これからのOSS活用を考える シンポジウム 「クラウド×OSS~“攻めのIT”への転換」レポート

2015年5月13日(水)
町田 明日香

経済産業省主催によるシンポジウム「クラウド×OSS~“攻めのIT”への転換」(http://www.meti.go.jp/press/2014/02/20150210002/20150210002.html)が2月27日、東京都日野市の明星大学にて開催された。今回のシンポジウムではOSSがどのような将来を描けるのか、ユーザ企業にOSSを活用してもらうにはどのようなことをすべきかを考える場として、OSS関係者がもっとも多く集う「オープンソースカンファレンス(OSC)2015 Tokyo/Spring」(http://www.ospn.jp/osc2015-spring/)の併設イベントとして行われた。

【プログラム】

タイトル 登壇者
基調講演
「攻めのIT活用」とオープンテクノロジーへの期待
経済産業省
商務情報政策局 情報処理振興課長 野口聡氏
講演
クラウド事業者から見たOSSの活用と課題
クラウド利用促進機構(CUPA) 代表理事
荒井康宏氏
講演
OSSが切り開くソフトウェアの可能性
SRA OSS Inc. 日本支社長
石井達夫氏
パネルディスカッション(1)
テーマ:企業のOSS利用状況と、OSSビジネスの現状 -調査結果を交えて
チェア:オープンソース活用研究所 寺田雄一氏
パネラ:CUPA 荒井康宏氏
サイオステクノロジー 黒坂肇氏
TIS 中西剛紀氏
パネルディスカッション(2)
テーマ:OSS活用推進と攻めのIT – 促進策・支援策 の提言へ
チェア:日立ソリューションズ 吉田行男氏
パネラ:経産省 野口聡氏
SRA OSS 石井達夫氏
TIS 溝口則行氏

ここでは、上記プログラムの講演部分について紹介する。パネルディスカッションについては別掲で紹介するので、そちらを参照してほしい。

基調講演:「攻めのIT活用」とオープンテクノロジーへの期待

初めの基調講演では、経済産業省の野口 聡氏が「攻めのIT活用」とオープンテクノロジーへの期待というテーマで講演した。

経済産業省 野口 聡氏

IoT(Internet of Things)時代に向けた新たな情報政策について

野口氏は、「ITの技術革新により場所と場所を結ぶIT、人と人を結ぶIT、そして現在はセンサーをつけてモノとモノを結ぶIoT(Internet of Things)としてIT活用をする時代になった(図1)」としたうえで、欧州や米国ではものづくり企業とIT企業が組んで新たなプラットフォームを作りビジネスモデルを始める動きもあり、「日本もIoT時代の取り組みの中で「オープン」という言葉が大きなキーワードになっていく」と述べた。

IT利活用の変遷

図1:IT利活用の変遷

IoTにおける「攻めのIT経営」とは

現在の日本のIT投資は、「業務効率化」や「コスト削減」を主目的としている企業が多い(守りのIT投資)。しかし、米国は「製品やサービス開発強化」「ビジネスモデルの変革」を主目的にIT投資している企業が多い(攻めのIT投資)。野口氏は、日本も守りのIT投資から事業革新のためにITを活用する「攻めのIT投資」へ変わっていくべきだとして、具体的な政策について述べた。

日本企業の経営者は、米国企業の経営者と比べてIT投資の重要性やIT技術の最新動向に対する認識が低いことが調査で明らかになったという。さらに企業のIT部門は安定稼働のための運用・管理とセキュリティ体制の維持といった「守りのIT」が担当業務だと認識されており、主体的にビジネスに関与する組織とは認識されていないことで攻めのIT投資が進みにくくなっている。そこで、攻めのIT投資に対する経営者の意識向上を図るため企業の取り組みを見える化し、株式市場から評価していこうと考えているのだという。

「攻めのIT経営銘柄」の創設

企業の取り組みを見える化するためには、優れたIT経営を行っている上場企業を「銘柄」として選定・公表する「攻めのIT経営銘柄」を創設し、株式市場を通じて「攻めのIT経営」への取り組みを促進させる必要がある(図2)。

「攻めのIT経営銘柄」の創設

図2:「攻めのIT経営銘柄」の創設

現在、攻めのIT経営銘柄は策定委員会で評価中であり、今年の5月頃に公表される予定だ。「変化の激しい世の中で競争力を高めるためには、ユーザによる攻めのIT活用が必須である」とし、「提供者側だけが変わるのでは、世の中は動かない。ユーザに働きかけて変わってもらい、IT産業にも好影響を与えていくという好循環をもたらしていきたい」と述べた。

オープンテクノロジーとユーザが作るIT活用の未来

クラウド時代が進む中で、世界の多くの企業がOSSをイノベーションのエンジンであると認識し、OSSを利用して開発することは当たり前になってきている(図3)。「OSSをうまく活用することで産業競争力の強化にもつながる可能性がある。日本でもOSSを活用した開発は進んでいるが、諸外国と比べると遅れている」と指摘し、その原因の一つとしてWeb系以外の基幹システムの開発にまだレガシーシステムが多いことを挙げた。

オープンテクノロジーの拡がり

図3:オープンテクノロジーの拡がり

また、「世の中の変化に追随するために、これからはユーザ企業にITを戦略的に活用してもらう取り組みを攻めのIT経営銘柄などで進めていきたい。そのためには、IT企業のより高度なスピード感のあるソリューションの提供が大事になる」と述べた。

講演:クラウド事業者からみたOSSの活用と課題

基調講演に続き、クラウド利用促進機構(CUPA)の荒井康宏氏がクラウド事業者の視点でOSSの活用状況と課題について講演した。

クラウド利用促進機構(CUPA) 荒井康宏氏

国内のクラウド市場と動向

国内のクラウド市場は右肩上がりで成長を続けている。新規システムの構築方法においても「クラウドファースト」が浸透してきており、従来の自社でのシステム運用(オンプレミス)は縮小していくものと予想されている。

クラウド事業者で利用されているOSS

「OSSはクラウド事業者に多く利用されている」として、業種別(SaaS、PaaS、IaaS)に代表的なOSSを挙げた(図4)。

クラウド事業者で利用されているOSS

図4:クラウド事業者で利用されているOSS

その中から、クラウドOS「OpenStack」の活用事例や、クラウド業界で注目を集めるコンテナ管理ソフトウェア「Docker」について紹介した。

OSS利用における課題と対応

「クラウド事業者はOSSのクラウドソリューションをそのまま利用するのではなく、実際にはOSSベースのベンダー製品を利用することが多い」としたうえで、ベンダー固有のカスタマイズ部分はソースコードが見られないことや、カスタマイズするとサポートされないことを課題の一つに挙げた。また、大手企業になればなるほど開発をSIerに丸投げする傾向があり、「事業者側ではなくSIerだけがノウハウを持ってしまうため競争力が確保できない。事業者側でもOSSに対する知識や開発力を持つことが鍵となる」と指摘した(図5)。

OSSを利用する際の課題

図5:OSSを利用する際の課題

課題への対応策としては、機能情報だけでなく品質に関する部分も含めた情報を共有していくことや、OSSを自ら開発したりカスタマイズしたりできる新しいタイプの人材育成の必要性を挙げた(図6)。「OSSが活用されるにはコミュニティ育成など、若い世代に新しいソフトウェアや考えに触れてもらうこともポイントになる」。

OSSを利用する課題への対応

図6:OSSを利用する課題への対応

講演:OSSが切り開くソフトウェアの可能性

続く講演では、どのようにOSSがビジネスにつながっているかについて、SRA OSSの石井達夫氏がPostgreSQLを例に紹介した。

SRA OSS Inc. 石井達夫氏

OSSをベースに様々なビジネスが開花している

通常、OSSを使用して製品を開発する際は既存のソースからコピーし(「fork」と呼ぶ)、改変し、改変したソースコードについても公開しなければならない。しかし、PostgreSQLの場合は改変したソースコードを公開せずに商用製品を作ることができるという。その例として、PostgreSQLをベースにした商用製品「PowerGres」(透過的DB暗号化機能を持つ)と、商用製品を扱う企業EnterpriseDB(商用DBの互換製品を提供する)などを挙げた(図7)。

また、自分たちで作った商用製品をオープンソースとして公開し、従来の商用製品のライセンス費用で稼ぐのではなく、開発したソフトウェアを使ったサービスをビジネスにするビジネスモデルとして「Greenplum」(データウェアハウス向けのDB)を紹介。オープンソースとして公開するメリットとして以下の2点を挙げ、「オープンソースは使いどころによってさまざまなビジネスの可能性があるのではないか」と述べた。

  • 保守の手間がかからなくなる
  • オープンソースが成長すれば、そのあとの製品改良に直接つながる
OSSをベースに様々なビジネスが開花

図7:OSSをベースに様々なビジネスが開花

将来のOSS利用の高度化

現在ではOSS開発者とユーザは別のものとされているが、今後は開発者だけでなく、ユーザやSIer、OSS専門ベンダーの全てがOSSを使用しソースコードレベルでも触れるようになってくるだろうと主張。そうなれば、ユーザ企業のような一つの組織に「ユーザ」「サービス提供者」「開発者」がおり、OSSの開発から利用まで全て自分達で行えるようになる(図8)。そして、「開発者が複数の企業に属したり、企業の垣根を越えて情報共有したりといった形態が上手く実現すれば素晴らしいことだ」と述べた(図9)。

将来:OSS利用の高度化、さらにその先へ

図8:将来:OSS利用の高度化、さらにその先へ

OSSのより高度な利用へ

図9:OSSのより高度な利用へ

OSSサービス提供者はどうしていくべきか

石井氏は最後に、現在のOSSサービス提供者について自らの考えを示した。「今後ユーザが自分たちでOSSのコードを含めて使いこなすようになれば、現在のOSSサービス提供者はOSSのサポートだけでなく、ユーザから見て価値のあるサービスを提供していく必要がある」という。その具体的なサービスとして、下記の3点を挙げた。

  • OSSの本質機能の利用に専念してもらうための周辺情報の提供(脆弱性情報、開発コミュニティとの関わり方の指南など)
  • OSSの大きな機能追加への協力
  • クラウド上でのOSSサービスの提供

おわりに

3名の講演は、情報を共有することと経営者などのユーザ側にサービス向上や事業革新としてITを活用するという意識を持ってもらうことが、さらにOSSが活用されるための鍵となっていくことを示す内容であった。今後、攻めのIT経営銘柄といった経営戦略が国の政策としても進められていき、OSSの活用がさらに注目され重要視されていくだろうと感じた。

本シンポジウムで使用された資料と動画は経済産業省・TIS シンポジウム 「クラウド×OSS “攻めのIT”への転換」Webサイト(http://www.tis.jp/seminarreport/detail/cloudxoss.html)で公開されている。興味のある方は、ぜひご覧いただきたい。

株式会社デジタル・ヒュージ・テクノロジー

入社後はJava言語を使用したアプリケーションの開発業務に従事し、現在はZabbixなどのOSS製品の調査・検証を行っている。OSSの知識を増やすためにLPIC等のOSS関連の資格取得にも力を入れている。
株式会社デジタル・ヒュージ・テクノロジー(http://www.dht-jpn.co.jp/

連載バックナンバー

運用監視イベント

AppDynamics、2回目のユーザーカンファレンスで垣間見えた理想と現実

2015/12/15
アプリモニタリングのAppDynamics、2回目となるカンファレンスを開催。
開発ツールイベント

EMC、スケールアウトストレージの元祖、IsilonのエントリーモデルにSDSを追加

2015/11/30
EMC、スケールアウトストレージのIsilonのエントリーモデルにSDSを投入。

Think ITメルマガ会員登録受付中

Think ITでは、技術情報が詰まったメールマガジン「Think IT Weekly」の配信サービスを提供しています。メルマガ会員登録を済ませれば、メルマガだけでなく、さまざまな限定特典を入手できるようになります。

Think ITメルマガ会員のサービス内容を見る

他にもこの記事が読まれています