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  インタビュー

ハイパーコンバージドのNutanix、インフラからより上流に向かう戦略とは

2016年9月26日(月)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
ハイパーコンバージドインフラストラクチャーのアプライアンスを展開するNutanix、来日した同社のエグゼクティブにインタビューを行った。

Nutanixは、「ハイパーコンバージドインフラストラクチャー」のパイオニアだ。サーバーとストレージ、ネットワークスイッチなどバラバラの製品で実現されていたデータセンター環境をソフトウェアで統合し、ファイバーチャネルなどの特別な装置を使わずにx86サーバーとイーサーネットだけでスケールアウトするサーバー及びストレージクラスターを実現するのがハイパーコンバージドインフラストラクチャーだ。元々のアイディアとしては、GoogleやFacebookなどがハードウェアのコストを下げるために、安価なホワイトボックスサーバーとオープンソースソフトウェアを駆使して実現していた巨大なクラスターがあり、それを商用化したものがハイパーコンバージドインフラストラクチャーと言っていい。実際に初期のNutanixの売り文句の一つは「元Facebookや元Googleのエンジニアが開発している」だったと記憶している。

GoogleやFacebookのようなWebスケールの分散処理、つまり巨大なアクセスが突然押し寄せるような事態が起こってもユニットを追加すれば、性能とストレージ容量をリニアに増加させることができ、複雑な管理も必要ない、というのがハイパーコンバージドインフラストラクチャーの利点だ。この分野でNutanixが市場で評価され始めると同時に、それを必要とする市場に将来性があるとみたEMCやVMwareなどがこぞって参入してきたことは記憶に新しい。

そんなNutanixだが、当初はSuperMicroの安価なホワイトボックスサーバーを使ってアプライアンスを開発していたが、近年はDellやLenovoなどエンタープライズ向けの高付加価値なベンダーにも採用されている。またごく最近では、CiscoのUCSにソフトウェアを供給することが決定したようだ。さらに、未上場ながら、PernixDataとCalm.ioを買収し、単なるインフラのアプライアンスメーカーから脱却しようとしているように見える。

今回は、Nutanixのプライベートカンファレンスに際して来日した、Nutanixのエグゼクティブ2名、Chief Marketing OfficerのHoward Ting氏とChief Product & Development OfficerのSunil Potti氏、さらに買収が発表されたばかりのPernixDataのCo-Founder & CTOであるSatyam Vaghani氏に話を伺った。

最初にインタビューを行ったのは、マーケティングの責任者、Howard Ting氏だ。

Chief Marketing OfficerのHoward Ting氏

Chief Marketing OfficerのHoward Ting氏

まずNutanixの置かれている状況とマーケティングとしての課題について教えてください。

Ting氏:今は多くのソフトウェアが「クラウドネイティブ」と称していますが、まだ実際にパブリッククラウドであるAWSに並ぶところまでは至っていないと認識をしています。プレゼンテーションでも紹介したように、我々Nutanixは「データセンターを5分で立ち上げる」というシンプルなビジョンをゴールに進んできました。「AWSのようなエクスペリエンスをエンタープライズに提供する」というゴールに向けてまだまだやることは一杯ありますが、だいぶ近づいています。他の複雑でアグリーなクラウドソフトウェアは、まだまだその領域には達していないと考えています。

複雑でアグリーなクラウドソフトウェアというのは、例えばOpenStackですか(笑)?

Ting氏:そうですね。OpenStackはいいイニシャティブだと思いますが、非常に複雑で使いづらいと思います。でもOpenStackだけではなくMicrosoftの提唱するAzure Stackにしても、まだまだAWSに追いついてはいないと感じます。Nutanixは、エンタープライズクラウドプラットフォームに向けて進んでいるというところですね。

マーケティング的な見方から言えばNutanixは未だにハイパーコンバージドインフラストラクチャーのベンチャーという風に見られていると思いますが、それをどうやって変えていくのですか?

Ting氏:実は我々自身は、Nutanixの製品をハイパーコンバージドインフラストラクチャーとは呼んでいないのです。数年前にそういう言い方を止めました。ところがガートナーにしてもIDCにしても、未だにハイパーコンバージドインフラストラクチャーというカテゴリーを使っています。これは市場に25社ほどはあると思われる「ハイパーコンバージドインフラストラクチャー」の製品を作っている会社を表現するために使っているのだろうと思います。実際には彼らが追いかけているのは2012年のNutanixであって、2016年のNutanixはもっと別の方向に向かっています。Nutanixはもうハイパーコンバージドインフラストラクチャーに注力していない、というと驚かれるかもしれませんが、ここ数年はAcropolisというハイパーバイザーを開発したり、ファイルシステムを開発したりしていますので、ハイパーコンバージドインフラストラクチャーを作っているというのは誤解を招くかもしれませんね。

日本での課題について教えて下さい。

Ting氏:我々は日本で多くのパートナーを獲得して、年々成長していますが、まだまだ足らないと思っています。もともとNutanixのソリューションは小さく始めて拡張していくことが可能ですので、一つのワークロード、一つのアプリケーションから始めて拡張していくこと、それに伴ってチャネルパートナーが彼らが製品を売るための仕組みをもっと拡大することを願っています。つまりこれまではNutanixがトレーニングやPoC、性能評価などの面倒くさい部分を担ってきましたが、パートナーがその部分をもっと実行してくれて、システムとして売るためのサイクルが回ることがお互いが成長するためのポイントだと信じています。なので、プライオリティのNo.1は成長、No.2も成長、No.3も成長です(笑)。しかし単に大きくなるだけではなくその質も重要だと思っています。質というのは、例えば顧客と従業員がもっとハッピーになることと言ってもいいでしょう。

従業員がハッピーという話が出ましたが、Nutanixという会社はどういうモットーを持っているんのですか?

Ting氏:良い質問ですね。Nutanixという会社には「4つのH」というモットーがあります。それは、ハングリーであること(Hungry)、これは常に成長を目指すことですね。次が謙虚であること(Humble)、我々がどれだけ速く成長しても、業界にはまだまだ先進的な会社があります。ですので、どれだけ成功したとしても常に謙虚であることが重要だと思います。次が正直であること(Honest)。そして最後のHは最近追加したんですが、ハート(Heart)ですね。常に社会に貢献するこころを持つこと、例えばジェンダーダイバーシティ、男女を区別しないこと、どこの国にいても常に議論に参加できる、そういうフラットな組織を目指しています。他にも色々とクレイジーなエピソードはありますが、仕事を楽しんでやっているということですね(笑)。

ところで今回のカンファレンスでは、パブリッククラウドとして連携する例としてAWSとMicrosoftのAzureが大きく取り上げられていました。なぜGoogleのGCPは入っていないのですか?

Ting氏:AWSやAzureに比べて、GCPは顧客からの要求が少ないというその一点が理由ですね。我々は顧客の意見を常に聞いていますが、GCPはAWSやAzureに比べると少ないということです。AWSとAzureは、そもそも成り立ち方が逆だと思います。AzureはエンタープライズのITを担っているMicrosoftが、オンプレミスから発想してパブリッククラウドを作った、つまり内側(オンプレミス)から作って外(パブリック)に向かったのに対して、AWSは外側から作って内側に行こうとしているというように見えます。一方Googleのクラウドは、マシンラーニングなどの部分に差別化のポイントがあると思いますが、それが実際にエンタープライズから求められている部分かといえば少し疑問が残りますね。その意味ではMicrosoftとNutanixはエンタープライズの内側から外に行こうという部分が似ていると感じます。これまでAzureは、非常に速く成長してきたと思います。

多くの人が「クラウドの戦争はもうAWSの勝利で終わった」と思っていますが、私はまだ始まったばかりだと思います。ベンダー同士の関係も、ある時はパートナーであったとしても次の日には競争相手になり得ることもありますよね。それは、ビジネスの世界では毎日のように起こっていることです。

ある時までNutanixとVMwareはとても仲が良かったように思えますが。

Ting氏:そうです。そうでなくなったように見える理由の一つは、我々がすごいスピードで成長しているから、でしょうね。そうは言っても、我々とVMwareはパートナーとして仕事をしています。実際顧客の多くは、まだVMwareのハイパーバイザーを使っていますし。ただ、顧客が求めていることは、バラバラの管理ツールで全体を運用することではなく、一つのシンプルな管理ツールで行うことなのです。それこそが、Nutanixがハイパーバイザーを作った理由です。AcropolisならPrismという管理ツールで非常に簡単に管理ができ、別の管理ツールへと行ったり来たりする必要なありません。それこそが顧客が求めていることなのですし、AWSのようなエクスペリエンスを提供するために必要だと思います。

向こう1年の日本での目標を教えてください。

Ting氏:売り上げを倍にすることですね。もともと毎年倍にはなっていますが。またそれ以外には、ブランド認知度を上げることです。Nutanixというブランドをもっと信頼してもらえるようにすることです。今までも良い仕事をしてきたと思いますが、それを続けることです。去年は同じようなイベントをやっても200名ぐらいでしたが、今回は900名以上が登録してくれています。なかなか良い結果ですが、もっとブランド認知度を上げていく予定です。

もっと長い目でみれば、Nutanixはインフラストラクチャーから始めて、ハイパーバイザーを作ってだんだん上のレイヤーに行こうとしています。その最初のステップが、クラウドのオーケストレーションを行うCalm.ioの買収だったわけです。近い将来ではなく長期的な計画としては、徐々にPaaSなどのアプリケーションレイヤーに移っていくことだと思います。AWSのようなエクスペリエンスを顧客に提供するためには、それが必要であるからです。

次にNutanixの製品開発を統括するChief Product & Development OfficerのSunil Potti氏、PernixDataのCo-Founder & CTO、Satyam Vaghani氏に話を聞いた。

元PernixDataのVaghani氏(左)とPotti氏(右)

元PernixDataのVaghani氏(左)とPotti氏(右)

これまでハイパーコンバージドインフラストラクチャーを開発してきたNutanixが次に目指す姿はどんなものでしょうか?

Potti氏:これまでのインフラストラクチャーを作ってきたことをアクト1、つまり第一幕とすれば、これからNutanixが目指すアクト2、第二幕は次世代のエンタープライズクラウドプラットフォームということになります。これまではインフラストラクチャーを実現すればよかったわけですが、それだけが顧客の求めるものではありません。簡単にオンプレミスでクラウドインフラを提供する、しかしアプリケーションによっては、パブリッククラウドの使用が適している場合もあります。現在は、それを管理者が判断する必要があり、そしてそれぞれの管理ツールを使って運用する必要があります。その使い分けを予測して、最適なプラットフォームをワンクリックで使えるようにする、そういう姿を提供することが将来の目標です。

Vaghani氏:そのためにはアプリケーションをもっと理解する必要があります。アプリケーションの構成やそのふるまいを分析して、理解するということを実現する必要があります。その意味では、Calm.ioがオーケストレーションの部分で貢献できることは大きいと思います。

オンプレミスとパブリッククラウドの使い分けという際のパブリッククラウドはAWSとAzureというのがNutanixの見方だと思いますが、GoogleのGCPが含まれていないのはどうしてでしょう?

Potti氏:それについてはSatyamが話したいことがあるようなので、彼に譲ります。

Vaghani氏:Googleのクラウドや彼らが提供しているサービスについてはいろいろな見方があると思いますが、私はエンタープライズにおいて大事な要素が欠けていると感じています。これは一例ですが、エンドユーザーとしてエンタープライズで使いたいカレンダーの機能について、Google Calendarでは使えないということを4年前から伝えているのですが、未だに直りません。これはエンタープライズにとっては非常に大きな問題で「仕事を完了する」という部分が、Googleのようにコンシューマー向けのサービスを作っている企業には決定的に欠けているということだと思います。

Potti氏:我々自身がGoogleのアプリからOffice365に乗り換えたのは、そういう部分も関係がありますね(笑)。その点、マイクロソフトは非常にしっかりと仕事をしていると思います。

またカンファレンスでは、NTTデータの社内システムとしてNutanixが導入された事例が紹介された。規模そのものはそれほど大きくはないが、NTTデータの詳細な評価プロセスを経て、その効果が認められたという辺りは、これからNutanixを検討しようとしているエンタープライズには大変参考になったのではないだろうか。

NTTデータの社内事例では期待通りであることが紹介された

NTTデータの社内事例では期待通りであることが紹介された

Nutanixのエグゼクティブたちは、ハイパーコンバージドインフラストラクチャーからハイパーバイザー、さらにはアプリケーションライフサイクルまで視野に入れて自身の将来像を語っていた。今後も、パートナーシップや企業買収など多くのニュースを提供してくれることだろう。引き続き注目していきたい。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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