連載 [第5回] :
  Red Hat Summit 2017レポート

Red Hat Summitで脚光を浴びたAnsibleの担当VPが語るオートメーションツールに必要な要件とは?

2017年6月2日(金)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
Red Hatのオートメーションプラットフォーム、Ansibleの担当VPであるJoe Fitzgerald氏にAnsibleの優位性や、将来の方向性などを質問してみた。

Red Hat Summit 2017で一躍注目を浴びたのがOpenShiftだったとすれば、Red Hat Summitだけではなく、その翌週に開かれたOpenStack Summitでも存在感を示したのが、Red Hatが2015年に買収したAnsibleだ。Red Hat SummitのジェネラルセッションでもAnsibleに関するものが多かったし、OpenStack Summitで公開された2017年4月度のユーザーサーベイでは「どのツールを使ってOpenStackをデプロイしましたか?」という質問に45%がAnsibleと答えているそうだ。特にProduction、つまり本番環境へのデプロイではAnsibleの利用が30%を超えているという。去年のサーベイのデータではAnsibleとPuppetがともに42%だったことから考えると、Ansibleの利用例は確実に増えていると言える。そして今年のPuppetは28%なので、ここ最近の傾向としてAnsibleがPuppetを急速に逆転していることがわかる。今回は、Red HatでAnsibleを担当するVPのJoe Fitzgerald氏のインタビューをお送りする。

ちなみにJoe Fitzgerald氏は、Red Hatが2012年に買収したManageIQの共同創業者でCEOだった人物だ。

Ansibleなどの管理ツールの責任者、Joe Fitzgerald氏

Ansibleなどの管理ツールの責任者、Joe Fitzgerald氏

Red HatでManagement Business Unitということですが、担当している製品は何ですか?

3つの製品とSaaSになります。製品としてはAnsible、CloudFormsそしてSatelliteで、SaaSはRed Hat Insightというものになります。Ansibleについてはコミュニティ版であるAnsibleと、Red Hatが製品としてサポートを行うAnsible Towerという2つの製品になります。少し前に日本で発表したのはAnsible Towerのほうですね。このサミットではAnsibleに関していくつかプレスリリースを出しましたが、要約するとAnsibleはこれまで以上にCloudFormsやInsightの中に組み込まれていくことになります。つまりAnsibleは、Red Hatのオートメーションのコアテクノロジーであるということです。

Red Hatは1年半前にAnsibleを買収したわけですが、Ansibleにはすでにその時点で非常に大きなコミュニティが存在していました。これはオープンソースソフトウェアの中で11番目に大きいというものです。コントリビューターの数も2400名を超えるということで、これはChefとPuppetのそれを合わせたよりも多いものです。今年に入ってからロンドン、パリ、ムンバイ、東京などでAnsibleに関するイベントを開いていますが、どこの会場も有料にも関わらず会場に入り切らない数百名の参加者が来てくれました。このようにAnsibleは、コミュニティとしても非常に盛り上がっています。これまで北米以外ではほとんどマーケティング活動を行ってきていないので、日本を含め世界の様々なミートアップに集まってくれているのは、ボトムアップでAnsibleを見つけてきてくれた皆さんなのです。感謝しています。

ではAnsibleが他のオートメーションツールに比べて優れているところはどこですか?

まずシンプルであること。これはネットワーク機器や、コンテナなどエージェントを入れられないような環境において強みが出ます。AnsibleはLinuxやUNIXの場合はSSHを、Windowsの場合はWinRMやPowerShellを使ってオートメーションの対象となるコンポーネントを制御します。そのため、いちいちエージェントを入れるという作業が必要ありませんので、その分管理もシンプルになります。

またもう一つは、エレガントであることでしょうね。YAMLによって書く記法は非常にシンプルで、理解しやすいはずです。特に日本の方は、エレガントなものを好む傾向にあると個人的には思っていますので、そういうところが好かれているのではないでしょうか。その点我々アメリカ人は、少し乱暴かもしれません(笑)。

さらに、様々な環境で再利用できる資産があることです。これは「Ansible Galaxy」と呼ばれるリポジトリですが、ここには数多くのプラットフォームやコンポーネントのオートメーションに対応した実績のある「Role」と呼ばれるスクリプトが存在しています。これらはRed Hatだけではなく、Ciscoのようなネットワーク機器のベンダーなどからも提供されています。Red Hatの環境だけではなく、AWSやGCP、Azure、VMware環境など様々なプラットフォームで、オートメーションのための実績あるスクリプトが利用できるのです。

スクリプトの数が多いことは良いと思いますが、中には質の悪いものもの紛れ込んでしまうのでは?

良い質問です。その通りで、そういうことは起こりえます。なので我々も中身を検証して、レーティングを行っていくと言う方向に向かっています。すでにGitHubのStarを付ける仕組みは存在しているので、それをさらに改善していく予定です。

OpenStackでも、Ansibleがデプロイを行うためのオートメーションのツールとして使われていると聞きましたが。

その通りです。来週のOpenStack Summitでも発表があると思いますが、すでにユースケースでは、Puppetのそれを超える数になっていると思います。特に最近のOpenStackのリリースでは、Ansibleが圧倒的に使われているはずです。

OpenStack Foundationがリリースしたリサーチの一部。AnsibleがPuppetよりも使われていることがわかる

OpenStack Foundationがリリースしたリサーチの一部。AnsibleがPuppetよりも使われていることがわかる

Red Hat Insightとの連携について教えてください。

これはRed Hat Insightの機能を、Ansibleを使って拡張するものです。Insightは、Red Hatが持つオープンソースソフトウェアに関する知識ベースを元に、ユーザーが使っている環境に対して「脆弱性がある」「最新のバージョンがリリースされている」などの情報をダッシュボードに表示するだけでした。しかしそれをマニュアルで行うのではなく、AnsibleのPlaybookを使って自動的に適用することまで実行できます。将来的には、Red Hat SatelliteにもAnsibleがコアなテクノロジーとして取り込まれていくことになるでしょう。

Red Hatは2015年にAnsibleを買収したわけですが、数あるオートメーションのツールの中からAnsibleを選んだ理由は?

当然ですが、様々なツールとそれを開発している企業を比較検討して、最終的にAnsibleを選んだわけです。そしてそれは正しかったと思います。Ansibleは組織としてノースカロライナのダーラムにありますが、今でもそこでソフトウェアを開発しています。

Red Hatの人と名刺交換をすると、本当に北米のさまざまなところにいるのがわかりますが、ジョーさんの場合はニュージャージー、Ansibleの拠点はノースカロライナとバラバラですね。

これこそがRed Hatの特徴でしょうね。我々はオープンソースソフトウェアが一つの企業の社員によって同じ場所で開発されているのではなく、世界に拡がるコミュニティの中で開発されているのを充分に理解しているのです。ソフトウェアの開発を、同じ場所でやらなくてもうまく運営できるノウハウがある、と言っても良いと思います。ですから、元Ansibleの社員は今も以前と同じ場所で活動しています。IT業界の中には、買収した会社の社員を強制的に本社の近くに移住させる企業もありますが、Red Hatではそういうことはありませんね。非常に分散化された環境で、仕事をうまくやっていると思います。

AnsibleがこれからRed Hatの管理系ツールの中に統合されていくというJoe Fitzgerald氏。今までは全くマーケティングに予算を使わずにミートアップなどのセミナー活動だけだったそうだが、日本で行われたセミナーにはエンドユーザーだけではなく、システムインテグレーターなどのパートナー企業も数多く参加していたという。Ansibleに対する興味が高まってきた表れだろう。技術情報の日本語化もこれからということで、今後のAnsibleの日本での活動に注目したい。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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