欧米を中心に市場が拡大する「Femtech」。テクノロジーで女性特有のウェルネス課題は解決するのか?
8月2日(金)、株式会社メディアジーンにて、MASHING UPとWITIの共催によるセミナー「Femtechは女性の救世主になるのか?」が開催された。
セミナーの冒頭に主催のMASHING UPより、「Femtech(female technology)という言葉だけが先行してしまっており、テクノロジーが本当に必要だったのかと模索している時にWITIと出会ったことが本セミナーの開催に繋がった」と紹介があった。
欧米を中心に市場が拡大しているFemtech市場。その実態を、医療現場の医師と実際に活動しているプレーヤー(事業者)という、立ち位置の違う両者がオープンに対談する、非常に興味深いセミナーとなった。
Femtechの市場価値
第1部では「女性とホルモンとFemtech-ティースプーン一杯に踊らされる人生」をテーマに、丸の内の森レディースクリニックの院長で産婦人科専門医・医学博士の宋 美玄先生と、1-10 Inc.の新規事業担当 中間じゅん氏による対談が行われた。
欧米では2025年には5.5兆円にもなると言われているFemtech市場。近年では、月経・妊活・不妊治療・更年期障害など、様々な女性のライフステージに合わせて寄り添ったデバイスが続々と登場している。市場メリットとしては「女性自身が社会で働きやすくなる」「健康課題に意識が向く」「5.5兆円市場がある」という三方よしの要素があるという。
Femtechのデバイスとしては、Femtechという造語を生み出したベルリン発の月経管理アプリ「Clue」や、韓国発のスマート月経カップ「LOONCUP」、イギリス発の搾乳用ウェアラブルデバイス「Elvie」、オンライン診断のD2Cピル「hers」、黄体ホルモンを子宮の中に持続的に放出する子宮内システム「ミレーナ」などがある。
医療におけるテクノロジーの有効性とは
宋先生は「女性が婦人科を意識するのは、自分の体を思いやるようになる「妊活」や「更年期」の時期。日本は健康保険が適用されるサービスもあり、欧米に比べると医療費はかなり安いが、医療の有用性・根拠を見極めた上でテクノロジーを活用したデバイスを利用するのも良いだろう。様々なサンプリングデータを集める点において、テクノロジーは有効だ」と語った。
テクノロジーの果たす役割
続く第2部では「女性特有のウェルネス課題はどのようにテクノロジーが解決しているのか? またはしていないのか?」をテーマに、Bonyu Lab. 代表取締役 荻野みどり氏、株式会社リクルートライフスタイル 事業開発ユニット プロデューサー 入澤 諒氏、HERBIO 代表取締役 田中彩諭理氏、宋美玄先生の4名で対談した。モデレーターを務めたのは、日本のFemtech業界を底上げしたいという、ビタミン社CEOの高松裕美氏だ。
対談に先立ち、はじめに各登壇者からサービスの紹介があった。
自宅で簡単に母乳の栄養状態を確認できる次世代サービス「Bonyu Check」
Bonyu Lab.の荻野氏は、自分が授乳していた際、娘さんが2週間湿疹や便秘になった。原因は自分が食べたあの時の〇〇だったのでは?と母親としての素質に悩んだ経験があるという。そこでBonyu Lab.では採取した母乳を郵送し、3大栄養素と脂肪酸比を検査・分析、検査結果に沿って管理栄養士が食事のアドバイスをするサービスを提供しており、食の観点から母乳を見つめている。
スマホで気軽にできる精子セルフチェック「Seem」
不妊の原因の50%は男性側にあり、男性側に問題があった場合、女性だけが治療に励んでいたのでは、時間やお金、負担がかかりすぎるという問題解決のための、自宅で精子のセルフチェックができるサービス。入澤氏の前職はルナルナ。Seemのみならず、男性が妊活に参加するのが当たり前という世界観を作っていく上で、テクノロジーのできることは何かを模索している。
基礎体温ウェアラブルデバイスと女性専用の体調管理サービス「picot」
PMSや偏頭痛持ちだったという田中氏。基礎体温を測る憂鬱さや周りの妊活者の声もあり、基礎体温のウェアラブルを作りたいと早稲田大学の研究者と協働で2017年9月に独立。おへそで深部体温が測れることが判明し、10分ごとに体温を測定できるpicotは、基礎体温がスマホ等に自動的に転送される仕組みになっており、この9月にもリリース予定とのこと。
登壇者のサービス内容を共有したところで、参加者からの質疑応答をテーマにした対談タイムへ。
自社(サービス)はテック企業?
はじめに取り上げられたのは、「Femtechと言うことで集まっているが、そもそも自社はテック企業だと思うか」という質問。各登壇者の答えはこちらだ。
- 入澤氏:Seemはその場で精子をセルフチェックできるアプリなので、テック系企業であると言える。テクノロジーは目的を達成するための手段の1つであり、男性が当たり前のように妊活に参加することをテクノロジーで後押しできたら良い、テクノロジーは、その世界観を表現するためのものでもある。
- 荻野氏:母乳の分析や便の解析などをしてはいるが、自分は食品会社だと思っている。テクノロジーの進化で、より便利かつ手軽になっていくことは止められないが、食べ物には「こころを豊かにする」という面もある。こころの豊かさをどう未来に繋げていくべきかと未来の食文化を考えた際に「最初の食事=母乳」に行き着いた。
- 田中氏:大学の研究者と一緒にメカニックなものを創っているという点で、自社のサービスはテクノロジーと認識している。
- 宋先生:医療・健康など、患者さんとのやりとりは今でも手書きで日々記録するなどアナログな面が多いが、テクノロジーの活用により人間の負担が減ることで健康に繋げてくれる近道になるだろう。
テクノロジーは未来の常識へのツール
HERBIOなどテクノロジーの進化で「基礎体温は朝測るもの」という常識がなくなることも考えられる。今までのツールで止まっていた医学が、もっと進むかもしれない、と宋先生。また「医者に研究してもらうための種を集めたいと思っている」という荻野さんは、栄養の入り口は母乳だが、ホルモンやライフログなど様々なことが関係しているため、様々なデータが集まることで、新たな問題の因果関係が見えて来るかもしれない。今後の医学への手助けをしたいと思っていると語った。
日本にFemtechプレイヤーが少ないのはなぜ?
「女性特有の健康課題やブラジャーについて活動している人もFemtechプレイヤーに入るのではと思う」と指摘する田中氏。「テクノロジーを前面に出して課題解決に向け日々研究をしているという事業者が少ないだけなのではないか」と言う。様々な悩みをテクノロジーで解決したいと起業する女性も多いが、実際には資金調達で挫折する方も多い。「例のない分野なので、出資してもらいにくいということが日本にFemtechプレイヤーが少ない原因なのでは」思索した。
* * *
今回のセミナーでは、参加者の男女比率が女性9割、男性1割だった。男性の参加者は少なかったものの、関心があるということは今後のFemtech業界を見据えた時、良い傾向だと言えるだろう。
まだまだ日本では未開拓の領域であるFemtech業界。実際に活動されている方の資金調達の話に、社会全体の女性特有のウェルネス課題への理解度を高めていく必要があるだろうと感じた。テクノロジーは見たい世界観を実現するためのツール。Seemの入澤氏がいう、男性も一緒に妊活するのが当たり前という未来に期待しつつ、「健康とは?」という原点に立ち返って、真剣に考えてみたいと思った。
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