FPGAのXilinxが年次カンファレンスを開催。データセンター、5G、自動運転にフォーカスしたキーノートを紹介
FPGAを作り出したパイオニアであるXilinxが、年次のデベロッパー向けカンファレンスをサンノゼで開催した。1200名という参加者が集ったカンファレンスには、50社のパートナー、70を超えるセッション、そして延べで40時間を超えるハンズオンラボも行われ、派手さはないが非常に内容の濃いものとなった。会期は2019年10月1日と2日という短いものであったが、多くのユースケース、オープンソースとして公開される無償のソフトウェアプラットフォームなどが発表された。
今回の記事では、カンファレンス初日の朝一番に行われたキーノートの内容を紹介する。キーノートにはXilinxのCEO、ビクター・ペン(Victor Peng)氏が登壇し、2日間の会期の幕を切った。
CEOが語るデータセンター、5G、自動運転へのフォーカス
ペン氏はXilinxのストラテジーとして「コアマーケットへのさらなる注力」「データセンターファースト」「アダプティブコンピューティングの加速」などを柱として、フォーカスする市場の具体例としてとしてデータセンター、5Gネットワーク、自動運転を挙げた。
同じサンノゼの地で2019年3月に行われたNvidiaのカンファレンス、GTC(GPU Technology Conference)では、CEOのジェンスン・フアン氏がサンノゼ州立大学の講堂でひたすら喋りまくるというスタイルのキーノートセッションを披露した。一方XilinxのCEOであるビクター・ペン氏は、それと真逆のスタイルでキーノートを構成した。つまり一人ですべてを語るのではなく、それぞれのトピックについてユーザーやパートナーを登壇させ、彼らの口からトレンドやXilinxとしての訴求ポイントを伝えるというスタイルである。
韓国の5Gを支えるXilinxのFPGAソリューション
最初に登壇したのは、韓国サムスン電子のネットワークビジネスの責任者Wonil Roh氏である。Roh氏は韓国とアメリカが5Gの実装において世界をリードしており、特に韓国国内では爆発的に増えていることを紹介。
そして無線回線を担うアンテナやコアネットワークにおいて、トップのシェアを占めているというサムスン電子において、XilinxのFPGAソリューションが大きな役割を担っていると解説した。
この部分では5Gにおいてもレイテンシーとスループットが重要であることを強調したRoh氏は、ペン氏と固く握手を交わしてステージを降りた。
次にペン氏はXilinxのハードウェアの進化について語り、FPGAからSoC(System-on-a-Chip)、MPSoC(Multi Processing SoC)、RFSoC(Radio Frequency SoC)の流れで次世代のFPGAであるACAP(Adaptive Comupute Acceleration Platform)の具体的な形としてVersalとAlveoを自身の手で掲げて紹介。ここは少しだけNvidiaのジェンスン・ファン氏を意識した瞬間かもしれない。
Xilinxにとって、データセンターは非常に重要視している市場であり、オンプレミスのサーバーでいかに市場を拡大するか? というのは重要なポイントだが、それよりも先にパブリッククラウドでの浸透を見据えたゲストスピーカーを2社連続して登壇させた。AWSとMicrosoftである。
AWSのデータセンターにおけるFPGAのプレゼンス
AWSはシニアディレクターのHutt氏と、Head of EngineeringのSharma氏という要職の2名を登壇させて、パブリッククラウドでのXilinxのソリューションを宣伝するという形になった。
まずHutt氏は、AWSがパブリッククラウドのリーダーであることを「皆さんご存知だと思いますが」という軽い感じで紹介し、その後にFPGAがAWSのデータセンターに広く実装されていることを説明した。その後にアストラゼネカのユースケースとして、遺伝子の塩基配列のシーケンス解析をAWSのFPGAで実行していることを解説した。
ちなみにFPGAを利用しているが、実際に使っているハードウェアはAWSがカスタムオーダーで外部のベンダーに作らせているもので、Xilinx製の製品ではないということがブレークアウトセッションのQ&Aで回答されていたが、それでもFPGAの可能性を紹介するためには非常に良い事例であろう。
またトレンドマイクロがネットワーク・セキュリティのソリューションの一つとして、AWSのFPGAインスタンスを使っていることも紹介され、データセンターにおける応用としての可能性を提案するものとなった。
次にSharma氏がAWSでの機械学習を実行するプラットフォームとして、SageMaker NEOを紹介した。SageMakerはAWSが提供するマネージドな機械学習プラットフォームで、データの取り込み、トレーニング、各プロセッサに対応した最適な推論実行モデルの生成、デバイスへのデプロイなどを可能にする包括的なプラットフォームである。AWSにとってみれば、IntelのCPU、NvidiaのGPUなどとともに、XilinxのFPGAにも対応しているということを訴える内容となった。
そしてFPGAの応用として、特定のアルゴリズムのアクセラレータとしてのFPGA利用に関して解説を行った。
ここでは簡単な構成図を元に、具体的なユースケースとして3つの性能比較をCPU、GPUとともに紹介した。ビデオデータのトランスコーディングではCPUに比べて30倍高速、ゲノム解析ではCPUに比較して90倍高速、そして機械学習の推論処理においてはCPU比で100倍、GPU比で5倍も高速であるということを、AWSのエンジニアリングのトップの人間に語らせたというのはインパクトのある内容だろう。本来ならXilinxのエンジニアが語るべきところを、すべてユーザーに語らせる演出はインパクトのあるものだった。
またAWSはFPGAのユースケースとしてスマートNICやストレージにFPGAを実装することでCPUを使わずに暗号化や圧縮などを実行するComputational Storageなどについても簡単に紹介した。ここでもFPGAの応用範囲の広さをユーザーに語らせた場面となった。
最後にFPGAの利点として、消費電力に代表されるコストの低さ、高い性能と低いレイテンシー、シリコンを製造しなくてもカスタマイズできる柔軟性を紹介してステージを降りた。
Alveoを用いたインスタンスを実装予定のAzure
次に登壇したMicrosoft AzureのDistinguished EngineerであるMelur Raghuraman氏は、Xilinx製品であるAlveo U250をAzureのインスタンスとして提供する予定であることを紹介。
AWSとは異なり、明確にXilinxの製品名を使って世界中にあるAzureのデータセンターにおいて実装するという内容の解説となった。AWSに応用例や性能比較を語らせる一方、MicrosoftにはAlveoを使ったインスタンスが実装されることを語らせた。Xilinxが意図したこの2社の役割は、なかなか興味深いものとなった。
連載バックナンバー
Think ITメルマガ会員登録受付中
全文検索エンジンによるおすすめ記事
- 「超低遅延社会」を実現するかも知れないFPGAの可能性とは
- XDFでXilinxのCEOに訊いたプロセッサとコンピューティングの未来
- XilinxがストレージにFPGAを応用するCSD(Computational Storage Drive)を解説
- 自動運転、ロボット、GPUサーバーまで多様なエコシステムを体感できたGTC2019
- Red HatがAIに関するブリーフィングを実施。オープンソースのAIが優れている理由とは
- KubeCon Europe 2024、IntelのArun Gupta氏にインタビュー
- ハイプサイクルに登場する技術②ー エッジAIや組み込みAI、AIチップ
- インテルがAIにフォーカスしたイベント「インテルAI Day」でPreferred Networksとの協業を発表
- RISC-V FoundationのCEOに訊いたRISC-Vのこれから
- GPUをフル活用するためのカンファレンスGTC 2019、サンノゼで開催