自動運転、ロボット、GPUサーバーまで多様なエコシステムを体感できたGTC2019
GPU Technology Conference(GTC)は、NVIDIAの持つテクノロジーと製品を存分に体験するカンファレンスだが、当然のように自社だけでは限界があるため、様々なパートナーとの協業が必要になる。IT業界のカンファレンスでは、パートナーの展示やセッションの点数や規模がその技術のエコシステムのサイズを推し量る物差しになっている。
今回のGTCにおいては、GPUをベースにハイエンドグラフィックスから人工知能、自動運転やロボティクスまでカバーする幅広いパートナーエコシステムが、セッションや展示ブースで展開されていた。今回の記事では、展示ブースのようすを紹介するとともに、GTC会場の近くで開かれていたXilinxのブリーフィングについても簡単に説明したい。
存在感を示す自動運転技術
NVIDIAのブースには多くの製品、ソリューションが展示されていたが、特に目立っていたのは自動運転の装置を付けた車輌だろう。
これくらいのセンサーを載せないと自動運転は難しいと見るべきなのか、それとも以前に比べて小さくなったと見るべきなのかは難しいところだ。他にも多くの車輌が展示され、それぞれ差別化に苦労しているようすが見て取れた。
セダンであれば、このセンサー機器に加えてトランクにはコンピュータ類が格納される。
トラックであれば車輌のサイズ自体が大きいからかあまり目立たないが、それでも両側に設置されたカメラとLIDAR(Laser Imaging Detection and Ranging、レーザーによる画像検出と測距)、ルーフには複数のカメラというように、重装備なのは変わらない。
参考:GTC 2019ではFacebook、Google、Walmartなどによる人工知能関連のセッションが満載
他にも「自動運転マシン」というエリアにはBoston Dynamicsの自走ロボット、SpotMiniによく似た形状のロボットが展示されていた。これは円筒上の不安定な板に載ったロボットがバランスを取るというデモだが、センサーからのインプットを元にバランスを保つように制御することを高速に実行する必要があり、参加者の注目を集めていた。
他にも自動配送のための小さなカートが複数展示されており、画層認識を使った自走システムはサイズの大小に関わらず、かなり進化していることが感じられた。
これも別の自動配送カートの例。常に多くの参加者が興味を示していた。
以前、デンソーのプレゼンテーションでデンソーが目指すMobility-as-a-Service(MaaS)の中に、公道を走るクルマだけではなく工場内を移動するカートも視野に入れていることを聞いた際に、いわゆるファクトリーオートメーションの領域にも自動運転によるイノベーションの可能性が多く存在することを認識したが、ここでもそれが見て取れた。
NVIDIA製ハードウェア
ハードウェアではNVIDIAのDGXが文字通り、光り輝いていた。
なおPure StorageもDGXを組み込んだストレージ、AIRI(AI-READY Infrastructure)を展示していた。下半分に4台のDGX-1を、上にPure StorageのAll Flashストレージを搭載して組み合わせたターンキーシステムだ。
大手ソフトウェアベンダーは展示よりもセッションが中心?
ソフトウェアベンダーのブースに目を移してみると、Microsoft、Google、AWSはいずれも地味な印象でそれほど人を出していないというようだった。展示よりもセッションで自社のメッセージを伝えることを優先したという感じだ。
ジョブボードを置かないのがNVIDIA流?
展示ブースの外では、グッズや書籍を売るブースも設置されて賑わっていた。カンファレンスで発表されたJetson NanoのDeveloper Kitも$99という低価格になっていることもあり、かなり売れていたのが印象的だ。
通路にはNVIDIAのソリューションを使った企業や大学などからリサーチペーパーが掲示されており、ホワイトボードに張り出された情報を熱心に読み耽る参加者も目立っていた。
非常に興味深かったのは、この手のカンファレンスには当たり前に存在するジョブボードが見当たらなかったことだ。企業が人材を探している、またはエンジニアが自己アピールをする場所としてのジョブボードは、オープンソース系のカンファレンスでは目立つ場所に置かれているのが当たり前だし、参加バッジに貼る用に「人材を探しています」などのステッカーを用意することもあるが、NVIDIAのカンファレンスでは当たり前ではないのかもしれない。
近所で開かれていたXilinxのブリーフィング
最後に、GPUのコンペティターとなるFPGAのリーディングベンダーであるXilinxのブリーフィングの情報を付け加えたい。GTCのように数千人という規模で人が集まるカンファレンスの場合、競合他社はそのカンファレンスにはスポンサーとしては参加出来ないものの、ターゲットにしている見込み顧客がそこに集まっていることから、カンファレンスが行われる場所の近くで特定の見込み顧客やメディアを招待してブリーフィングを行うことがある。明示的にそのような「会合」を開くことを禁止する企業もあるが、NVIDIAはそうではなかったようだ。実際、GTCの会場から道を挟んだ向かいの会場でXilinxのブリーフィングが行われた。Xilinxに関しては以前書いた記事を参照して欲しい。
参考:GPUの隠れた競争相手、推論を高速に処理するFPGAとは? ザイリンクスに訊いた
Xilinxのブリーフィングはテーマがあるわけではなく、招待された側の興味によって対応するというものだったが、Automotive Strategy and Customer MarketingのDirector、Dan Isaacs氏がデモを交えて紹介したのは、DFX(Dynamic Function eXchange for ADAS)という機能についてだった。
これは数年前から様々なイベントなどでデモされている機能で、FPGA上のプログラムをリアルタイムにスイッチすることで一つのFPGAに複数の処理を実行させるものだ。具体的には車輌の前後に設置された車載カメラからの映像を切り変えると同時に、別の画像認識ロジックにスイッチして処理を行うというものだった。ロジックの切り替えには電源OFFも必要なく、文字通り瞬時に切り替わるのが印象的だ。
デモ自体はすでに何度も披露されていることから目新しいものではなかったが、少ないリソースで高速な演算を切り替えて実行できるFPGAの良さが現れているものだった。
GPUをベースにしたNVIDIAのソリューションは自動運転、画像認識、機械学習など応用が拡がるに従って増していくだろうが、パートナーや競合他社も含めたエコシステムの存在なしには成り立たない。GPUにもFPGAにも、顧客の選択肢を増やす意味からも切磋琢磨を続けて欲しいと思う。そういった見地からすると、Alteraを買収した後もFPGAにはあまりやる気の見えてこないIntelの戦略が気になるところだ。
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