連載 :
  インタビュー

IBMのSoftLayerは他のクラウドサービスとどう違うのか?

2014年8月26日(火)
渡邉 利和

SoftLayerを選んでいるのは誰?

物理サーバを必要とするユーザー

実際のユーザーの声では、VMwareなどのハイパーバイザを自分でインストールして使いたいという例が多い。そうしたユーザーの利用目的は、オンプレミスで構築してきたプライベートクラウドをそのまま外部のパブリッククラウドに移行したいというものだ(畑氏)。

一般的なクラウドでは、オンプレミスで運用していたシステムをそのまま持っていくという訳にはいかず、クラウド側の環境に合わせて何らかのアーキテクチャ変更等を行う必要があるし、アプリケーションの変更が発生したりする。しかしSoftLayerではほぼ変更なくそのまま環境移行が可能だ。物理サーバだけの提供では従来のホスティング事業者と変わらないということになるが、仮想サーバも含めたクラウドサービスもフルに揃っている点が単なるホスティングとは違う点だ。

また、課金体系がシンプルなので見積もりが取りやすいし、不確定要素が少なく、実際の課金額がおおむね事前の予想通りに納まる点も有利だ(北瀬氏)。

ネットワーク課金を行う事業者では、たとえば事前の予測を超えて大量トラフィックが発生したりすると、事前の総定額を大幅に超えることもあり得る。これは、IaaSクラウドを利用してサービスを提供するSaaS事業者などには深刻な問題で、エンドユーザーの使い方一つでIaaS事業者側への支払額が極端に変動してしまうことになる。

ゲームなどのように数時間でサーバ規模が倍増するような極端な変動が想定される環境はまた別だろうが、そうでない場合は課金額がおおむね事前に予測できる範囲に収まってくれないと困る場合も多いだろう。

既存のITインフラとの親和性を求めるユーザー

SoftLayerのネットワークはVLANで分離されており、ストレージはNASやiSCSI、DASなどでRAID構成も可能だが、要するにオンプレミスでITシステムを構築する場合に利用されるアーキテクチャとほぼ共通している(北瀬氏)。

従来型のオンプレミスのITシステムについてはあまり詳しくないユーザーの場合は一般的なクラウドサービスにも特に違和感なく入っていけるかもしれないが、企業のIT部門やSI事業者など、従来のITシステムをよく知っているユーザーの場合は逆にクラウドとオンプレミスの違いが導入障壁となってしまう場合がある。しかしSoftLayerの場合は従来の手法そのままのシステム構築が可能なので、導入障壁はごく低いものとなる。このため、エンタープライズユーザーにとっては使いやすいクラウドサービスと位置付けられる。

つまり、SoftLayerの強みは従来型のオンプレミスのITシステムとのギャップがなく、柔軟性が高い点だ。さらに、サービスメニューとして準備されていないことでも、サポートに相談すると対応できたりする例も多い。アプライアンスを持ち込むといったことも可能で、柔軟性の高さに関して言えば一般的なクラウドサービスよりもむしろホスティングサービスの水準に近いだろう。

一方でAPIによるシステムのコントロールや、ポータルサイトからのセルフサービスによるシステム構築、申し込みから利用開始までに要する時間の短さなどはクラウドサービスとしてもトップレベルの水準であり、一般的なイメージのクラウドサービスに従来型のホスティングサービスの良いところも採り入れたような形になっている。

現時点での日本国内のSoftLayerユーザーは既存のIBMの顧客が多く、情報系のシステムをシンガポールや香港のデータセンターで運用するところから始めている例が多い。もちろん、データを国外に出したくないといったニーズがあるユーザーは年内に開設予定の国内データセンターの完成を待っている、というところもあるだろう。一方で、パフォーマンスやグローバル・ネットワークに魅力を感じてくれる新規ユーザーも増えてきており、ユーザーからの認知や評価は高まっている段階だ。

OpenStackとの連携

オンプレミスのシステムや他社のクラウド環境上で運用しているシステムをSoftLayerに移行するような場合を想定し、クラウド間でのシステム移行ツールを提供しているRacemiとSoftLayerが提携し、SoftLayerへのシステム移行に関してはRacemiのマイグレーションツール(Racemi Cloud Path for IBM)を無償で利用できるようになった(北瀬氏)。

また、OpenStackとの連携についてはIBM全社レベルで積極的に推進している。たとえば、SoftLayer上でOpenStackを実行することができる。前述したMirantisの取り組みがこの形となる。ユーザー自身がSoftLayer上でプライベートクラウドを展開し、そこでOpenStackを活用する例も考えられる。

SoftLayerのAPIにはOpenStack APIとの互換性はないが、Jumpgateというラッピングツールと組み合わせるとOpenStackとの連携が実現する。JumpgateはSoftLayerがオープンソースとして開発中のAPIトランスレーション・ライブラリで、OpenStackのAPIコールを他のクラウド環境のAPIに変換するという動作を行う。現在ダウンロード可能なコードには、OpenStack APIをそのまま出力するパススルードライバとSoftLayerのAPIへの変換を行うSoftLayerドライバの2種類が含まれている。

現状ではOpenStack APIの全てに対応しているわけではないし、SoftLayer側でのみ用意されている機能もあるため、現時点ではSoftLayerのポータルを使う方が使いやすいのは確かだが、こうした形での取り組みも進めているということは言える。

IBMはトップ3に入るOpenStackのコードコントリビューターで、数百人のエンジニアがOpenStackに関わっている。OpenStackへのコミットメントは全社レベルの方針でもある。

とはいえ、SoftLayerに関しては独自のポータルの機能を減らしたりOpenStackに一本化するようなやり方ではなく、OpenStackとうまく連携させていくという方向で取り組みを進めているところだ。

某出版社で雑誌や書籍の編集者として勤務していたが、2000年に退職し、以後はフリーランス・ライターとして活動中。もともとはUNIXとTCP/IPに関心を持っていたが、UNIXマシンがワークステーションからエンタープライズ・サーバーへと市場をシフトするのに引きずられ、いつの間にかエンタープライズIT関連の仕事が増えてきた。最近は、SDNやビッグデータ対応がネットワーク/ストレージのアーキテクチャに与える影響について興味を持っている。

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