これぞダイバーシティの場。将来を担う若者と意思決定者や専門家が議論する「ユース・カンファレンス2019」レポート
9月21日(土)、レクシオン六本木にて、「全世代で考える、これからの教育と社会~ユース・カンファレンス2019~」が開催された。
本イベントを主催する日本若者協議会は「若者の意見を政策に反映させる団体」として各政党との政策協議、政策提言など様々な活動を行っている。新しい時代「令和」が始まったものの、日本には少子高齢化や若者の自殺、国際競争力の低下など数多くの課題が存在する。日本の将来を担う若者が主体となり、意思決定者や専門家と今後の日本の社会や教育のあるべき姿について議論する場が今回の「ユース・カンファレンス」だ。
本カンファレンスは、各テーマでパネラー数名が議論するパネルディスカッション形式で行われた。ここでは、当日に行われた6セッションのうち、3セッションの模様をレポートする。
時代や個人の働き方と社会保障も変化を。
守るべきは企業でなく「働く人」
「様々な人生100年時代の働き方と社会保障のあり方」をテーマに、株式会社ワーク・ライフバランス ワークライフバランスコンサルタント 田村優実氏、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授 西田亮介氏、日本労働組合総連合会事務局長 相原康伸氏、日本維新の会 参議院議員、地域政党「あたらしい党」代表 音喜多駿氏、公明党 衆議院議員 岡本三成氏の4名のパネラーと、日本若者協議会代表理事、慶應義塾大学政策・メディア研究科修士1年 室橋祐貴氏のファシリテーター5名による議論が繰り広げられた。以下、箇条書きにて紹介しよう。
- 田村:個人のキャリアが変化する中で社会保障制度だけが取り残されている。様々な社会保障制度も変換・充実させてゆくべきではないか。1970年代の「人口ボーナス期」から現在は「人口オーナス期(高齢者を支える側の人口の減少)」へ移行している。人口オーナス期に経済発展させるためには、なるべく男女共働きの短時間労働をしていくことが大切になってくるのでは。
- 西田:産業を変える・法律を変えるなど様々な変革方法があるが、なぜ社会保障だけ変える必要があるのか。根本的な変化は本当に必要なのか。
- 岡本:各国の金融業界で20年以上働いてきた中で思うのは、労働者の選択肢を最大化する仕組み作りと、それぞれの能力に合う給料が正当にもらえる日本にしていきたいということ。日本人の平均的な人材力は世界第4位だが、給料の平均は世界で44位だ。仕事に人を当てはめる「ジョブ型」から、集まった人のところに仕事が作られていく「メンバーシップ型」への移行を進めるべきではないか。
- 音喜多:全員正社員でなく、全員非正規社員で平等に働くことがベストでは。年齢等にとらわれず、仕事や実力に応じて働くことができるなど流動性を高めた方が良いのでは。
- 相原:もっと人的資本へ投資すべき。長期に渡って会社に在籍することで人的資本が高まってきたことが今の日本の強さでもある。そこを考慮した上で、今後どのような流動的な働き方を求めていくか。また、仕事をやめる要因のひとつに健康を害したことが挙げられる。働き方は定年制でも転職型でも良いが、労働者が健康でいられる選択肢や環境が一番大切。
- 田村:企業も定時退社推進等により社員の資格取得率や社外での人脈作りなど、仕事にも個人の幸福にも繋がっている事例や、働き方改革の先進企業は削減された残業代を社員に還元するなど、政府の政策を待たずに行なっているところもある。
- 西田:企業が「メンバーシップ型」から「ジョブ型」に変化することが企業にとって良いのであればそうすれば良い。定年制や社会保障改革を根本から変えましょうという議論も一度立ち止まって考える必要があるのでは。
- 岡本:働き方改革は社員が働きやすい環境を作り、従業員のポテンシャルを上げることが目的で、手段は色々あって良い。社員ひとりの人的資本への投資を日本全体で増やしていく方が、転職を繰り返したとしても最終的に良質な人材が育つのではないか。転勤などのオーナーシップは労働者の状況により労働者にもあることが望ましい。これまでは企業が潰れると失業者が出るため企業側を守ってきたが、人口減少によるパラダイムシフトが起こっているいま、守るべきは法人ではなく「働く人」だ。
- 音喜多:女性の妊娠出産のキャリア形成も、一度辞めて次の会社に正社員で転職できる仕組みがあれば良い。
- 西田:日本の企業体質に問題がある。長期に渡り続いている大企業にこそ価値があると思われていて、それ故に変革されにくくなっている。
- 岡村:若者は「自分が自分に合う会社を選んでやるんだ!」という意気込みで会社を選んだ方が良い。勤続年数や年齢に関係なく、やる気やポテンシャルのある人には責任ある仕事と正当な給料が与えられる仕組みにしてゆくべきだ。
- 相原:守るべきは働く人の所得や環境で、今こそ新陳代謝していかなくてはならない。先の参議院選で19歳男性の投票率は25%しかない。政治に参加する人口を増やしていくことが、100年時代を迎える社会保障制度の要にもなりうるのではないか。
実績を積み上げていくことが官民連携に繋がる
続いては「日本を代表するスタートアップを生み出すために官民はどう連携してゆくべきか」をテーマに、一般社団法人Pnika代表理事 隅屋輝佳氏、株式会社グラファーCEO 石井大地氏、つくば市副市長 毛塚幹人氏のパネラー3名とファシリテーターは株式会社Public dots & Company代表取締役、合同会社million dots代表 伊藤大貴氏の4名による議論が繰り広げられた。
- 石井:開業時の書類提出手続きがすごく大変だったこともあり、利用者がより便利になるよう民間向けにサービス提供を始めた。ある程度実績が増えたところで、始めは鎌倉市と業務提携した。行政には一旦予算措置があり、企業と違いやりたいことを即座にはできないが、一方で日本の行政措置はしっかりしていると言える。
- 隅屋:それぞれの知見を持ち寄ることで自分たちに合うルールを作って行けたら、個人や会社だけでなく業界全体の視野も広がり、より関わりやすい社会になるのではないか。政策を作っている方々には見えていない課題が現場の人には見えている。
- 石井:民間が行政サービスを作っていくには、条例や法令が関連してくる。行政とのやり取りの中で「規制を減らす」「今の制度内でできることをする」「 法律の解釈の中でできることをする」という規制緩和とは逆に、無法地帯にならないように規制を増やすよう行政に働きかけることもある。
- 毛塚:つくば市では毎週、社会実装トライアルの募集を行なっている。先に予算を取っておけば、外部委員会で審査し連携が決まった時点で即座に予算を出せるので、いち早く社会実装できることがつくば市の魅力になっていると言える。行政ができることはスタートアップなど新たなものに信頼を担保すること。つくば市は「未来共創プロジェクト」という枠を設けており、意見は全てこちらに集約される仕組みになっている。
- 隅屋:制度やルールを作る前に課題整理をすることや一度トライアルを行なうなど調整することも大事。つくば市は行政に求められている調整とルールメイキングをやっている。行政側が事業者に寄り添って実装していく仕組みはとても重要で素晴らしい。
- 石井:現在、鎌倉市や神戸市など、4都市の行政に関わっている。自治体の規模によるスピード感の相違は感じない。必ず「現場で何が起きているか」を見ながら進めている。日本の場合は1回事例を作ると、他の企業からもやりたいという声が上がってくる。
- 毛塚:つくば市では、業務の自動化(RPA)ソフトを導入したが、フォーマットが自治体や担当者で違うことがある。ある程度は国が決め、その後は自分たちに使いやすい形にしていくのが良いだろう。
選択的夫婦別姓や同性婚は
自分らしく生きるための手段の1つ
最後は「新しい時代のダイバーシティ・インクルージョン(選択的夫婦別姓・同性婚等)」をテーマに、法政大学高校3年 木村賢斗氏、Voice Up Japanメンバー、学生フェミニズムアクティビスト 山下チサト氏、弁護士・一般社団法人「Marriage For All Japan - 結婚の自由をすべての人に」代表理事 寺原真希子氏、立憲民主党衆議院議員 西村智奈美氏の4名のパネラーと、ファシリテーターは日本若者協議会代表理事、慶應義塾大学政策・メディア研究科修士1年 室橋祐貴氏の5名による議論が繰り広げられた。
はじめに、木村氏から昨今同じように扱われることの多いダイバーシティとインクルージョンについて定義の確認と解説があった。ダイバーシティは多様な背景を持つ人材が組織にいることを認識している状態、インクルージョンは多様性のある互いのスキルや能力を認め合い共に生きていくことを指す。
「LGBTだけでなく同性婚や選択的夫婦別姓においても『こうあるべき』という決めつけに苦しんでいる人がいる。当事者だけの問題であると考えるのではなく、当事者意識を持つことは欠かせないだろう」と語り、議論が始まった。
- 西村:立憲民主党では、同性でも民法上の結婚ができる「婚姻平等法」を国会に初めて提出した。氏を変えることは男性も女性もキャリアを変えることになる。選択的夫婦別氏制度(以下、選択的夫婦別姓)の意義は「自由な選択の幅を広げるためだ」と20年間伝えてきたが、まったく審査されてこなかった。
- 山下: 選択的夫婦別姓は認められるべき。96%の女性が結婚を機に男性の姓へと変えている。結婚するときにどちらかの姓に合わせなくてはならないことが結婚の大きな壁となっているのではないか。
- 寺原:苗字は産まれたときから自分と共にあり、周りから認識されてきたもので、キャリアや自分の人生、想いが詰まっている。結婚に際し苗字の変更を強制されること自体、人格権の侵害ではないか。氏を取り結婚しない、氏を失い結婚するという二者選択も起きている。結婚に対し、選択的夫婦別姓も同性婚もマイノリティーの差別を受けているところで共通点があると言える。自治体の制度なので、現在は相続や共同親権などの法的効果はない。
- 西村:自分は通称(旧姓・世間一般において通用している語)を使わせてもらえているが、運転免許証や戸籍の変更など、多くの場合は女性が担うことになってしまい、平等という点からも大きな問題であると言える。法律は制度や仕組みを変えることはできるが、人の考え方や心の中まで変化させることはできない。夫婦別姓や同性婚などが認められ、同じ社会で暮らしていることが当たり前になれば考え方も変わっていくのではないか。法律を作ることはインパクトにはなる。多様性は本来お互いを認め合うもので、個人の問題でなく社会の問題と捉えていけるようにしていきたい。
- 寺原:年配の方々にも関心を持ってもらえるかが大切で、普段のさりげない会話の中に話題が上がることで自分に近い存在と認識されていくのではないか。結婚しても名前を変えない女性は30%以上いる。事実婚を選ぶ理由は苗字を変えたくないからが一番だった。LGBTの弁護士の友達から直接話を聞いて、自分がどれだけ無関心だったか思い知った。自分らしく生きたいと思っている中の1つの手段として、同性婚等があると認めてほしい。
- 山下:日本は結婚やメディアの「女・男らしさはこうあるべき」という決まった枠組みにとらわれ過ぎている。自分も友人がカミングアウトしてくれたことで、見えていなかったバリアの存在に気づくことができた。
- 木村:多様性とは、姓の問題だけでなく障害や人種・宗教の問題なども含まれている。今後は1つの違いが自分の個性として認められていくことが望ましい。
* * *
今回のカンファレンスでは、多岐にわたるテーマでさまざまな世代の登壇者たちに議論され、若者と意思決定者、専門家が双方の意見を直接議論できた時間は、参加している筆者にとっても有意義な時間となった。まさしく多様性のある場だったように思う。
互いの意見を全面的に受け入れなくても、認め合うことは対話を重ねる中でできていくと感じている。このような場が個々人の間でも増えていくことが、世界平和への一番の近道だと信じたい。
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