Red Hat Summit 2019レポート 1

Red Hat Summit開催。RHEL 8、OpenShift 4、新ロゴなど明るいニュース満載

Red Hat Summit 2019がボストンで開催され、最新プロダクトや新しいロゴなど、明るいニュースに満ちたカンファレンスとなった。

松下 康之 - Yasuyuki Matsushita

2019年6月6日 6:00

オープンソースのリーディングベンダーであるRed Hatが開催する年次カンファンレス、Red Hat Summit 2019がボストンで開催された。2018年10月にIBMによる買収が発表されて以降の最大規模のイベントということもあり、大きな変化があることが期待されていた。

実際のところ、何よりも主力製品であるRed Hat Enterprise Linuxの最新バージョンとなるRHEL 8、コンテナオーケストレーションのデファクトスタンダードとなったKubernetesをエンタープライズ向けに仕上げたOpenShiftの最新バージョン4、そしてOpenShiftのテンプレートを配布するOperatorHubの統合など、製品面でのニュースに事欠かないイベントとなった。

全般的な雰囲気について言えば、新しいロゴの影響もあってか、例年になく明るく楽観的な空気に満ちたカンファレンスとなった。

カンファレンスの初日の午後にはジェネラルセッションが行われ、DJがステージセンターでBGMをプレイし、ピアノも登場して華々しく幕が落とされた。

例年になく演出が施されたジェネラルセッション

例年になく演出が施されたジェネラルセッション

次いでCEOのJim Whitehurst氏が登壇、今回のサミットのテーマである「Expand」について科学の進化にたとえて語った後にステージに招いたのは、IBMのCEOであるGinni Rometty氏だ。2018年に発表されたIBMによるRed Hat買収の際には2人で買収を発表するなど仲の良さをアピールしていた両CEOだが、今回はお互いがソファーに座って語り合うというスタイルでさらなる親密さをアピールした形になった。

Rometty氏(左)とWhitehurst氏(右)

Rometty氏(左)とWhitehurst氏(右)

Rometty氏はIBMがオープンソースソフトウェアに関わるようになった頃のエピソードから「どうしてIBMがRed Hatを買ったのか?」ということについて、「IBMが変わったこと」「オープンソースがこれまで以上に重要になってくること」を理由として挙げ、IBMらしくはないと思われるかもしれないが、Red Hatを買ったことだけではなく、IBMももっとオープンソースの文化を取り入れる必要があることを強調した。そしてIBMのイノベーションの一つである人工知能であるWatsonや、量子コンピュータについても軽く宣伝を行い、ステージを降りた。

ここからは例年の通り、Red Hatの顧客が登壇してそれぞれのデジタルトランスフォーメーションを語る段となった。

DeltaのCIOと語り合うJim Whitehurst氏

DeltaのCIOと語り合うJim Whitehurst氏

DeltaはWhitehurst氏がかつてCOOとして働いていた企業であるとともに、OpenShiftのユーザーとしてクラウドネイティブなシステムを早い時期から実装していることが紹介された。DeltaはIBMの大手顧客でもあり、IBMとRed Hatが良いコンビネーションとなっていると語り、「どうせならライセンスも同じように合わせてくれると嬉しいのだが」とコメントしたところで会場を埋めた満員の参加者から思わず笑いが起きたのは、Whitehurst氏にとっては嬉しいサプライズだったのではないだろうか。

次に登壇したのはRed HatのサービスビジネスのトップであるJohn Allessio氏で、オープンイノベーションラボの顧客であるExxon Mobilを紹介した。オープンイノベーションラボはRed Hatがボストンやサンフランシスコなどに開設したワークスペースであり、顧客と共同でクラウドネイティブなソフトウェアを開発するための施設だ。Exxon Mobilはそこでコンテナをベースにしたアプリケーションを開発する際に、アジャイル開発を実際に行ったということを顧客の立場から語ることになった。

オープンイノベーションラボを紹介するJohn Allessio氏

オープンイノベーションラボを紹介するJohn Allessio氏

その後もF-22やF-35などの軍用機の製造で有名なLockheed Martin、ドイツ最大の自動車メーカーVolkswagen、そしてシンガポールの金融機関であるDBSなどの責任者が各々登壇し、どれもOpenShiftを使ってソフトウェア開発の革新に成功した事例を紹介した。

シンガポールに拠点を置くDBSは、もともと投資銀行から始まった金融機関であり、東南アジアで最大の規模を誇っている。そのDBSはOpenShift以外にも、カオスエンジニアリングを開発~テスト環境に実装して利用しているということでも分かるように、デジタルバンクを実践するユニークな企業である。

DBSのCIO、David Gledhill氏

DBSのCIO、David Gledhill氏

そして初日のジェネラルセッションの目玉として、MicrosoftのCEOであるSatya Nadella氏が登壇した。

MicrosoftのCEO、Satya Nadella氏(左)とWhitehurst氏(右)

MicrosoftのCEO、Satya Nadella氏(左)とWhitehurst氏(右)

MicrosoftのCEOであるNadella氏がRed Hat Summitのジェネラルセッションに登場するということ自体、以前であれば驚き以外の何物でもないが、現在ではMicrosoftはLinuxやKubernetesを始めとする多くのオープンソースプロジェクトに貢献している企業だ。Visual Studio Codeなどもオープンソースとして公開するなど、積極的にオープンソースのコミュニティにコミットする姿勢を見せていることから、オープンソースに詳しいエンジニアにとっては想定内であるとはいえ、実際に両者がステージ上で談笑しているのは感慨深いものがあった。

なおニュース的には、Microsoft Azure上でOpenShiftがサービスとして提供されることがこのサミット中に発表され、両社のコラボレーションが具体的な形となって提供されることが顧客にとっては最も価値のあることと言える。

そして最後にRed Hatの根幹となるRed Hat Enterprise Linuxの最新バージョンRHEL 8が紹介された。登壇したのは、RHELビジネスのトップであるStefanie Chiras氏とRHELのエンジニアリングチームのトップであるDenise Dumas氏の2名だ。

Chiras氏は2018年までIBMでCognitive SystemやOSの責任者を務めており、またDumas氏もHPEで長年OSの開発に従事していたことを考えると、RHELにはエンタープライズ向けOSのベテランたちが結集して開発を進めているという構図が見えてくるのではないだろうか。そこにGoogle、AWS、Microsoftとのコラボレーションが付加されるというロードマップは、実に盤石に見える。またOperatorsというKubernetesのAppStoreに相当するPortalもOperatorHubとして実装され、内容も充実してきたことなどを合わせて考えると、エコシステムの拡大も実感できる。

RHEL 8を紹介するChiras氏(左)とDumas氏(右)

RHEL 8を紹介するChiras氏(左)とDumas氏(右)

ここで最後のサプライズ演出としてRHELチームのエンジニアが多数登場し、会場の参加者に向けて記念のTシャツをプレゼント。これでOpenShiftによる新しいアプリケーションの開発と運用のユースケース、そしてクラウド向けに登場したRHEL 8のプッシュを行って、ジェネラルセッションは終了した。

RHEL 8のTシャツを会場の参加者に向けてプレゼント

RHEL 8のTシャツを会場の参加者に向けてプレゼント

OpenShiftのバージョン3が発表された2016年当時は、まだコンテナとしてDockerが注目されていたが、オーケストレーションの必要性はさほど話題になっていなかった。SwarmやMesosなどの様々なオーケストレーションツールも存在し、PivotalがプッシュするBoshもPaaS上のアプリケーションを運用するツールとして先行していた。そのタイミングで、OpenShiftの既存コードを全て捨ててKubernetesに乗り換えるというRed Hatの大胆な決断が、正に功を奏したと言える。

そして今回のサミットでは最新のOpenShiftバージョン4の出荷や、OpenShiftのエンタープライズユーザーが1000社を超えたというリリースも発表された。クラウドネイティブなコンテナエコシステムの中核として、正しく成長していることが示されたと言える。MicrosoftのOpenShiftへのエンドースメントは、それをより強固にするものと言えるだろう。

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