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  インタビュー

「地元をより良くしたい!」東京ではない、地方で独立・起業したフリーエンジニアが考えたこと、実現したこと、これからのこと

2019年5月23日(木)
望月 香里(もちづき・かおり)

近年、多様な働き方が注目される中で、フリーランスエンジニアの傍ら、数社のIT顧問業に携わる小林由尚さんは、地元静岡市に対する愛に満ち溢れている。さらに、コワーキングスペース「ジブンオフィスColony」や静岡初のパフェ専門店「アオイパフェ」の運営も手掛ける小林さんに、起業のきっかけや現在の活動、思い描く今後などを聞いた。

IT業界に進むきっかけを教えてください。

学生時代は税理士を志していましたが、時はITバブル全盛の99年、メディア等で見るホリエモンなどの影響もあり自然とITへ向かっていました。ITというと東京が主になりがちですが、都市部へ行きたいという思いは全くありませんでした。地元の静岡市が大好きで、なるべく地元から離れたくないと考えていたからです。学生時代に趣味で車のラリーをやっていたこともあり、就職の条件は「車通勤」「静岡市内」「IT」。地元のソフトハウスへ入社し、その後15年勤務しました。

地元静岡市への愛が満ち溢れているフリーランスエンジニアの小林由尚さん

なぜ起業しようと思ったのですか?

もともと、心の奥底に「起業したい」という願望があったのだと思います。いろいろな要因が重なったのですが、会社では部下も顧客も大勢抱えていた時期でもありましたし、「会社の組織をなんとかしたい」「静岡でいちばんのソフトウェアエンジニアの会社にしたい」という思いがあり、孤軍奮闘していました。

そんな時期にいちばんの相談相手であった上司が体調を崩されて退職することになり、スマホも普及してインターネットで仕事が受発注されることが当たり前のクラウド時代へと移り変わっていく中で、「大きな組織が必要なのか?」という想いが芽生えはじめました。そんなタイミングに「一緒にやらないか」と声を掛けられたこともあり、起業へと向かいました。

現在はどのような働き方をされているのですか?

実際に起業したのは2013年ですが、その時に小さな物件を事務所として借りて、今年で6年目になります。パートナーの勧めもあり、最初から法人化しました。2年目から若いエンジニアを採用したいと思い求人していましたが、IT人材の不足などもあり、うまく採用できませんでした。

その傍、ITアドバイザーとして「アオイパフェ」というカフェの立ち上げに関わり、農家をはじめとした飲食業界の方や異業種交流会などに参加して様々な方と交流するうちに、「このまま自分だけのオフィスに閉じこもっていてもダメだな」と考えるようになり、シェアオフィスに魅力を感じるようになりました。様々なシェアオフィスを見学・利用していく中で、特にヤフーの「LODGE」のようなオープンなコワーキングスペースの環境がとても気に入りました。

出典:Yahoo! JAPANのオープンコラボレーションスペース「LODGE」

当時、僕が地元のコワーキングスペースを拠点にして一日中働くと考えた時、「ここで働きたい!」と思う場所はありませんでした。それなら、自分が働きたいと思えるような最高の職場環境を作れないかと考え、ご紹介いただいた縁や出会いがキッカケで「ジブンオフィスColony」を立ち上げることになりました。ジブンオフィスとはコワーキングスペースという形でありながら、社食のようなサービスや体を休められる和室スペースがあったりと、すべてを自分の会社のオフィスのように好きに使ってもらおうという意味でつけた名前です。

またColonyを創るキッカケとしてもうひとつあって、今後会社組織という枠組みの在り方、必要性などが変わってくること、また採用がうまくいかなかったことから、シェアオフィスが仕事を受けたり、情報を発信することで、採用という形ではなく、エンジニアの方から見つけて来てもらえるのではないか、と考えたわけです。

今後はみんなの秘書をやってくれるような方にも入居してもらって、メンバーだけでなく近隣の店舗経営されてる方などへ事務代行のようなサービスが出来ないか、などと考えています。僕やアオイパフェのように、事務スタッフを雇うほど仕事はないけど、でも経理やバナー制作などの仕事を店舗経営者が自らやっているケースは少なくないハズです。なので、オーナーが本業に専念できる環境を提供するのもシェアオフィスとしての重要な役割と位置付けています。

静岡市に小林さんのようなフリーエンジニアは
他にいらっしゃるのですか?

エンジニア不足によるこれまでの採用状況や同業者の方から聞く話などからの憶測ですが、かなり少ないのではと思います。僕と同じように「居心地がよく、遊び心もあるような働きやすい素敵なスペースがあれば、そこで働きたい!」という想いをもったフリーエンジニアに来てほしいとColonyを作りましたが、1年経ってまだ新しい出会いはありません。まだまだ情報発信が不足していることもありますが、静岡に住んでいても、東京まで通勤している(新幹線通勤を認めてもらえる)エンジニアも大勢いるようです。仕事の単価もゼロがひとつ違うとも聞きますし、東京に仕事が集中してしまっているようにも感じますね。

明るい室内に落ち着いた雰囲気、キッチンも付属のColony。女性ウケも上々とのこと

小林さん自身、最近は街づくりにも興味があるとお聞きしました。そのきっかけを教えてください。

静岡市の中心市街地から少し外れたColonyのある人宿町(静岡市葵区)周辺に集中投資を行っている民間企業があるのですが、この会社の仕事のやり方や人の力で街づくりをしていることに感銘を受けました。「人宿町を盛り上げていこう!」という心意気・想いに感化された飲食店を中心に様々なお店が集まって来ています。アオイパフェをIT化している僕たちも「ITが街づくりに貢献できることがあるのでは」と思うようになりました。これは僕がColonyを立ち上げるなら人宿町が良いと考えた理由でもあります。世間から注目されているので、エンジニアの目にも留まりやすくなるのではとも思いました。その中でColony発のサービスとして、この人宿町と僕の住んでいる人宿町の先の駒形通商店街までを紹介するポータルサイト「ひとこまっぷ」をColonyのメンバーと一緒に制作しています。

地元商店街のローカル情報満載の「ひとこまっぷ」。静岡市の中心市街地に負けない「おまち」化をめざし日々奮闘中

具体的にアオイパフェでどのようなことをされているのですか?

アオイパフェは約3年前、店長・デザイナー・僕(IT)の3人が集まり、両替町(静岡市葵区)で創業しました。静岡の厳選した素材を食べられる地産地消のカフェ創業者の1人として、ITシステムを提供するために参画しましたが、現在は経営にもコミットしています。

当時は飲食店のIT化がかなり遅れていると感じていました。今では当たり前になってきていますが、アオイパフェでは創業時よりiPadレジを使用して、あらゆるキャッシュレス決済にも対応できるようにしています。また、店舗独自のスマホアプリで来店時のスタンプカードやクーポンなどを配信して顧客分析やリアルタイムの損益状況をはじめ、シフトや勤怠管理、業者への発注・在庫管理までを効率的に行える独自システムも3年掛けて整えてきました。今後は、お客様の注文をお店のタブレットやお客様のスマホから注文できる「セルフオーダーシステム」を作りたいと思っています。ここまで来れば、僕の考える飲食店店舗側のシステム面はほぼ完成に近づきます。アオイパフェで上手くいった仕組みは、近隣のお店でも使ってもらえるようにしていきたいです。

静岡初のパフェ専門店「アオイパフェ」。落ち着いた佇まいは男性客でも入店しやすい

小林さんの今後についてお聞かせください。

僕がColonyやアオイパフェでやっていることの背景には、あくまでも「エンジニアとして一生新しい技術を浴びながら生きていきたい」という願望があるので、そこをゴールに逆算して今後やるべきことを考えています。具体的には、Colonyで静岡一のエンジニアチームを作って、Colony発のサービスを創出していきたいです。そのために今年一年は準備期間にして、エンジニアと繋がるための活動に力を入れていきます。

例えば、月に2人のエンジニアに会って、また知り合いのエンジニアを紹介してもらえば、1年で24人に会えることになります。その中から僕の想いに賛同してくれるエンジニアに出逢えれば嬉しいですね。一緒に創り出した仕組みやサービスが収入を生み、その収入だけでColonyの運営が回るようにすることが当面の目標です。

オフィスにはオフィスとして必要なシステムがあります。例えば、入館も暗証番号や社員証ではなく、顔認証で開錠するという時代になってきていますよね。ソフトウェア面で言えば、より良い顔認証などのサービスを創るには検証するための場が不可欠です。その意味でもColonyやアオイパフェの存在はとても重要なので、こちらにもどんどん投資していきます。

もう1つは「アオイパフェの再定義」です。アオイパフェは両替町(静岡市葵区)で創業しましたが、Colonyの設立とほぼ同じタイミングで七間町(静岡市葵区)へ店舗を移転しました。七間町は人宿町とも隣接した街で現在注目のエリアです。アオイパフェを「人を呼べる街づくり」に力を入れているカフェとして取り組んでいきたいです。

自分の熱い思いをあますことなく語ってくれた小林さん。その話ぶりからも彼のひたむきさが感じられた

最後に、今後フリーランスや独立・起業を考えているエンジニアに
ひと一言お願いします!

これからは、フリーランスを選択する人の割合も、半分会社員、半分フリーランスという選択をする方も増えてくるでしょう。あと10年もすれば社会は変わると思います。フリーランスといっても1人で黙々とやる時代ではないですし、これまでは起業というとどこかの一室を事務所に構えるという流れでしたが、シェアオフィスを活用するなど、そのあり方も変わってくるでしょう。ぜひ時代の情報をキャッチして、自分と合う場所を有効活用してほしいです。

長い目で見ると、会社と従業員の関係も変わってくるでしょう。現状、優秀な人材は東京に流れています。静岡にU・Iターンしてもらうために大事なのは、仕事があること。静岡に仕事があって、「地元をより良くするために起業したい」という人が増えてくれたら嬉しいです。その際は、ぜひColonyを使ってください。一緒に地元を良くしていきましょう!

小林さんのブログ「Software as Life」。小林さんのエンジニア視点で多くの記事を公開。興味のある方はぜひ覗いてみてほしい

* * *

今回小林さんにお話しを伺って、店舗経営は本職ではないながらも、自転車操業になりがちな部分を明確にし、着実に実績を作って来られたことに感銘を受けました。実際に見せていただいた在庫管理・発注のシステムは、コスト面の厳しい個人店にこそ必要なものだと思いました。

これからの時代は、時間の有効活用1つで働き方=生き方が変わって来るのだと、改めて時間管理について考える機会となりました。アイデア・発想を形にする行動力、そこに楽しさを感じている小林さんは、まるで科学者や料理人のように、いつまでも探究心のある混じり気のない少年のようにも感じました。わたしはこれまでITと全く縁がありませんでしたが、小林さんにお話を伺ううちにだんだんと面白みを感じるようになってきました。個人的に論理的思考が全てではないと思っていますが、自分事として物事を捉えられる「人間力」は、この先不可欠になって来るでしょう。

今後、小林さんがどのようなシステムを社会に創出していくのか、楽しみです!

著者
望月 香里(もちづき・かおり)
元保育士。現ベビーシッターとライターのフリーランス。ものごとの始まり・きっかけを聞くのが好き。今は、当たり前のようで当たり前でない日常、暮らしに興味がある。
ブログ:https://note.com/zucchini_232

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