Red Hat Summit 2017「モダンなビジネスに長期計画は必要ない」と言い切るCEOのJim Whitehurst氏
Impact of The Individualが今年のテーマ
Red Hat Summit 2017の2日目は、CEOであるJim Whitehurst氏のキーノートから始まった。前日のPaul Cormier氏が主に技術を訴求していたのに対し、Whitehurst氏はビジネス的な観点から常に変わり続けることの重要性を訴えた。Whitehurst氏がデルタ航空のCOOからRed HatのCEOになったのが2008年、全く畑の違う業界からの転身ということで、当初は技術的な質疑応答にあまり積極的に対応しなかったWhitehurst氏だが、今回のプレス向け質疑応答などには積極的にOpenShiftやAnsibleの良さをアピールするなど、IT企業のCEOとして充分な知識を備えてきたと言っていい。
今年のジェネラルセッションのテーマは「Impact of The Individual(個人によるインパクト)」だ。これは昨年のサミットのテーマ「Power of Participation(参加することの力)」つまり、オープンソースソフトウェアのコミュニティに参加することでイノベーションが加速する。逆に言えばオープンソースソフトウェアではないソフトウェア開発にはイノベーションが不足している、ということを表明したものを受けて、今年は個人がそのイノベーションの発火点になるということを訴求するものだった。
ここでWhitehurst氏が挙げた「個人によるインパクト」の例が、ホンダがスーパーカブを全米で販売展開する際のエピソードだ。ホンダが小排気量のバイクであるスーパーカブを全米で売り出すために、アメリカに支社を設立したのは1959年のことだ。当時アメリカでは、バイクはハーレーダビッドソンなどの大排気量のものが中心でアウトローが乗るもの、趣味のひとつとして受け取られており、大量に消費されるものとしては見られていなかった。ホンダはそこに商機があるとみて進出したものの、思うように売れずにいた。そこにたまたまホンダの社員がスーパーカブに乗っているところを見かけたシアーズのバイヤーから連絡が入り、そこからシアーズでの販売、積極的な広告展開によるイメージアップなどが功を奏して、数年後に10万台以上を売るメーカーにのし上がったことを解説した。
ここでのポイントは「企業が計画したようにビジネスが進まなくても、個人のひらめきでそれを打破できる」、さらに「Try, Learn & Modify」というメッセージには、変化に対応することでビジネスそのものが革新できるということを言いたかったのだろう。
公共機関でも進むオープンソースによる革新
そしてその後は、メキシコのジャリスコ州、カナダのブリティッシュコロンビア州、シンガポールの3つの公共機関の事例が紹介された。これらは、公共機関がオープンソースを活用して事業革新を行っている事例だ。特にブリティッシュコロンビアの事例は、政府機関がデベロッパーを広く集めてソフトウェア開発をコミュニティベースで行うというもので、どれも中に使われているのはOpenShiftという。ここでも暗にOpenShiftを強く訴求する内容になっていた。
またシンガポールの事例はスマートフォンアプリを使って救急医療を支援するもので、実際に救命された例によって新聞などでも大きく取り上げられたそうだ。事例紹介は予定時間を5分もオーバーするという熱の入りようで、これまで保守的と思われていた公共機関などが、積極的にオープンソースソフトウェアとコミュニティによる開発を推進しているということを際立たせるものだった。
Whitehurst氏はこのプレゼンテーションを通じて「企業のビジネスを取り巻く環境が激しく変化している現代においては、もはや長期計画を立てることは意味がない」と断言し、ビジネスを変化に対応させるためのツールとして個人の集まりがコミュニティとして開発を促進するオープンソースソフトウェアが最適であるというメッセージを伝えたかったように思えた。
Open Innovation Labsの紹介
この後登壇したのは、Red HatのGlobal ServicesのVPであるJohn Allessio氏だ。Allessio氏はボストン市内のケンブリッジに公開準備をしている「Open Innovation Labs」を紹介。これは最近流行りの「社内組織とは異なる環境を敢えて社外に作ることで、インキュベーションを行う」というものではなく、顧客が自社のアイデアをこのラボに持ち込んで、Red Hatのエンジニアや他の企業のメンバーとコラボレーションを促す場所という位置付けだ。
すでにケンブリッジ市内での建設工事が進んでおり、2017年の夏以降に公開が予定されていると言う。そしてケンブリッジに先駆けてアイルランドのダブリンに設置されたOpen Innovation Labsで、最初にインキュベーションされたベンチャーとして「easiER」が紹介された。これはスイスをベースにしたヘルスケアのサービスを提供するベンチャー企業で、体調不良の際にスマホアプリを使って症状の入力から病院の予約までも行えるというものだ。こういったサービスが本当に使い物になるのかどうかは、現地の医療システムを知り得ない者にとっては未知数だが、患者と病院の双方に利点を与える部分のデモは分かりやすく、北米だけに限らないオープンソースソフトウェアとモバイルによるイノベーションを垣間見ることができた。
その後、AWSのCEOがビデオで登場し、OpenShiftのAWS上での展開について賛同を表明した後に、OpenShiftのテクニカルディレクターであるChris Morgan氏がAWSのリードアーキテクトのMatt Yanchyshyn氏とともに登壇した。ここからは、OpenShift on AWSの解説とデモである。このMorgan氏は、2015年のOpenShift v3.0のお披露目の際に、日本でデモを行った責任者だ。
参考:OpenShift 3.0で既存コードを捨てコンテナーに賭けるRed Hat
ここではOpenShiftのカタログから直接、AWS上のサービスを選択してデプロイするまでをOpenShiftのUpstream版であるOpenShift Originから実行してみせた。それをAWSのコンソールからも確認しながら、ネイティブのサービスであるかのようにOpenShiftから自然とパブリッククラウドであるAWSが統合できるところを見せた。
この辺りの機能は、Open Service Broker APIによってOpenShiftとAWS上のサービスをバインドして実現しているそうだ。元のサービスを意識させない抽象化というのは、前日公開されたOpenShift.ioにも通じる発想で、アプリケーション開発者に無駄なことをさせないための抽象化と自動化が現在の流れというものなのだろう。
これまでのWhitehurst氏のセッションでは、あまり技術的なことに触れないことが多かった。だが今回はOpenShiftをより強調するという意味合いなのか、AWSという最も使われているパブリッククラウドとの連携を見せたこと、事例が全てOpenShiftのものだったことなど、これまで以上にアプリケーション開発によるビジネス改革、そしてその土台となるOpenShiftを強く訴えるものとなっていた。その他にも、フルCGによるアニメ映画を多数制作しているピクサーの、OpenShiftとAnsibleによる事例がブレークアウトセッションで紹介されるなど、OpenShiftがアプリケーションのマイクロアーキテクチャ化、コンテナ化という大きな流れにのって盛り上がっていることが見て取れる2日目であった。
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