IoTの標準プラットフォームを目指すFIWARE、日本での展開を開始
FIWARE(ファイウェア)は、ヨーロッパで生まれたIoTの標準プラットフォームを目指すソフトウェアスタックで、OpenStackをベースとしている。FIWARE Foundationは、そのFIWAREを推進する非営利団体だ。今回、プライベートクラウドの基盤ソフトウェアであるOpenStackの日本での公式イベント「OpenStack Days Tokyo 2017」に合わせてFIWARE FoundationのCEOとCOOが来日した。FIWAREの提唱する「データエコノミー」「Context Matters」とは何か、また日本での活動予定などについて、CEOのUlrich Ahle氏とCOOのStefano De Panfilis氏にインタビューを行った。またFIWARE Foundationに、日本から初めてプラチナメンバーとして参加した日本電気株式会社(以下、NEC)の執行役員である望月康則氏にも同席いただいた。
最初の質問ですが、セッションのほうで「Context Matters(コンテキストが大事)」というのがFIWARE Foundationのマントラだという説明がありました。それに関してもう少し詳しく教えてください。
Panfilis:コンテキストが大事というのは、「データは一つの使い方だけではなく、他の領域でも使うことでさらに有効な使い方ができる」ということなんですが、駐車場を例にとって説明しましょう。例えば、市内の駐車場に空きが出たとします。それをその事業者だけが使って「駐車スペースが1台分空きました」とやるだけなら、それほど価値はありません。でも他の事業者も同様にデータを公開し、組み合わせることでもっと有効に使うことができるのです。例えば、その駐車場から少し離れたところに別の駐車場があって、そちらのほうが少し料金が安いかもしれません。そうすると利用者は、その2つを比べて選択ができるわけです。さらに他の駐車場は近くにバスストップがあって、そこからバスに乗れば目的地に安く早く到着できるかもしれません。つまり一つのデータだけではなく、他のデータを組み合わせることで、よりそのデータの価値を高められるのです。
Ahle:その際には、データの構造や体系を揃えておくことが重要です。FIWAREはそこを解決しようとしています。先ほどの駐車場の例は、実はドイツでは深刻な問題なのです。なぜならシュトットガルトでは、市内を走るクルマの使う時間の30%は、駐車スペースを見つけるために使われているという調査結果があるくらいですから。
ああ、それは深刻ですね。それを解消することで空気の汚染や無駄な燃料消費を防げるし、ユーザーの利便性も向上しますね。
Panfilis:そうなのです。FIWAREが提唱する「データエコノミー」というのは、そういうデータを活用するためのエコシステムを作りましょう、マーケットスペースを作ってデータを売買しましょうという試みなのです。
Ahle:自分が持っているデータを他のビジネスに使うことで、新しいビジネスができるという例をもう一つ挙げます。現在、街灯というのはどんどん新しいLEDベースのものに置き換わっています。そういうインテリジェントなライトを作っているメーカーは、ライトの中にセンサーを入れたり、カメラを入れたりすることで新しい使い方を提案しています。先ほどの例で言えば、駐車場の全てのパーキングロットにセンサーを付けなくても、駐車場のライトをカメラ付きのLEDライトに換えるだけで、どのロットが空いているのか認識できるようになります。つまりライトから出るデータを使うことで、新しいビジネスが生まれるわけです。そして駐車場のライトを換えるというのは、消費電力の観点から言っても意味がありますので、すでに行われています。そこから出てくるデータを使うことで、新しいデータはすぐに付加価値へと転換されて価値を生み始めるのです。
しかしビジネスや設備は常に変化していくわけで、それに伴うデータやその属性の変化にはどうやって気づけばいいのでしょう?
Panfilis:それについてはデータエコノミーの中で、様々なプロバイダーからソリューションが出てくることを期待しています。データを発見することとそれを活用することをビジネスにしていくパートナーが、これからも出てくるでしょう。データの価値、つまり価格についてはビジネスケースとしてパートナーが決めれば良いのです。FIWARE Foundationは非営利の団体なので、その部分に関して関与することはありません。
日本での当面の目標はなんですか?
Ahle:日本ではまず、NEC以外のパートナーを開拓することです。そしてFIWAREが多くのユースケースを持っているスマートシティプロジェクトに、日本からも参画できるように認知度を上げたいと考えています。そのために9月28、29日に京都で開催される「スマートシティエキスポ2017」にFIWAREとして参加することを決定しました。ここから日本でのスマートシティの拡大に協力していきたいと思っています。日本で成功した後に、他のアジアの国にも展開したいと考えているところです。我々はインドではすでに多くの実績を残していますが、アジアの国の中では日本をコーナーストーンとして位置付けています。
望月:NECとしての考えを述べますと、まず日本にもFIWARE自身のコミュニティを根付かせたいというのがあります。またスマートシティという話になってくると、どうしても地方自治体の皆さんと協調していくことが必要になりますので、ニーズや様々な考え方を聞きながら認知度を高めていきたいと思います。そしてコミュニティの中でも、このプラットフォームを使って新しいことをやりたいと考えているベンチャーのような人たちとも連携したいと考えています。新しいビジネスを考えている人たちにとってOpenStackというプラットフォームは、動けば良いというものかもしれませんが、そこをしっかりサポートできるようにNECとしても準備をしています。
FIWAREにはFIWARE Labという無償で検証が行えるラボ、検証センターのようなものがヨーロッパを中心に展開されていますが、それを日本でやるという計画は?
望月:それも含めて計画を立てています。日本国内でもやりたいと言っていただいている企業もありますので。ただ、今のところFIWARE Labは、どちらかといえば大学などがホスティングすることが多いようなので、日本ではどうしようかを検討している段階です。ヨーロッパでは、だいぶ前からNECの欧州研究所がFIWAREに協力していますので、社内に検証環境もあるのですが、それを公開した方がいいのか? などについても検討中です。
FIWAREはヨーロッパが中心でアメリカでの活動があまり見えてこない気がしますが?
Panfilis:アメリカでも認知が進んでおり、ポートランドなどでもプロジェクトが進んでいます。またアメリカの標準化団体であるNIST(アメリカ国立標準技術研究所、National Institute of Standards and Technology)とも連携をしていますので、アメリカの標準化のリファレンスとしてFIWAREが挙げられています。
ヨーロッパと比較すれば少ないが、実績は出ていると。
Ahle:他にも我々はOpenStack Foundationとも協調しています。今朝もOpenStack Foundationのジョナサン(・ブライス、OpenStack Foundationのエグゼクティブディレクター)とミーティングをしたところです。OpenStack Foundationはすでに7年も前から活動していますので、FIWARE Foundationとしても良いところは学び、失敗も活かせるように活動を行っています。つまりFIWARE Foundationは、良い意味でOpenStack Foundationのコピーを目指していると言ってもいいでしょうね。
IoTのプラットフォームとしては、パブリッククラウドベンダーであるAWSやAzure、それにIBMなども取り組みを強めているところに、主にヨーロッパのスマートシティのユースケースを多く持つFIWAREがOpenStackというクラウドプラットフォームを活用し、データの有効活用を目指して活動をしているという状況だろう。日本においてはソラコムなどのように、デバイス側とパブリッククラウドを繋げることですでに先行しているベンダーをどれだけキャッチアップできるのか、地方自治体をどれだけ取り込めるか、にかかっているように思える。スペインのサンタンデール市などの事例を元にした「データエコノミー」という発想が、日本の地方自治体や官公庁のオープンデータ構想とうまく相乗りできるかがポイントではないだろうか。なお、FIWARE Foundationのイベントが11月27~29日にスペインのマラガで開催されるという。情報収集やヨーロッパの実情を知るという意味で役に立つだろう。
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