネットワーク内にパッチサーバを準備しており、さらにプライベートネットワーク内のトラフィックには課金されないため、高速にパッチを適用できるほか、OSのアップデートで課金額が増額する、といった状況は生じない。
パブリックネットワークでのネットワーク課金が行われるクラウドサービスの場合、たとえばユーザーが通常以上に大量のデータのやりとりを行った結果想定予算を超過する多額の請求が来てしまう、といった状況も生じる可能性があるが、SoftLayerの場合はプライベートネットワークのトラフィックには課金されず、パブリックネットワークでも無償枠がそれなりの規模で準備されていることで想定外の高額課金のリスクを最小限に留めている。
また、オンプレミスとの連携でハイブリッド・クラウドを実現したい場合も様々なオプションが利用可能だ。SSLやPPTP、IPsecなどの各種VPNプロトコルのサポートはもちろん、「Direct Link」と呼ばれる専用線接続も利用できる。
ネットワークの敷設と運用にコストが掛かっているのは確かだが、ネットワーク単独での値段設定は実施しておらず、考え方としてはネットワークを含むインフラのコストを含めてのサーバの価格付け、という形になっている。その上で、サーバの価格については競合サービスと同等水準を実現している点については相当な努力をした結果ということになるだろう。と、畑氏はSoftLayer最大の特徴とも言える無償ネットワークの裏側を語る。
競合他社ではサーバ、ストレージ、ネットワークのデータ転送量、サポートなど、細かく課金するシステムになっているところもあるが、SoftLayerの場合はサポートも含め全てをサーバの料金に含めたシンプルな体系になっている。ストレージには別途コストがかかるものの、システム全体での運用コスト全体を考えればコスト面ではかなり優位にあるはずだ。
物理サーバの提供
物理サーバを丸ごと提供するという観点からはホスティングサービスのようにも見えるが、ホスティングとは違って完全なオーダーメイドではなく、むしろ徹底的に標準化が進められている(畑氏)。
オーダーが入った段階で標準化されたメニューとして現場に指示が行き、標準化されたプロセスで一気にサーバを組み上げる、というやり方になっており、こうした工夫で人件費を抑制している。物理サーバも仮想サーバもネットワークへの接続などは標準化されたモデルに従っており、個別にやり方を変えるようなことはなく、オペレーションを統一することでコスト削減の努力をしている。これを全世界共通で行っている点が強みとなっている。
なお、仮想サーバに関しても、競合他社では論理プロセッサベースの割り当てで0.5 vCPUといった割り当てを行うが、SoftLayerでは物理コア専有でアサインし、「2GHz以上コミット」という形で提供している。このため、いつどこで仮想サーバを作って起動しても、その性能は保障されている。
実際に競合事業者とほぼ同等と思われるリソース割り当てのサーバを準備してベンチマークテストを行った例では、SoftLayerは競合にくらべてほぼ1.5倍程度の性能が出たこともある。競合では、ディスクI/Oなどにキャップをかけて性能上限を規制している例もあるが、SoftLayerではハードウェアの性能をそのまま提供する形なので、リソースを増やせばその分リニアに性能があがるなど、高性能を実現しやすくなっている。
とはいえ、SoftLayerのユーザーは物理サーバに関心を持つユーザーばかりとは限らない。仮想サーバだけを使う場合でも、非常に安定した高速なパフォーマンスがでるほか、グローバルなネットワークを無償で利用できることから、一般的なWebサービス以外にも、海外に拠点を置きたい、あるいは既にある海外拠点と日本のシステムを連携させたいといったニーズもある。こうしたユーザーには、グローバルでもプライベートネットワークの料金が無償だという点は大きな魅力になっているようだ。
物理サーバの選択肢が存在することで、どのようなシステムをクラウドに移行するかを考えた場合の柔軟性が高まっているのは事実(北瀬氏)。SoftLayerで提供するサーバは共有仮想サーバ、専有仮想サーバ、物理サーバの3種類があるので、システム要件に応じて最適なサーバを選ぶことができる。物理サーバにもテンプレート化された標準サーバで時間課金で利用できるタイプもあれば、ユーザーのオーダーに基づいて構成する物理サーバもある。
そのため、たとえばWebサーバは共有仮想、アプリケーションサーバは専有仮想、データベースサーバは物理、といった従来のシステム構築のノウハウをクラウド上にそのまま持ち込む形でのシステム設計が可能になる。あるいは、ビッグデータのデータ解析処理などでは、短時間に集中的にプロセッサ負荷が発生することから時間課金の物理サーバを大量に揃える、といった形も採れる。BIツールに関しては仮想サーバで充分だがメモリ割り当ては多めに、といった具合に幅広い選択肢から最適な構成を選べる。
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