連載 [第6回] :
  Red Hat Summit 2017レポート

Red Hat Summit 2017、3日目はハードウェアや農業のオープンソース化が話題に

2017年6月6日(火)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
Red Hat Summit 2017の3日目は「オープンソースウェイ」をテーマに、オープンソース的な手法の普遍性を示すものであった。

Red Hat Summit 2017の3日目は、5月4日ということでスターウォーズの寸劇で始まった。これは5月4日が英語では「May 4th」ということで、スターウォーズの中のセリフ、「May the force be with you」に引っ掛けたジョークでもある。ジェネラルセッションの会場の入り口では「May the Fourth」と書かれたTシャツも配られており、雰囲気は盛り上がった。そんななかRed Hatが数年前から手がけている「Women in Open Source」というコミュニティの中で女性を支援するプログラムのアワードが発表された。プレゼンターは、Red HatのExecutive VPでChief People OfficerであるDeLisa Alexander氏だ。

Chief People OfficerのAlexander氏

Chief People OfficerのAlexander氏

3日目は「オープンソースウェイ」

続いてCMOのTim Yeaton氏が登場。初日はテクノロジーとデモ、2日目は個人によるエンパワーメントをトピックにしたRed Hatだが、3日目は「オープンソースウェイ」を体現する複数の組織のゲストを登壇させ、さまざまな分野のイノベーションがオープンソースソフトウェア的になってきていることを訴求する流れとなった。

Red HatのCMO、Tim Yeaton氏

Red HatのCMO、Tim Yeaton氏

ここではオープンソースの発想でハードウェアを開発し共有する組織OSHWA、Open Source Hardware AssociationのExecutive DirectorであるAlicia Gibb氏が登壇した。オープンな考え方でハードウェアを作るということは、誰かにコピーされることを積極的に歓迎する、あからさまに言えば、知らない間にコピーが作られたことに憤りを覚えるのではなく、自分の設計したハードウェアが他の人の役に立っているということを誇りに思うべきだと語った。この部分は、いわゆる日本の製造業においてはなかなか受け入れられない思想なのではないかと思うが、ハードウェアの根幹やICまでもオープンにすることで、よりエコシステムが拡がるという主張のようだ。

OSHWAのAlicia Gibb氏

OSHWAのAlicia Gibb氏

次に登壇したのはMITのMedia Labで農業のオープンソース化(Open Agriculture Initiative)を推進しているDirectorのCaleb Harper氏だ。「農産物のオープン化」とは一体どういうことかと思われるだろうが、要は植物が育つための環境を徹底的にデータ化することで、農作物そのものを完成品として移動する、つまり輸出入ではなく、現地で同じものをデータから生成するという「植物工場」を実現しようという野心的な試みである。ここでも最後にはデータをオープンにする際のイネイブラーとしてRed Hatの名前が挙げられ、飢餓などの社会問題にもオープンソースウェイがイノベーションのための基本要素として取り込まれているということを訴求した形になった。

MIT Media LabのCaleb Harper氏

MIT Media LabのCaleb Harper氏

その後は、Red Hatによるオープンソースソフトウェアの革新的な使い方に対するアワードである「Red Hat Innovation Awards」の授与式に先立って、パネルディスカッションが行われた。OpenShiftの担当VPであるAshesh Badani氏が登壇し、ここでもOpenShiftの事例を紹介した。3日間を通じて、どこまでもOpenShiftの実績を参加者に刷り込みたいという強い意志を感じる一幕でもあった。

結果的にAwardを受賞したのは、DevOpsのユースケースであったバークレイバンクとなった。航空チケットのアマデウスもノミネートされていたが、2社のユースケースの共通点はOpenShiftを使っていることだ。またメキシコのユースケースでも、「コスト削減が可能になった」と地味にIT部門の管理職が聞きたいことを教えてくれる辺りに、巧みな演出を感じた。

Award発表に先立って行われたパネルディスカッション

Award発表に先立って行われたパネルディスカッション

3日目のジェネラルセッションには、技術でも組織改革でもビジネスでもないちょっと変わった角度からオープンソースウェイを参加者の記憶に植え付けようという意図を感じられたが、日本人の感覚から言うと少しオープンソースとは関連が薄いかもという結果になってしまったように見えた。

ブレークアウトセッションの紹介

最後に、ブレークアウトセッションとしてAWSとOpenShiftそしてAnsibleの連携について、AWSのエンジニアが話したセッションについて簡単に紹介しよう。

AWSとOpenShift、Ansible、「Better Together」

AWSとOpenShift、Ansible、「Better Together」

このセッションは、AWS上に展開されたOpenShiftのインストーラーとしてAnsibleが使われていること、OpenShiftのカタログからAWSの各種サービスがシームレスに利用できことなどを解説するものだ。ここで強調されていたのは、OpenShiftを自社のオンプレミスで動かすよりもAWSに任せたほうが簡単であること、すでにAWSを使っているのであればスムーズにインテグレーションが可能なことなどであった。

OpenShiftからAWSのサービスを直接利用できる

OpenShiftからAWSのサービスを直接利用できる

OpenShiftとAWSのサービスのバインディングは、Open Service Broker APIが受け持っていると言う辺りに、実はAWSからみればOpenShiftもCloud Foundryも同じAPIを使ってAWSの良きメンバーとして稼働することが可能であるというのが隠れたメッセージだったように思える。実際に、OpenShiftからAWSのサービスがカタログのアイテムとして見え、AWSのコンソールからOpenShiftのアプリがコントロールできることがデモで実演されていた。パブリッククラウドにとって、コンテナが当たり前の実行単位として認識されるのを目の当たりにすると、エンタープライズがコンテナに移行するのは自然の流れであると感じられた。

Open Service Broker APIがOpenShift~AWS連携のポイント

Open Service Broker APIがOpenShift~AWS連携のポイント

最後に、MarketPlaceと呼ばれる各社の展示ブースを紹介しよう。日本のように大きなスクリーンでデモやプレゼンテーションを行うよりも、PCとモニターを使って個々に対話しながら製品やサービスを理解してもらおうというのが欧米での展示スタイルだ。パブリッククラウドサービスの観点から見れば、GoogleとMicrosoftにとってはRed Hatはお客様という扱いなのだろう。肩に力の入らない鷹揚な姿勢が見てとれる。

Googleの展示ブース

Googleの展示ブース

Microsoftの展示ブース

Microsoftの展示ブース

来年のRed Hat Summit 2018は5月8日から10日の日程で、場所はサンフランシスコである。オープンソースソフトウェアに興味のあるエンジニアは、一度は参加することをお勧めする。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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