ITインフラ管理の自動化を成功に導くAnsibleの実力と可能性を探る【前編】
ITインフラ管理の世界で今、「自動化 2.0」というキーワードが注目を集めている。クラウドサービスの拡がりは、アプリケーション開発だけでなく、その足腰を支えるインフラにも効率とスピードを強く求めている。そうした変化を背景に、絶大な人気を集めているのが、OSSのIT自動化ツールである「Ansible」だ。人気の理由や背景、そしてレッドハットが提唱する自動化 2.0の実現に向けたヒントを、2回にわたり中島倫明、中村誠の両氏に伺った。
前編の今回は、Ansibleを取り巻く状況とニーズの高まりと、なぜ今あらためてAnsibleなのかについて聞いていく。
自動化ツールは昔から多数存在する中で
Ansibleが支持を集める背景は?
Ansibleは従来のツールに比べて導入が簡単で設定もシンプルといった特徴に加え、サーバーだけでなく、ネットワーク機器やロードバランサー機器、仮想化基盤やクラウドなどのインフラを統合的に構築・管理できるといった点が評価され、その人気が沸騰中だという。
レッドハットによれば、同社が開催するAnsibleを使った自動化関連のイベントは即日満員。また日本のAnsibleコミュニティも会員の増加が目覚ましく、昨年から1年間で約1,000人増員し、現在ではすでに3,000人を超えていると聞く。インフラの自動化の世界では既にデファクトスタンダードと言えるが、この人気再燃の背景には何があるのか。中島氏は、大きく2つの理由があると指摘する。
「まず1つは、ユーザー自身がインフラ業務の自動化をより効率的に変えていかなくてはならないという危機感を抱いていることです。具体的な変化のキーワードとしては、①働き方改革=オートメーション化、②DX(デジタルトランスフォーメーション)を支えるDevOpsの実現、③高コスト体質からの脱却、④セキュリティガバナンスの強化の4つが挙げられます」。
1つ目の「働き方改革=オートメーション化」では、急速に広がる働き方改革の波がIT業界にも及んでいている。中でもITインフラの管理者は定期メンテのために休日出勤が多く、トラブル対応の緊急出動もしばしばだ。こうした管理者の負荷を自動化によって緩和・解決しようと考えるのは、自然な成り行きだといえる。
2つ目の「DXを支えるDevOps」は、さらに切実だ。せっかくアジャイル開発などの手法を取り入れ新しいサービスやソフトウェアを開発しても、それをリリースするためのインフラが変わらなくてはスピードアップできない。自動化によって開発に負けないスピードを持った“攻めのインフラ”を実現することが、DX の実現には今後の至上課題となってくる。
「3つ目の高コスト体質からの脱却というのも、目標は同じです。既存の分野を効率化してコストを節約し、それをDXへの投資に振り向けなくてはなりません。そういう意味でも、インフラの自動化は、新しい投資資源を生み出す取り組みとして注目を浴びているのです」(中島氏)。
Ansibleが自動化のブレイクスルーになる
という期待
そもそも「ITインフラの運用プロセスにおける自動化」は、どの辺りまで進んでいるのだろうか。驚くことに、中島氏によれば「まったく進んでいないと言ってよいレベル」だという。というのも、これまでITインフラ管理の自動化は、管理している対象のモノ=プロダクトごとにバラバラだったからだ。
例えば、あるネットワーク機器を自動化しようとすれば、併せて専用の自動化ソフトウェアも購入する必要がある。そして機器が変わればソフトも変わってしまう。あるいは、特定のネットワーク機器を担当するエンジニアのスキルや趣向に応じてスクリプトを組むなど、その方法はシステムごとに千差万別となってしまう。これは何もネットワークだけでなく、サーバーや仮想化基盤でも同じで、このような部分最適の考え方が今日に至るまで続いてきたのだ。
この状況は当然、「自動化のサイロ化」をもたらす。個々の機器ごとに自動化は導入できてそれなりの効果も挙がっているように見えるが、当然ながらその管理手法もノウハウは全員で共有できない。
「この結果、いろいろな弊害が生まれます。例えば、属人化です。ある機器の自動化に関してはその担当者しかわからない。だから普段は自動化できていると思っていても、その担当者が異動になったり退職したりしてしまえば、問題が起きても誰も対処できません」。
いつまで経っても「インフラの全体最適としての自動化」は実現できないが、これまでは管理者自身も「そういうもの」と思い込んできた。率直に言ってしまえば、「諦めムード」が蔓延していたわけだ。
「そこに最近、『どうもAnsibleが使えるらしいぞ』という話が広まってきて、急速なインフラのクラウド化などを背景に、注目度が上がってきたのです。私たちとしてもこれを、当社が提唱する自動化 2.0の起爆剤にするべく取り組んでいます」。
レッドハットではインフラ自動化の
キー製品の位置づけ
ここで、Ansibleの構成管理ツールとしての特徴を見てみよう。
1つ目は、従来のインフラ自動化関連のツールに比べ、設定がシンプルで使いやすい点だ。従来のツールでは、手順を記述する際に専門のプログラミング知識が必要だったが、Ansibleは「Playbook」と呼ばれるYAML形式のテキストファイルに手順を列挙するだけで済む。
2つ目は、管理対象となるサーバーやネットワーク、クラウドなど、サービスごとに豊富なモジュールが用意されている点だ。モジュールとは「インフラ作業でよくある手順」を部品化したもので、サービスを起動/停止する基本的なモジュールから、AWSやMicrosoft Azureなどの主だったクラウドインフラを制御するモジュールまで、数千種類が存在すると言われ、今も増え続けている。
3つ目は、エージェントレスのアーキテクチャである点。Ansibleには他のツールのような専用のクライアントツールが不要だ。既に安定稼働している本番環境に「後付け」で自動化を適用したり、そもそもエージェントがインストールできないネットワーク機器にも自動化を適用することができる。
レッドハットが2015年にAnsibleを傘下に収めたのも、これらのアドバンテージに注目したからだ。この時点で、すでに同社は現在の自動化ツールの重要性の高まりを予見。AnsibleがIT自動化とDevOpsの領域でリーダーシップを取り、レッドハットの目標とするマルチティア アーキテクチャ、マルチレイヤ、そしてマルチベンダ サポートの実現に貢献すると宣言していた。
マーケティングを担当する中村氏は、「ここ数年は、レッドハットとしてDevOps領域に注力してきました。その1つが『OpenShift』と呼ばれる『Kubernetes』 ベースのコンテナプラットフォームの主力製品の展開です。これは主にアプリケーション開発を高速化するツールで、このOpenShiftを支えるインフラの迅速化をAnsibleが担うという位置付けになっているのです」。
インフラを「ハード」から「ソフト」の
世界に取り込む
現在はAnsibleのITインフラの自動化スペシャリストとして、精力的にカンファレンスなどの場でも活躍する中島氏だが、昨今の盛り上がりの中、ひとりのアーキテクトとしてAnsibleの優れた特質を再認識していると明かす。
「今、世の中ではDXへの取り組みが急速に進んでいます。その大きな特徴の1つに、これまで以上にアプリケーションの層にフォーカスして、現実世界とソフトウェアの世界を強固につなげていくというスタンスがあります。しかし、ここでもインフラは“装置産業”的な位置付けのまま取り残されてきました。Ansibleは、その地位を大きく向上させる可能性を秘めていると感じています」。
DevOpsやアジャイル開発により、アプリケーション開発がどんどんその歯車を小さく精密にして回転スピードを挙げていく一方で、多くのインフラはあたかもゆっくり動く重厚長大な歯車のような状態であると中島氏は言う。だが、それではDXの時代の変革スピードに追いつくことはできない。そこで、アプリケーション開発の回転数に負けないスピードをインフラに与えるのがAnsibleだ。Ansibleの自動化を利用すれば、DevOpsのようなアプリケーション開発の世界における改善アプローチをインフラにも適用できるようになる。その結果、インフラ”エンジニア”はインフラ”開発者”となり、飛躍的なインフラの効率化と品質向上、そしてスピードアップを実現できると中島氏は強調する。
「Ansibleを使うことで、インフラを従来の“装置=ハードウェア” ではなく“ソフトウェア”のように扱えるようになります。そうしたアプローチにインフラ技術者が開眼することで、従来の地味な“守りのインフラ”を、ビジネスやソフトウェアの進化を加速させる“攻めのインフラ”にきっと変えていけると確信しています」。
(後編に続く)
※“守りのインフラ”を、“攻めのインフラ”に変える可能性を秘めたAnsibleの自動化 。後編では、ITインフラの自動化を成功に導くAnsibleの「自動化 2.0」と、その実践に向けたヒントを紹介する。
また、レッドハットでは5/28(火)にウェビナー:「ITインフラの自動化を成功させるAnsibleのプラクティス『自動化2.0』」を開催する。自動化 2.0の詳細については、ぜひこちらも参考にしてほしい。
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