連載 [第6回] :
  Red Hat Summit 2018レポート

CEOたちの言葉から透かし見えるRed Hatのこれから

2018年6月19日(火)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
Red Hat Summitの会場にてCEO、CTO、そして製品担当EVPが語った言葉から、Red Hatのビジョン見えてくる。

Red Hat Summit 2018ではプロダクトそして顧客事例などが主なトピックとして語られたが、CEOやCTOなど、Red Hatを率いるリーダーたちに行ったインタビューの中から、いくつか印象的なコメントをまとめて紹介したい。

まずはCEOのJim Whitehurst氏のコメントから。

Red HatのCEO、Jim Whitehurst氏

Red HatのCEO、Jim Whitehurst氏

昨年のSummitテーマ、「プランニングイズデッド(計画することに意味はない)」について。

計画することがデッド、つまり死んでいるもしくは終わっているというのは公共事業などにおいては当てはまらないかもしれませんが、我々のビジネスにおいては大いに当てはまります。つまりそれだけ変化が激しく速いということです。実際5年前の時点では、コンテナがこんなにも拡がるとは誰も予想できなかったのではないでしょうか。その意味で、Red Hatの各プロダクトが5年後にどうなっているのかはわかりません。AIなどのテクノロジーにおいても大きな変化があると思います。

そこで重要となるのが、「顧客に対して向き合えているか?」という点です。5年後も我々は顧客に対して良いサービスを提供できる能力を、常に備えていなければいけないと考えていますし、Red Hatにはその能力があると思います。アジャイルやDevOpsのようなアプローチを、我々のビジネスのストラテジーに取り込むことで成功を続けることが可能になります。しかし伝統的な「5ヵ年計画」のようなものはもう終わっていると言えるでしょう。

CoreOSの買収について。

Red Hatはエンタープライズ向けのオープンソースソフトウェアカンパニーです。RHELを始め、セキュアで信頼性の高いソフトウェアを提供しています。OpenShiftについても、セキュアでオープンなソフトウェアをベースにしたエンタープライズが信頼できるコンテナプラットフォームです。しかしCoreOSは、Red Hatとは異なるアプローチをとっている企業なのです。使いやすさや管理のしやすさという観点で、ソフトウェアを開発しています。簡単に言えば、CoreOSはオペレーターのためのソリューションを提供していると言えます。既存製品と機能的に重なるところがないとは言いませんが、Red HatとCoreOSは補完する形でソリューションを提供できると信じています。そういうこともあり、我々はとてもエキサイティングしています。

企業がオープンソースソフトウェアを取り入れる際のカルチャーについて。

往々にして、企業が新しいソフトウェアを導入する際に起こりがちなのは、「プラットフォームもツールも新しくして、アプリケーションも新たに作った、しかし失敗してしまう」ということです。このような場合に、失敗の原因を突き止めずに別のことを同じようにやっても、また同じように失敗してしまうわけです。

そういう場合の原因が、実はその企業のカルチャーであることが多いのです。その時に「カルチャーを変える」ということは、どういうことなのか? を考える必要があります。そしてカルチャーは、リーダーシップに起因していることが多いと思います。つまりカルチャーを変えるという時は、その企業を率いるリーダーが自分自身を変えるということが必要になるのです。

これは数週間前にある金融機関のCEOと話した時のことですが、カルチャーを変えるためには何をするべきか、という点について話をしました。その時に私はまずシステムのプロトタイプ(PoC)を10個作りましょう。そして90日後にその中から1つだけ選んでシステム化を進めます。その次にもう10個PoCを作り、また同じように90日後に1つだけシステム化します。つまり、「10個のうち9個は失敗しても良い」ということを経験するのです。そうすることで「絶対に失敗してはいけない」という金融機関のカルチャーから外れて違うことができるようになるのです。このような話をしたのです。つまり企業のカルチャーを直接変えたいと思った時に、このようなアプローチで臨むことで、失敗を恐れずに変化を受け入れるということができるようになると思います。

これはRed Hatが運営を開始したイノベーションラボに関しても言えることです。企業のデベロッパーをアジャイルな開発スタイルに変貌させたいと思っても、企業の中にいたままではなかなか変えることができません。だからと言って、ボストンやシンガポールのRed Hatのオフィスに来てくれというのも難しいのです。そこで、企業の拠点からさほど離れていないがオフサイトと言える場所で、集中的に開発を行うということが機能するのです。これはいま、とても良い状態で進んでいると言えるでしょう。

失敗を恐れないという点から、CEOとして「もっとも最近に失敗したと思ったことは?」という質問に対して。

失敗という言葉では少し強すぎるかもしれませんが、私自身はRed Hatがオープンソースソフトウェアやテクノロジーに対して情熱的であるのと同じ程度に、顧客の成功にもっと情熱を傾けてもらいたいと思うことがあります。これはキーノートでも紹介したイノベーションアワードにもその気持ちが込められているのですが、顧客を表彰するということはその顧客を賞賛するということだけではなく、Red Hatの社員が顧客の成功を願う気持ちをもっと強く持っていて欲しいという意味もあるのです。我々がテクノロジーやコミュニティに対して持つ情熱を、顧客に対しても今以上に持っていて欲しい、今よりももっと顧客のことを常に考えて行動して欲しい、と考えています。今が悪いというのではなく、もっとできるはずだと言う意味ですね。ですから失敗というよりも、「もっと努力できる点」という意味になりますが。

続いてRed HatのExecutive Vice President, Product and TechnologyのPaul Cormier氏のコメントを紹介する。

製品担当のEVP、Paul Cormier氏

製品担当のEVP、Paul Cormier氏

今回、発表されたMicrosoftとIBMのソリューション、これはOpenShiftがAzureのネイティブなサービスとして開発されたということと、IBMがWebSphereなどをOpenShift上のコンテナ化されたアプリケーションとして認定されたというものはどちらが先に言い出したのか? という質問について。

今回のこの2つのインテグレーションについては、どちらも顧客が求めたものを、Red HatとMicrosoftそしてIBMが対応したということです。ですから「どちらから」というのではなく、顧客が最初にそれを求めたということが重要だと考えています。

Software Defined Networkについて。Red Hatとして製品化するという考えはないのか? という質問について。

今日は木曜日で、Red Hat Summitは3日目だよね? 私は今日までその質問を誰もしなかったということに少し驚いています(笑)。そうですね、エンタープライズにとってネットワーク機能をどうするのか? これは大きなポイントだと思います。世の中には多くのSDNが存在しますし、Red Hatの中にもネットワークを熟知した多くのエンジニア、サポートそしてセールス担当がいます。ただ、いまのところ、Red HatとしてはOpenDaylightに多くのリソースをかけていますが、Red Hatとして将来的に何か製品化するということが起こるかもしれません。今のところは、どのオープンソースソフトウェアを対象とするのかに関してはコメントできませんが(笑)。

同じ質問をCTOのChris Wright氏にも行った。

先ほどPaul Cormier氏に「Red HatはSDNを製品化しないのですか?」と質問をしました。CTOとしての考えは?

CTOのChris Wright氏

CTOのChris Wright氏

我々がこれまで注力してきたのは、OPNFVそしてOpenDaylightプロジェクトです。それはすぐには変わらないと思います。ただOpenDaylightだけではカバーできないユースケースを求められることも考えられますので、その時にRed Hatとしてネットワークをどうやって実装するのか? これを考えなければいけないと思います。ですが、当面SDNはOpenDaylightだと思います。

コンテナのオーケストレーションからサービスメッシュによるマイクロサービスへと、クラウドネイティブなシステムが移行し始めていると思います。その時にIstioは有力なソフトウェアの一つだと思いますが、Red HatとしてIstioを製品化する予定は?

私もIstioには非常に注目しています。2017年のAustinで開かれたKubeConには行きましたか? あの時に「これはKubeConではなくてIstioConだ」と言っていた人がいたほど、サービスメッシュのプラットフォームとしてIstioは注目されていますし、実際に速いスピードで開発が進んでいます。Istioを「Layer 7 SDN」と呼ぶ人もいますが、これからのマイクロサービスに向かう流れの中では重要になってくるでしょう。Red Hatも多くのエンジニアリソースをかけて、開発に参加しています。プロダクトとしては別になりますが、OpenShiftというプラットフォームの中に含まれて提供されるということになると思います。なので、サポートが必要なエンタープライズにはOpenShiftの一環として提供されるという形ですね。

キーノートでも紹介されたIstio

キーノートでも紹介されたIstio

CEO、EVP、CTOに対して行ったインタビュー、そしてカンファレンス全体を通して感じられたのは、OpenShiftに対する自信と、それを取り巻くエコシステムの拡大ぶりだ。3年前には「Cloud Foundryと比べてシェアが低い」などと揶揄されたプロダクトが、Red HatだけではなくMicrosoft、IBMなどのパートナー、多くのベンダー、そして顧客から支援されていることを感じることができた。CEOのJim Whitehurst氏が語ったように、5年後にOpenShiftがどうなっているのかは誰にもわからない。ただRed Hatという組織は、その変化に対応できる能力を十分に蓄えているように感じられた3日間のカンファレンスであった。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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