Red Hat Summit 2017の3日目は、5月4日ということでスターウォーズの寸劇で始まった。これは5月4日が英語では「May 4th」ということで、スターウォーズの中のセリフ、「May the force be with you」に引っ掛けたジョークでもある。ジェネラルセッションの会場の入り口では「May the Fourth」と書かれたTシャツも配られており、雰囲気は盛り上がった。そんななかRed Hatが数年前から手がけている「Women in Open Source」というコミュニティの中で女性を支援するプログラムのアワードが発表された。プレゼンターは、Red HatのExecutive VPでChief People OfficerであるDeLisa Alexander氏だ。
3日目は「オープンソースウェイ」
続いてCMOのTim Yeaton氏が登場。初日はテクノロジーとデモ、2日目は個人によるエンパワーメントをトピックにしたRed Hatだが、3日目は「オープンソースウェイ」を体現する複数の組織のゲストを登壇させ、さまざまな分野のイノベーションがオープンソースソフトウェア的になってきていることを訴求する流れとなった。
ここではオープンソースの発想でハードウェアを開発し共有する組織OSHWA、Open Source Hardware AssociationのExecutive DirectorであるAlicia Gibb氏が登壇した。オープンな考え方でハードウェアを作るということは、誰かにコピーされることを積極的に歓迎する、あからさまに言えば、知らない間にコピーが作られたことに憤りを覚えるのではなく、自分の設計したハードウェアが他の人の役に立っているということを誇りに思うべきだと語った。この部分は、いわゆる日本の製造業においてはなかなか受け入れられない思想なのではないかと思うが、ハードウェアの根幹やICまでもオープンにすることで、よりエコシステムが拡がるという主張のようだ。
次に登壇したのはMITのMedia Labで農業のオープンソース化(Open Agriculture Initiative)を推進しているDirectorのCaleb Harper氏だ。「農産物のオープン化」とは一体どういうことかと思われるだろうが、要は植物が育つための環境を徹底的にデータ化することで、農作物そのものを完成品として移動する、つまり輸出入ではなく、現地で同じものをデータから生成するという「植物工場」を実現しようという野心的な試みである。ここでも最後にはデータをオープンにする際のイネイブラーとしてRed Hatの名前が挙げられ、飢餓などの社会問題にもオープンソースウェイがイノベーションのための基本要素として取り込まれているということを訴求した形になった。
その後は、Red Hatによるオープンソースソフトウェアの革新的な使い方に対するアワードである「Red Hat Innovation Awards」の授与式に先立って、パネルディスカッションが行われた。OpenShiftの担当VPであるAshesh Badani氏が登壇し、ここでもOpenShiftの事例を紹介した。3日間を通じて、どこまでもOpenShiftの実績を参加者に刷り込みたいという強い意志を感じる一幕でもあった。
結果的にAwardを受賞したのは、DevOpsのユースケースであったバークレイバンクとなった。航空チケットのアマデウスもノミネートされていたが、2社のユースケースの共通点はOpenShiftを使っていることだ。またメキシコのユースケースでも、「コスト削減が可能になった」と地味にIT部門の管理職が聞きたいことを教えてくれる辺りに、巧みな演出を感じた。
3日目のジェネラルセッションには、技術でも組織改革でもビジネスでもないちょっと変わった角度からオープンソースウェイを参加者の記憶に植え付けようという意図を感じられたが、日本人の感覚から言うと少しオープンソースとは関連が薄いかもという結果になってしまったように見えた。
ブレークアウトセッションの紹介
最後に、ブレークアウトセッションとしてAWSとOpenShiftそしてAnsibleの連携について、AWSのエンジニアが話したセッションについて簡単に紹介しよう。
このセッションは、AWS上に展開されたOpenShiftのインストーラーとしてAnsibleが使われていること、OpenShiftのカタログからAWSの各種サービスがシームレスに利用できことなどを解説するものだ。ここで強調されていたのは、OpenShiftを自社のオンプレミスで動かすよりもAWSに任せたほうが簡単であること、すでにAWSを使っているのであればスムーズにインテグレーションが可能なことなどであった。
OpenShiftとAWSのサービスのバインディングは、Open Service Broker APIが受け持っていると言う辺りに、実はAWSからみればOpenShiftもCloud Foundryも同じAPIを使ってAWSの良きメンバーとして稼働することが可能であるというのが隠れたメッセージだったように思える。実際に、OpenShiftからAWSのサービスがカタログのアイテムとして見え、AWSのコンソールからOpenShiftのアプリがコントロールできることがデモで実演されていた。パブリッククラウドにとって、コンテナが当たり前の実行単位として認識されるのを目の当たりにすると、エンタープライズがコンテナに移行するのは自然の流れであると感じられた。
最後に、MarketPlaceと呼ばれる各社の展示ブースを紹介しよう。日本のように大きなスクリーンでデモやプレゼンテーションを行うよりも、PCとモニターを使って個々に対話しながら製品やサービスを理解してもらおうというのが欧米での展示スタイルだ。パブリッククラウドサービスの観点から見れば、GoogleとMicrosoftにとってはRed Hatはお客様という扱いなのだろう。肩に力の入らない鷹揚な姿勢が見てとれる。
来年のRed Hat Summit 2018は5月8日から10日の日程で、場所はサンフランシスコである。オープンソースソフトウェアに興味のあるエンジニアは、一度は参加することをお勧めする。
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