CNCFの責任者Dan Kohnが語る次のターゲットはサーバーレス、中国、そしてテレコム業界

2018年4月6日(金)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
「Open Source Leadership Summit」に招待されていたCNCFのExuecutive DirectorであるDan Kohn氏にインタビューを行った。

The Linux Foundationが開催した「Open Source Leadership Summit」には様々な参加者が招待されていたが、その中にはCloud Native Computing Foundation(CNCF)のExecutive DirectorであるDan Kohn氏も含まれていた。CNCFとThe Linux Foundationとの良い協調関係が伺える人選と言えるだろう。今回は、Kohn氏にインタビューを行い、CNCFについてや、今後のゴールなどについて話を聞いた。

まずCNCFでのディレクターという仕事について教えてください。あなたが全てのプロジェクトを統括しているということではないのですか?

これはちょっと難しい言い回しになりますが、私が全てを管理しているというよりも「Herding the Cats」という感じのほうが近いかもしれませんね。

注:英語の慣用句である「Herding the Cats」とは「大勢の人をまとめることが難しい」というどちらかと言えばネガティブな意味であるようだが、ここの文脈では「難しいがチャレンジのしがいのあるタスク」という意味であろう。

CNCFのスタッフと共に撮影に応じたDan Kohn氏(右端)

CNCFのスタッフと共に撮影に応じたDan Kohn氏(右端)

CNCFとしては「そのバージョンをいつまでにリリースしなさい」とか「これはこうしなさい」などといった指導をするわけではなく、ソフトウェアそのものについてはあくまでもコミュニティに委ねているということです。2年前にCNCFが作られた時に、様々なソフトウェアが開発されていくモデルを作ろうと考えたのです。最初はあまり安定していなかった時期もありましたね。CNCFとしてはソフトウェアをマーケティングしたり、開発を支援したりすることで、だいぶ安定してきました。いくつかのクラウドネイティブなソフトウェアスタックとして拡大したかったのです。今はかなりスムーズにプロジェクトが運営されるようになりました。

その一つの例がKubernetesで、今回Graduation(卒業)ということになりましたが、これは終わりの始まりではなく始まりの終わり、つまり最初の段階が終わったということです。Kubernetesにとって次のステージが始まっているということを意味しています。

2つの新しいプロジェクト(VitessとRook)がCNCFに加入しましたが、これはどういう意図を持っているのですか?

CNCFとしては、「エンタープライズなどのユーザーやベンダーが必要な機能を構成できるソフトウェアスタックを提供しよう」というのが目的です。ですので、新しいプロジェクトは順調に増えています。今の所、月に1プロジェクトくらいのペースで増加しています。ただ、これはそういう数値目標を持ってやっているというのではなく、結果的にそうなっているということですね。

CNCFのプロジェクトをみますと、機能的に競合するというか重なるものもあります。これは意図的にやっているということでしょうか?

先ほど、ソフトウェアスタックを構成したいと言いましたが、だからといって「CNCFがホストするソフトウェアを全部使いなさい」と言うつもりはないのです。もちろん、それぞれのソフトウェアは上手く動くように開発やテストを行っていきますが、それぞれのユースケースにおいて必要なものを、ユーザーが選択して使って欲しいと思っています。ですから、機能的にオーバーラップがあることは分かっています。

例えばLinkerdはサービスメッシュを構築するために良いソフトウェアですし、Istioにも使われているEnvoyは同じようにサービスメッシュを構築する時に使われます。しかしどれかひとつだけに固定したり、他のプロジェクトとの組み合わせを強制することはないのです。

そういう競合するプロジェクトに関しては、ユーザーが選択すれば良いという発想ですね。

その通りです。マーケットが決めてくれます。

最近は、中国の企業がスポンサーになっていますが、やはり中国でも利用が進んでいるのでしょうか?

CNCFのプロジェクトのユーザーは世界中に拡がっていますし、コントリビューターも同様です。特にアジアにおいては、富士通はCNCFの創設メンバーですし、中国でもAlibaba、Baidu、Tencent、Huawei、ZTEなどが協力してくれています。

中国でもKubernetesの利用者は急増しています。先日、中国でMeetupを開いた際には、700名も参加してくれました。シリコンバレーでもMeetupで700名を集めるのはとても困難ですが、それぐらい中国では盛り上がっています。ユーザーとしてはチャイナテレコム、チャイナモバイルなども含まれています。

社会システムの面で、中国は日本やアメリカとは異なりますよね。中国のエンジニアとコミュニティで一緒に活動することに問題はありませんか?

特に問題はないと思います。確かに中国では、選挙で誰かを選ぶということはないのかもしれませんが、オープンソースソースの開発という意味では、デモクラシー(民主主義)よりもメリトクラシー(能力主義)のほうが重要です。つまり「どれだけコードを書けるのか?」だけが意味があるのだと思います。

例えば、Technical Oversight Committee(TOC)に将来的に中国のエンジニアが入るという可能性もあるのでしょうか?

そうですね。現状のTOCにはダイバーシティが足らないと思っています。アメリカ人がほとんどで、他にはヨーロッパ人が2名しかいません。そのうち1人はベルリンにいるアメリカ人ですから、厳密に言えばヨーロッパ人ではありませんし。ですので、もっと多様な意見や見地を取り入れるためにも、ダイバーシティは重要だと考えています。

最後に近い将来の目標を教えてください。

CNCFとしては、3つほど目標を掲げています。1つ目はサーバーレスです。CNCFとして、これをアシストしていきたいと考えています。

注:CNCFのサイトにはサーバーレスに関する記事が公開されている。より詳しく知りたい場合はそちらを参照いただきたい。

The CNCF takes steps toward serverless computing

2つ目は中国ですね。ドキュメントなどのコンテンツを中国語に翻訳してくれるコントリビューターもいますが、先ほど話した大手IT企業だけではなく、チャイナテレコムなどのユーザーへの支援も充実させることです。そのひとつの方法として今年は上海で11月にKubeCon+CloudNativeConを開催します。ここでは英語による同時通訳も導入しますので、日本からもぜひ、多くの人に参加していただきたいと思います。できれば、日本語の同時通訳が良かったのでしょうけど。

そして3つ目が、テレコム業界での利用をさらに推進することです。OpenStackはテレコム事業者の中でもかなり使われていますが、Kubernetesに関してはまだまだ利用が少ないと思います。しかしLinux Foundationが新たに立ち上げたLF Networking Fundに含まれるOpen Network Automation Platform(ONAP)の中でもKubernetesは使われていますし、もっとテレコム業界でCNCFのプロジェクトを使ってもらえるような活動をしていきます。

短い時間ではあったが、こちらの質問に的確に答えてくれたKohn氏だった。クラウドネイティブの真髄とも言えるサーバーレスにいち早く注目して、ゴールのひとつに掲げているところは方向性として正しいと言える。

またEnvoyのプロジェクトに最近、サードパーティのAuditのテストが組み込まれることになった。これも技術的に尖ったエンジニアがやるべきことをちゃんとやっている、そして組織としてそれを支援しているという証拠なのかもしれない。オープンソースの運営組織の中では最も活気があると思われるCNCFだが、マーケティングだけではなく技術的にも先鋭的と言える。

CNCFのCOOであるChris Aniszczykによるツイート。Envoyがパイロットとして先行してサードパーティのAuditを実施。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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