世界9カ国26社の「femtech」プロダクトが一堂に。広がるfemtech市場の「いま」を知る ―Femtech Fes! レポート
9月19日(金)、EFGEofにて、「femtech Fes! あなたの欲しいモノは、みんなの欲しいモノ」が開催された。欧米諸国を中心に広がりを見せ、2025年には約500億ドル(約5兆円)規模にまで成長すると言われているfemtech(female technology)市場 。
今回は、そのfemtech市場の最新情報に加え、各女性のライフステージにおけるサービスや商品の展示・紹介に加え、女性が抱える悩みをお互いにシェアするワークショップなどが行われ、女性が悩みを解決するサービスや商品を「知る」機会となった。
「femtech」という言葉の語源
イベント開催に先立ち、主催者の1人である中村寛子氏より「2013年に始まり、世界中で盛り上がりを見せているfemtech、femcare市場。多様な生き方・働き方が受け入れられ始めた今の日本でも、盛り上がりを見せることを期待している。これらのサービスや商品が私たちの一生に寄り添うものであると信じ、今回は直接プロダクトに見て触れて、皆さんの『あったら良いな』に1つでも出会うきっかけが作れたら嬉しい」と挨拶があった。
続いて、共同主催者の杉本亜美奈氏も「私がfemtechに魅かれたきっかけは、自宅で自分の妊孕性を検査できるキットModern Fertilityに出会ったこと。自分が何歳まで妊娠できるか知ることができたら、妊娠出産を考慮した上で自分のキャリア計画も可能になるのではと感嘆した。本日は『ワクワクするfemtechの世界』をテーマに「femtechとは」「世界で今なぜfemtechが大ブームなのか」「これからのfemtechと日本」について一緒に考えていきたい」と挨拶した。
ここで、femtechの定義をおさらいしておこう。femtechとは、female+technology(女性+テクノロジー)の造語で、2012年創業したドイツの生理管理アプリClueのCEO、Ida Tinが作った言葉だ。Clueは今では190カ国に11億人ものユーザーを持つ、日本でいうルナルナのような生理周期管理アプリである。
Idaは父親の経営するオートバイツアー会社を手伝っており、世界中をバイクで旅する生活だったため「自分の生理周期がわかったら良いな」と常々思っていた。そんな折、スマートフォンの登場により仲間と開発を進め2012年に創業。男性の多い投資家界隈に資金調達の話をしたが快く対応してもらえなかった経験から、次世代の起業家が資金調達しやくするために「femtech」という言葉を作った。そして、7年後の現在では非常に大きな産業へと成長しつつある。
また、 現在のfemtechの定義は「women’s health+technology(女性の健康+テクノロジー)」へと変化しており、女性の健康課題を解決するために開発されたテクノロジーを使用するソフトウェアや診断キット、サービスおよびその他プロダクトのことを指す。このようなプロダクトが生まれてきた背景には、女性自身の高い課題意識があるという。
自分の課題意識からプロダクトは生まれる
ここで、杉本氏より会場に展示されたプロダクトの紹介があった。なお、今回のイベントに際し「日本の人にも世界のfemtech商品を知って欲しい」と、日本含む9カ国26社の協力の元、35個の商品が集まった。
以下、箇条書きにて簡単に紹介していこう。
●Loon cup(2015/韓国)
血液がカップの中に溜まり、自分の生理の出血量・色・日数が目で見て分かる。また、センサーが内蔵されており、スマートフォンと連動して膣内体温を測ることもできる。ゆくゆくは経血から女性特有の疾患や慢性疾患の予防法が分かるよう、スタンフォード大学とともに開発を進めている。
●Livia(2016/イスラエル)
毎度悩まされる生理痛の痛みやイライラ。ジェルをつけたパットに電流を流すことで、薬を服用せずに生理痛を軽減できる。
●Kegg(2017/アメリカ)
不妊治療の際、医者に自分の手で膣粘膜の質を測ってくるように指導されたことがきっかけで生まれた。現在試作段階だが、膣に2分ほど入れると膣粘液の質を計測できるとのこと。妊娠の可能性を知ることもできるとか。
●Bloomlife(2014/アメリカ)
開発者のEric Dyは、パートナーと数年間不妊治療をする中で早産や流産を経験し、妊娠後も不安だらけの生活を送っていた。Bloomlofeは母親の腹部にパッドを貼るだけで、妊娠後出産まで母親が子どもの心音等を計測できる製品。将来的にはMITと協力しビックデータを集め、出産予定日や早産流産の可能性、帝王切開が必要の有無なども分かるよう開発が進められている。
●Pulse(2013/カナダ)
開発者のAmy Buckalterは更年期に入って女性器が乾燥しがちになり、閉経後のセックスが楽しめなくなった。Pulseは閉経後のセックスライフも楽しめる、べたつかないローションだ。保温したローションが出てくる製品もある。
●Dame Products(2014/アメリカ)
開発者のAlexとJanetは、既存の女性向けセックストイが決められた形と決まっていることに疑問を感じていた。デザインシンキングのプロセスから始め、女性が欲しがる女性用のかわいらしいフォルムのセックストイを開発した。
●LIONESS(2014/アメリカ)
世界初のスマートフォン連動のスマートバイブレーター。女性は自分の性感帯を特定できていないケースが多いそう。膣内の温度や締め付け等をバイブレーターが感知し、スマートフォンへ日記のように記録することで自分の性感帯を可視化できる。パートナーとのコミュニケーションも円滑になるかも。
なお、Dame Productsは2019年6月にニューヨークの地下鉄へ広告を出そうとしたところ「女性のセックストイの広告なんて載せられない」と断られたが、その内容をSNSで発信したところネットが炎上。またLIONESSもサムスン主催のイベントwoman’s techで展示を拒否されたことで炎上したが、最終的にサムソンがネット上で謝罪する事態になるなど、この2社はアメリカでムーブメントになったとか。
【参照】
https://www.theverge.com/2019/8/28/20836528/lioness-samsung-women-tech-event-apology-smart-sex-toy
●Eva(2015/韓国)
韓国では文化的な面からも若者がコンドームを手にできる機会が少ないそう。開発者のGina Parkは「韓国の性文化に革命を起こしたい」と、若者でも手に入りやすいコンドームを販売。動物実験を行なっていないビーガンコンドームや体に優しい生理カップを作っている。
●Maya(2014/インド)
インド発の生理管理・排卵予測アプリ。自身の幾度の流産経験や、インドでは妊娠の有無が不明瞭な時に飲んではいけない薬を飲み流産してしまうケースが多い。女性の地位がすごく低いインドからこのようなプロダクトが生まれてきているということはとても画期的だ。
この2年で更なる広がりを見せるfemtech市場
2012~2019年、世界全体のfemtech業界への投資額は60億円だったが、2019年は上半期だけで400億円まで広がりを見せた。femtechの市場規模は2025年には5兆円にもなるのではないかと言われている。
働く女性が簡単に母乳を集めることのできる製品をはじめ、2週間ほどで骨盤底筋や膣内をセルフトレーニングできるプロダクトelvie(2013/イギリス)は、2019年のfemtech市場で最高投資額の42億円を獲得した。
ここで、国外のfemtechカオスマップ(2019)を見てほしい。この2年間で50社から221社へと爆発的に増えている。やはり自分たちの課題を解決するために会社を立ち上げるケースが多く、若年層向けの生理関係商品やサービスが圧倒的に多い。今後は更年期やメンタルヘルス分野等の商品・サービスも増えていくことを期待する。
2017年のfemtechカオスマップと見比べると、女性の社会進出とともに、女性たちが自らの課題を解決していこうとする意欲に投資する投資家が増えてきたことや、これまでの女性の性に対するタブー視に疑問を訴える女性が増えてきたことも、femtech市場の広がりの要因の1つと言えるだろう。
femtechの課題
一方で、「本当に女性の役に立つのか」「ヘルスケアや医療関連の製品は若者が手軽に買える金額ではない」「デリケートな個人のデータを本当に守れるのか」「Femとは生物としての女性に向けたプロダクト。セクシャルマイノリティへの解決策はまだ見えていない」など、femtechにも多くの課題がある。
これからの日本ではどうなる?
そして、現在の日本の女性の現状を見ると、日本の婦人科の定期的な受診率は20%で、ガン検診の受診率も40%と欧米諸国の70%に比べまだまだ低い。杉本氏は「健康だから受診しないのでなく、健康であるために婦人科へ受診するという認識や習慣を持って欲しい」と呼びかけた。
また、日本へのfemtech参入の3つの壁として「カルチャー」「言語」「規制」があり、中でも「カルチャー」が大きな壁となっているだろうと示唆。「femtechに興味はあるが、日本の女性たち自身が必要としているということが世界に知られていないのでは。今回紹介したプロダクトが今後、日本人女性たちの助けになれば良い」と杉本氏は締めくくった。
ワークショップ:自分のからだ・こころ労ってる?
ここからは、少人数のグループに分かれてワークショップを行なった。展示されたソリューションの中で自分が「良いな」と思ったものを選び、「相手の悩みは自分の悩み」ということで、自分の抱えている悩みや不安をポストイットに書き出し、解決策のソリューションのアイデアをグループ内でシェアした。
ワークショップでシェアされた意見やアイデアの一部を紹介する。
- 「更年期」という言葉自体を変えたい
- 子ども産む時の痛みを電気で和らげるなど、麻酔以外で何とかならないか
- 自分のおりものが正常か知りたい
- 生理休暇という制度が本当に良いのか。ネーミングが悪いのでは。男性の上司でも言いやすいか
- 更年期やおりものはブラインドスポット(盲点)になっているのでは。femtechに限らずプロダクトを作る側はユーザー側の問題点が分かっていないことが多いのでは
また、男性参加者からの視点がとても興味深かったので、ぜひとも紹介したい。
- 男性には生理や妊娠・出産でどれほどの痛みがあり、どうやってその痛みを解決しているのか正直分からない
- 「異物が体の中に入る」という体験は胃カメラみたいなものだとすると、楽しめるものも楽しめないと思った
* * *
最後の中村氏の言葉に、筆者はハッとした。タブーという認識はこれまで自分で選ぶことなく植え込まれてきた価値観や常識であったと我に返った。世界人口の半分は女性。これからの時代は女性も男性もその人らしく生きられる選択肢が増えていくであろう。今後もfemtechの動きに注目していきたい。
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